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「富士山に鉄道構想浮上」?

 11月18日付山日新聞の社会面トップの見出しに驚いた人が多いのではないでしょうか。山日新聞をお読みでない人のために概要を紹介します。

県議8人で検討会
 中見出しは「郡内地域県議団 検討会設立、研究スタート」 リードの最初は「富士山の環境保護や観光振興を目的に、山梨県側の五合目まで鉄道を敷設しようという構想が富士北ろくで浮上している。郡内地域選出の県議団が実現の可能性を探る検討会を設立し、県などへの政策提言を視野に研究をスタート。富士五湖観光連盟も意見交換のテーマに取り上げるなどして議論を深めていて、専門組織の立ち上げも今後検討する考えだ」。
 記事は富士五湖観光連盟(堀内光一郎会長)が賛意を示していることを紹介する一方、1960年代の五合目―山頂間の「トンネル・ケーブルカー」構想や、県が93年度からケーブルカーや電気バスを軸とした「新交通システム」の導入を検討した経過を紹介しながら、ともに景観や自然環境への負荷の面から立ち消えになったとしています。また、大月短大名誉教授の田中収さんと県環境科学研究所自然環境・富士山火山研究部長の輿水達司さんが「慎重に」と注文をつけていることを紹介しています。

「何を考えているやら」
 この記事を読んだ人たちの反応は驚くと同時に「あきれた」でした。前述のような歴史を知る人たちは無謀な計画が実現するはずがないと直感するからでしょう。また、現在世界遺産(文化遺産)登録をめざしていることとの関係で、それを妨害しようというのかという声もありました。世界遺産登録にはいろいろな条件がありますが、現状を保持することはその前提で、当初河口湖の観光業者が登録を渋ったのは観光事業の制限を危惧したからです。
 政治の世界で暮らしや景気が大きなテーマになっている折から県議団の政治感覚に首をかしげる声もありました。

歴史が示すもろい山
 富士山が崩れやすい山であることは国土交通省富士砂防事務所の報告で明らかです。報告によると富士山西側の大沢の崩壊は年に約16万立方メートル、10トン積みダンプ3万2千台分にもなるそうです(研修参加者報告)。このため静岡側ではさまざまな被害が出ていて、生活にも影響しています。山梨側では1980年に久須志岳直下の岩が崩落し吉田大沢で死者12人、負傷者31人という事故が起こりました。
 富士山はスコリア(粒状噴出物)でできていて、水はすぐ抜けてしまいます。ですから植物は簡単に生育できません。中腹まではわずかな表層土(コケ)がカラマツやシャクナゲなどを育て、オンタデ、イタドリなどが生育する層を上に広げていますが、崩壊とどちらが早いかといった営みです。
 火山活動への影響を懸念する声もあるなか、県議たちは鉄道建設と富士山保護が本当に両立すると思っているのでしょうか。