愛読者になったばかりなのに

 5月29日のテレビニュースで米原万里さんが亡くなったことを知りました。56歳という若さです。惜しんで余りある人です。
 先輩から「読んでおいたほうがいいよ」と勧められて、彼女の著書=文庫本を古書店で4冊求めたのは半年ほど前でした。古書店で求めたのは地元の書店になかったのと、まずは文庫本でも読んでみよう(おかしいですね)という気持ちからです。しかし、少し読んで「これはすごい」と思いました。

米原万里の前は藤原正彦
 この数年、エッセイで楽しませてもらったのは藤原正彦さんでした。「父の威厳」を笑いの種にした家族とのやり取りはさわやかで記憶に残ります。米原万里さんがロシア語なら藤原正彦さんは英語です。
 英語力のある彼は、小学校の英語教育導入に反対して「日本語をきちんと身につけることが先だ」と論陣をはり、「クラスで一番英語ができたがアメリカやイギリスにはもっと上手な人がいっぱいいた」と笑わせます。数学者が「数学のためにも」という主張は説得力があります。米原さんの「日本語の下手な人が学ぶ外国語は、日本語よりさらに下手にしか身につかない」という主張と共通しています。
 しかし最近、ベストセラーになった「国家の品格」で、大上段に「武士道」を日本精神の柱とせよ、「民主主義」の上に置けというような主張をするようになって、色あせて見えるようになりました。アメリカ主導のグローバル化とたたかう姿勢はいいのですが、アメリカ=欧米と単純化し、日本人の心を「武士道」でまとめようというのは無理があります。メディアが評価してベストセラーになっても愛読者が同調するかは疑問です。

  たくさんの事実に説得力が
 米原さんの本は、4冊のうち3冊まで読んだところでした。通訳の仕事から伝わる「ソ連崩壊」の臨場感、さらに国際的話題は「ロシア」を超えて広がります。博識ぶりに驚かされます。
 そんな彼女が描く日本の異常な政治、「魔女の1ダース」の中から「悪女の深情け」の後半の一部を紹介します。

 たとえば、突然飛躍して、わが国の外交の基本とも礎(いしずえ)とも言われる日米関係。絶対的圧倒的に日本側からの一方的片思い、報われない思いやり、反論無しの唯々諾々、善し悪し見境ない追随なのである。ひと頃『NOと言える日本』なんて本がベストセラーになるほど、日本の対米追随ぶりは醜悪このうえない。しかも、そんな日本を、いやむしろ、そんな日本であるからこそ米国は軽んじているし、侮っているのは(その具体例は際限ないのでイチイチあげない)、至極当然の成り行きだ。虎の威を借る狐タイプが、決して愛されず、尊敬されないのは、国際社会でも例外ではない。米国だけでなく、他のすべての国々にも軽蔑されていることは、国際会議に出てみれば、よほど鈍感でない限り、ひしひしと感じとれる。人も国も自己を尊敬しないものは、他者からもさげすまれるのは必至。

 「小泉さん、アナタにとって愛国心て何?」と言っているようです。
 合掌


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