種シリーズ小話:銀狼譚
▼ 小種47『世界に根付く』(エミル視点:本編より)

「―― ……それで、何か他に収穫あった?」

 マシロとアルファ・シゼの姿が完全に見えなくなってから、僕はぽつと問い掛けた。カナイはその問い掛けに「いや」と首を振り、飲み掛けになっていたお茶に口をつける。

「そう。レニ司祭は本当に食えないな……心うちを見せそうで見せないから余計に深い」

 苦手なタイプだよ。と、ぼやいてぐんっと背伸びをする。

「僕にいってないくらいだから、カナイ、ラウ博士にいったりしてないよねぇ?」
「ん、何を?」
「いってないんだよね……あの人の情報源も気になるなぁ……」

 マシロたちが授業に出ている間に、資料としてかき集めていた本の返却に一般公開区域にも足を運んだ。そこで久しぶりに司書官のカーティスさんに声を掛けられた。

 彼が声を掛けてくれるときの内容は大抵決まっている。

「今日は陽だまりの園の子どもたち来館する予定が入ってるぞ?」
「あ、ああ、そうですか? 午後一ですか?」
「ああ、そうだ。エミルも大変だな」

 にこにこと人の良さそうな笑顔で僕の肩を叩いてくれたカーティスさんは良い感じで誤解してくれていた。
 僕が『陽だまりの園』のことを知りたがったのは、シゼのためだと思っている。もし、そうだとしたら時期がかなりずれているということまでは、きっと考えもしないのだろう。

 深読みをしないタイプの人でとても助かる。
 
 だから、昼食のときにでもマシロを掴まえようと思ったのに、寮へ戻るときに「ちょっと良いですか?」とラウ博士に掴った。

 あれさえなければ、今日もマシロは彼らと顔を合わせることなく、一日を普通に終えられたのにと思うと、意図的なものを感じなくもない。

「おーい」

 午後のことを思い出して、はぁと溜息を重ねたら、カナイに目の前で手を振られていた。はたっと気がついて、目で問い返せば「どこまでいってんだよ」と笑われた。

「それから『聖女像』も崩れてない。月を写したような銀髪の、性別を感じさせない男装の麗人だと思ってる。すぐあと教会に出入りしている奴に確認したから間違ってないはずだ」
「思い当たっても、民間の人たちはあそこには近寄りたがらないだろうからね。ラウ博士はレニ司祭に素養を見る目はないといっていたから、スルーすると思ったんだけどなぁ。星を見る目が思っていたよりも強かったのかな? 今日の様子じゃ、油断ならない感じだった……」

 何かから逃げるなんてこと、出来ない。ということだろうか? ……それが例え異世界から来た彼女であったとしても。

 でも ……――

「それってつまり、マシロが世界に取り込まれてるってことだよね?」
「は?」

 突然、変な方向に話を纏めた僕にカナイはきょとんと目を丸めたけれど、僕は重ねなかった。

「何でもない。ちょっと思っただけだから。部屋に戻ったらアルファに伝えておいて、教会のほう目を離さないように……」
「どこ行くんだ?」

 告げて立ち上がった僕に重ねられる。

「シゼのところ」

 ああ、あと、ラウ博士のところね。と付け加えてから、にこりと手を振って僕はその場を離れた。

 何か、なんて起こらないほうが良いけれど、でも……シル・メシアには逃れられないことのほうが多いから……

 廊下から差し込んでくる陽光は暖かい。
 でも外は冬へと向っている。

 季節に目を向けることなんてなかったけれど、マシロは寒いの大丈夫なのかな? と、ふと思う。このときはまだ初雪を迎えたら、少し外に出てみようかな……そんなことを楽観的に考えていた。



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