備中原の春日神社の北方にあたるところ、阿知川の河岸傾斜地の中段に一基の橋供養塔があります。これは中関へ通ずる古道のほとりで、この供養塔から阿知川に架けられた元橋までの距離は300メートルほどもあり、塔の位置からは元橋の架橋場所は見えないばかりか、その方向さえも適確には測り難い場所です。
この供養塔は自然石そのままを礎石として建つ塔の高さ150pの大きなもので、正面は阿知川の方向すなわち北面して立ち、正面と左右の三方は舟形に掘りくぼめて、それぞれに図のような刻字があり、正面下方には蓮花が刻まれているなど、比較的丁寧な造り方です。
まず正面には上部に阿弥陀如来を標示する梵字(キリーク)があり、つづいて「南無阿弥陀仏 正徳六年丙申天、三月六日、施主、備中原村原折右門」と三行に、向かって右面(西面)には上部に観世音菩薩を標示する梵字(サ)を冠して「橋供養塔 地主原徳次郎、元禄十六未年、二月十五日」とあり、さらに左面(東面)には勢至(せし)菩薩の種字(サク)を冠して「橋造掛村々」と彫られています。つまり、塔の三面には、阿弥陀三尊を表わす梵字を配して、この塔建立の願望と時期、関係者を表示してあるわけです。
この橋供養塔という石塔は、全国的にみても数少ないものらしく、飯田下伊那では二基が報告されているだけです。
(S58・4)