■他に何か大事にしていることはありますか。


八鍬 「不登校・ひきこもり」問題に対処する場面で中心的に関わるのは、やはりお母さんである場合が多い。だから、お母さんが元気でいることが一番大事、という話にはなりますね。あれこれで疲れているお母さんが会を訪れたときには、心身ともに元気を取り戻してもらってからでないと、家庭には返せないという思いです。だから、まずこの会に来たら、言いたいことを吐き出してすっきりしてもらって、気持ちを楽にして帰って、次の日からまた頑張ってほしい。そんな思いですね。会の名前もそこから来ているわけです。
定例会も、まずは気持ちをリラックスさせることから始めています。「自律訓練法」という自己暗示法=治療技法があるのですが、それを用いています。CDがあるので、それに沿って進めていきます。「自律訓練法」はご存知ですか。


■具体的に何をするのですか。


八鍬 簡単に説明すると、まず身体をリラックスさせた状態で、目をつぶって静かにその呼吸をしながら、CDの指示する言葉に沿ってイメージ・トレーニングをしていくわけです。例えば「両手が重い」とか「身体が温かい」とか。静かな空間と時間のもと、静かな声で呼びかけられることによって、深く呼吸をし、日常的に働いている交感神経とは別の副交感神経を働かせる。それによって、身体や気持ちがリラックスできて、肩に力を入れずに話ができるようになるんですよ。これは、毎日の生活の中で繰り返し実践することで効果が出てくるものなのですが、一回しただけでもみなさん「気持ちがいい」「身体が温かくなった」と効果を感じていただけているようなので続けています。
菖蒲 日々の生活に追われていたり悩みを抱えて緊張が高まっていたりすると、「何でも自由に話して」なんて言われても、そんなに簡単には言葉が出てこない。だからまずは、自律訓練法によって、身体に直接働きかけてリラックスした状態をつくりだそうというわけです。


■日常モードのリセットというか、そこからの切り替えをするための工夫なわけですね。


菖蒲 そんなふうに、「ほっとできる」ということをまずは大事にしていきたいわけですから、何らかの理論や学派に属して、系統だてて活動を進めているというようなものでは全然ないんです。なので、会を縛る特定の哲学のようなものが明確にあるわけでもない。もっと折衷的で無節操です。良いと思えるやりかたであれば取り入れるし、そうでなければ取り入れない。むしろそれが逆にいいんじゃないですかね。ある意味、誰でも受け容れますよということですから。


■なるほど。特定の理論や思想にこだわっているわけではないというわけですね。


菖蒲 「不登校・ひきこもり支援」の世界って、どちらかというと、NPOとして信念をもって情熱的に活動なさっているような人びとの方が多いと思うんですね。でも「hotto(ほっと)する会」の場合は、そういう強い思いや信念があるわけではないんです。もっとふわっとしている感じですね。悪く言うと、勢いがないということなのかもしれませんが。


■何かを具体的に解決するために、それを目的に集まっているわけではないということですね。


八鍬 そうですね。スタイルとしては、茶飲み話や井戸端会議に近い。そこで愚痴を言い合って、ちょっとすっきりして家に帰る、という感じです。
とにかく、みんな素人なわけです。「不登校・ひきこもり」についての専門家という立場の人がいない。だからこそ、素人なりの考えで、面白そうだと思えば何でも吸収できるし、取り入れられる。結局入り口はいろいろでいいと思うんですよ。最後に目標地点で合流することができればね。