昔、国鉄に勤めていました
107人もの犠牲者を出したJR西日本・福知山線の脱線事故は、元国鉄マンにとっていたたまれないものでした。特に情けなかったのは、次々と明らかにされる事故直後の職員の行動です。なぜ、事故現場を中心に考えられないのか。
JRと日本航空に共通するもの
私の職場は大月駅でした。大月駅で機関車の脱線事故があったとき、テレビで知った職員は、すぐに駆けつけ復旧作業に当たりました。特別のことではありません。職業人なら誰でも同じ行動をとるでしょう。JRになって、その常識がくつがえっているのです。
いま、職員に対するいじめともいえる「日勤教育」の実態が明らかにされてきていますが、その源流は民営化にあります。
国鉄の分割・民営化にさいして自殺者は200人を超えたといいます。国労組合員のJRへの採用拒否は1000人を超え、家族をも塗炭の苦しみに陥れました。そして「日勤教育」。徹底したみせしめで、もの言わぬ労働者、自分で判断しない、判断できない労働者を作ってきた歴史です。もちろん、「安全よりも稼ぎ優先」を告発する労働者もいます。
御巣鷹山事故で520人の犠牲者を出した日本航空、この会社を舞台にした長編小説「沈まぬ太陽」を書いた、山崎豊子さんは「あとがき」で次のように述べました。
「一九九一年十月、はじめてアフリカの大地を踏みしめた。…その地にいる或る一人の人物を訪ねての旅であった。組織の中で糺(ただ)すべきことを糺したため、海外の僻地を十年にわたって流浪した現代の流刑の徒≠ニもいうべき人の生様(いきざま)を描こうという構想を抱いていたからだった。…主人公の勤務する組織が多くの人の生命を預かり、何よりも人間愛を優先しなければならぬ航空会社であるからには、その非情さは許されないことであり、人間性の破壊である。この人間的な要素が複雑に絡み合って、事故をひき起こしやすい素地に繋がっているといえる。…」
根底に国の規制緩和策が
JRは新型ATS設置のための予算を大幅に減らしていました。必要な技術者を95年から03年の間に1450人減らしていたことも分かりました。こんなことが認められるのは政府の規制緩和策があるからです。北側国交相にJRを批判する資格はありません。
JRが投げ捨てた国鉄の「安全綱領」は、人の生命を預かる輸送機関の責務を考えて良く練られたものだと、今にして思います。
綱 領
1、安全は輸送業務の最大の使命である。
2、安全の確保は、規定の遵守及び執務の厳正から始まり、不断の修練によって築きあげられる。
3、確認の励行と連絡の徹底は、安全の確保に最も大切である。
4、安全の確保のためには職責をこえて一致協力しなければならない。
5、疑わしいときは、手落ちなく考えて、最も安全と認められるみちを採らなければならない。