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「都留市の方言」発行に感謝する

 残暑お見舞い申し上げます。
 お盆休みに、今年3月に発刊された「都留市の方言」(都留市郷土研究会著)を楽しませてもらいました。

待ち望まれた「地域の言葉集」
 国語辞典の中で、収録された語彙が最も多いのは平凡社が昭和11年に発行した「大辞典」でしょう。全26巻に納められた語彙は72万語、現国語辞典の最高峰「日本国語大辞典」の50万語、「広辞苑」の24万語と比べればその多さが分かります。「大辞典」は昭和29年に縮刷版として再刊され、さらに昭和49年に復刻、なんと全2巻で再々刊されました。私の手元にあるのはこの2巻の復刻版です。
 この辞典の語彙の多いのは方言が収録されているためです。ところが、この中の山梨県の方言の出典は昭和8年発行の羽田一誠著「甲斐方言稿本」だけで、「都留市の方言」の「あとがき」で瀧本光清氏が言われるように、郡内と国中の区別もありません。他県の方言が鹿児島県の8冊、長崎県の7冊を筆頭に多くが複数の出典に基づき地域まで区分されているのに比べて寂しい限りです。
 「都留市の方言」は、この発行を機に、今後は例えば「びしゃら」の解説に「山梨県都留市」という解説をつけることができるようになるという点で、都留市の言葉文化の画期をなすといえるのではないでしょうか。
 国語辞典が好きというだけの門外漢ですが、これまで識者の手で地域ごとに発行されてきたものも生かして、集大成した「郡内の方言」が発行されればと夢は広がります。

言葉の交差点
 お盆に楽しんだのは、ほかならぬ「都留市の方言」と「大辞典」の照合でした。
 帰省した子どもたちに「小さいとき『暴ける』なんて言ったかい?」と聞くと、妻が横から「『暴ける』って方言なの?」と口を挟みました。「普通に使っていた」という妻は神奈川の伊勢原の生まれです。「大辞典」には「山形県村山地方・置賜地方・神奈川県平野一帯」とありました。山梨県はありませんから「甲斐方言稿本」には収められていないのでしょう。「あいさ」(間)は新潟・群馬から京都・徳島まで広範囲で使われていますが、周辺では静岡だけです。ここにも山梨は出てきません。そのほか「いぐすり」(いびき)は山梨と静岡、「いじゃろ」(いざる=ざる)も山梨と静岡、「うし」(稲架)が神奈川県津久井郡・静岡県東部など、さらにいくつかを調べて、都留市は神奈川と長野、静岡と群馬などとの交易に伴い言葉の交差点になっているという印象をもちました。

メダカはいたか
 「はりめんきょう」(メダカ)の解説に疑問が寄せられました。「この辺りにメダカはいなかった。『はりめんきょう』はウグイやハヤの子のこと」と。
 忍野村のさかな公園に行った機会に「都留市付近にメダカはいたでしょうか」と聞くと、少しあいまいでしたが「あれは平地の小川や田んぼにいる魚ですからねぇ」という答えが返ってきました。