種シリーズ小話:紅譚
▼ 小種2『夢だから良いよね』


「ねぇ、マシロちゃん。僕すごーく不思議に思ったんですけど」
「ええっと、はい?」

 一通りの話を終えて買い物へ出掛けるため、四人で肩を並べて廊下を歩く。
 寮は本棚以外の廊下の壁はガラス張りだったりして、明るく気持ちが良い。殆ど館内で過ごしてしまう引き篭もりがちな図書館生に優しい造りだ。
 そんなときにアルファから声を掛けられて、私は難しい質問とか答えに難いものだったらどうしようかと少し不安になりつつも真っ直ぐにアルファを見る。

 うっ。

 綺麗な目だ。
 青く澄んだ瞳に私はどう映るんだろう?
 いや、そもそも同じ色に見えてるのかな?

 刹那トリップ仕掛けた私にアルファは「マシロちゃん?」と重ねて私の注意を引き戻した。

「どうして、マシロちゃんは『薬師の種』なんて飲んだんですか?」
「え? どうしてって、ここなら世界の全てが書き記してあるから、元の世界に戻る足がかりが見つかるかもしれないってブラックがいうから……」

 私の台詞にアルファは、ふーん……と、相槌を打ったあと、暫らく考えて一人で「ああ」と納得したようだ。どうかしたの? と、首を傾げた私に「うん、大したことじゃないんですけど」と、アルファは笑って話を続けようとして「カナイさんはどう思います?」と前を歩いていたカナイにも話を振った。

「まあ、確かにここにない書物は他に存在しないだろうしな」

 少し歩くスピードを落としてカナイはそう答え納得していたようだが、少し首を捻り唸る。
 それに乗っかる形でアルファが「ねー、不思議でしょー?」と話を続ける。

「図書館生っていっても、薬師階級の生徒ばかりじゃないんですよ? 他の階級だったら女の子が居るところだってあるのに、わざわざ薬師って」

 アルファの聞き捨てならない台詞に私はストップを掛けた。

「他の階級って何?」
「ここは、お前が思っているよりずっと多くの生徒が居るんだ。その全てが薬師なわけないだろ? 薬師にしたって細分化していろいろあるんだ……まあ、取り合えず……騙されたな」
「あ、やっぱり、騙されてますよね?」

 カナイの見解に楽しげに相槌を打つアルファを見て私は益々眉を寄せる。そんな私にエミルはお日様のような笑顔を私に向ける。

「でも、そのお陰でこうやって僕が面倒見て上げられるんだから、僕としては幸運だよ。それに闇猫も読み違えたってことだと思うし」
「……まあ、読み間違いかどうかは分からないけどな。少なくともマシロが、この程度で音を上げるしおらしいタイプじゃないというのが分かって」
「どの口がそんなこというのよ!」
「いたたたたた……やめ、やめろって! 口引っ張るな!」

 憎たらしい台詞を吐くカナイの前に回りこんで口を引っ張った。
 ほぼ面識のない相手にすることじゃないのは分かってる。分かってるけど、どうせ夢なんだから変な気を使わなくても良いだろう。と遠慮は捨てた。

 そんな私の手をカナイは大げさに痛がってから捕まえて無理矢理降ろす。

「だから、お前がこんな生活耐えられない! ってなれば、闇猫の元に戻るしかないわけだろ? あいつはお前に執着してるみたいだからな。なんといっても自分で保証人になるくらいだし? 自分から戻ってきてくれれば万々歳と思っていたんだろ?」

 お前思慮深そうには見えないもんな。と重ねたカナイの口を掴まえられていない、もう片方の手で捻った。

「あいたたたた……だ、から、やめろって」

 俺に絡むな、と私の両手をぽいっと払ったカナイの勢いに、足元がふらつくと至極当然というようにエミルが肩を支えてくれる。
 見上げた私に眩しい王子様スマイルで「仲良くなってくれて良かったよ」と告げる。

「なな、仲良くなんか!」
「有り得ないな」

 焦った私とは対照的で、カナイはそうあっさり口にした。その返答に頬を引きつらせると、アルファはけらけら楽しそうに笑っていた。

「退屈しなさそうで良かったですねー」
「……えぇっと……」

 何がなんだか

 分かることといえばやっぱり私の夢……みんながみんなしてマイペース過ぎる……。

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