■「hotto(ほっと)する会」の活動を始めたそもそものきっかけや動機は何ですか。 八鍬 そこに至る経緯も含めてお話します。発端としては、新庄市の教育委員会が主催している適応指導教室がありまして、そこは不登校の児童生徒が対象の教室なのですが、あるとき、そこに子どもを通わせている保護者たちの間で「親同士で語り合える場があるといいね」という声があがったんですね。それをきっかけに、一九九四年、新庄市教育委員会の所管で「気楽に話し合う会」という、小・中学校の不登校児童生徒を抱える親たちを対象にした「親の会」がスタートしました。 この「気楽に話し合う会」は現在も続いていて、偶数月第三火曜日の夜、新庄市の施設「わくわく新庄」相談室にて開催しています。ちなみに、適応指導教室もそこにあります。相談室には、菖蒲さんを含む四名の教育相談員の方々がいて、毎回「気楽に話し合う会」にも菖蒲先生ともう一人の教育相談員の方が参加してくださっています。私たち「hotto(ほっと)する会」の発起メンバー五人は、この「気楽に話し合う会」に集まって繋がった仲なんですね。 ところが、この適応指導教室というのは市の教育委員会が主催している場であるため、あくまで対象は小・中学校の不登校児童生徒なんです。不登校・ひきこもりなどが長引き、年齢を重ねていくにつれて、親たちそれぞれの問題意識や悩みの内容がだんだん重なり合わなくなってきたし、義務教育の枠内では話せないことも多くなってきたんですね。それで、教育委員会からはちょっと距離を置いて、行政の枠内での活動ではなく、もっと自由に、自分たちなりの活動ができる場をつくっていこうということで、この「hotto(ほっと)する会」を始めたわけです。 ■適応指導教室の保護者の会の「枠」とは、具体的にいうとどういうことですか。 八鍬 自分の場合は息子がひきこもりなのですが、そういう悩みで苦しんでいる親たちは、義務教育との関わりが切れてしまうと、どうしても世の中との繋がりが途絶えがちになり、世の中に出て行きづらくなってしまうんです。この新庄・最上地区において、同じような境遇のもと、同じような悩みをもち、それを話し合える場を求めているような人たちは、自分たち五人以外にもきっともっとたくさんいるはず。それなら、まずは新庄・最上地区にそういう場を一つつくってしまおう、そう思ったんです。内容云々より、「この町にもあるのだ」という事実それ自体がまずは重要ですからね。 ■管見の限りですが、新庄・最上地区には、こちらの「hotto(ほっと)する会」以外に「不登校・ひきこもり」対象の民間支援活動がないわけですよね。他の地域に比べて、こちらでそういう活動が生まれにくいのはなぜでしょうか。 菖蒲 やはり、家族が抱え込んでしまうからではないですかね。相談に行くということを選択肢にもたないような家庭が多いと思います。閉鎖的な地域性もあるし、隣近所との関係性や距離感が近すぎるというのもある。そう考えると、地元ではそういった悩みを相談しづらいという感覚があるんじゃないですかね。市役所や役場の相談窓口に知り合いがいるような地域ですから。 ■では、他所の地域に相談しに行くわけですか。 八鍬 庄内とか村山とか、他所の地域にそれを求めて出掛けていくという話はよく聞きますね。 ■なるほど。であればこそ、そういう地域性の中であえてこうした活動を始めたということの意味はとても大きいわけですね。話を逸らしてしまいました(笑)。先ほどの続きをお願いします。 菖蒲 はい。そんなふうに「新しい会を立ち上げよう」ということでちょうど話がまとまりかけていたとき、たまたま新庄市による「平成一八年度 市民提案型協働パイロット事業」という市民活動支援助成の募集があったんですね。それで応募してみたところ、助成対象として採用してもらえたわけです。当然ながら、団体にはまだ何の基礎もなかったので、まずはこの団体の存在を知ってもらおうということで、それに適しているであろう講演会を開くことにしたんです。「hotto(ほっと)する会」の設立記念講演という形ですね。講師には「小国フォルケホイスコーレ」の武義和さんに来ていただきました。 ■参加者はどのくらいいましたか。 菖蒲 六〇人くらいいましたね。当事者の親たちや関係機関の職員、学校関係者などがその大半でしたが、中には当事者の若者の姿も若干ありました。講演会の後は、参加者の人びととの交流会を開いたのですが、そちらには三〇人くらいが残っていました。以上が、私たちの会の出発点ですね。 ■その後は、どういう事業を企画してきましたか。 菖蒲 基本的に、私たちの会は予算がとても少ないんですね。団体の財政としては一万円あるかないかです。そういうわけで、基本的に、無償で来てくださる方でないと講師として呼ぶのが難しい。実際には、庄内地域若者サポートステーションから臨床心理士の方に来ていただいて、研修会という形で学びの場を提供したのが、唯一の企画ですね。庄内地域若者サポートステーションの方にはそれ以外の場面でもご協力いただいていて、大変に助かっています。 |