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「リニア」と「空き家」の本

 特に「お盆休み」というわけではありませんが、通常、お盆前後に議会は会議を開きません。ということで、頭が議会から離れた機会に2冊の本を読みました。1冊は「リニア新幹線 巨大プロジェクトの『真実』」橋本禮治郎著 集英新書です。もう1冊は「『空き家』が蝕む日本」長嶋修著 ポプラ新書。こちらは来週取り上げる予定です。
 「リニア」の著者は政府の政策にさまざまに関与した経歴を持つ経済学者です。国鉄の分割民営化を高く評価しており、当然、私などとは立場が違います。インターネットのウィキペディアでは「『日本経済新聞』1985年7月25日付の経済教室欄「公共投資:実需に沿った優先順位を」では、東京湾横断道路(東京湾アクアライン)計画には必要性や採算性が乏しいことを指摘し、この懸念は現実のものとなった」と先見性を評価されています。

  実体が知られていないリニア
 著者は、「はしがき」のなかで「世界のどこにもない超電導磁気浮上方式で、また建設費がわが国の年間公共事業費を大幅に上回る約9兆円(建設中金利を除く)という壮大な鉄道建設計画であるにもかかわらず、海外はもとより国内でも国民の関心がきわめて低く、計画の実像については殆ど知らされていない」と指摘しています(実験線のある都留市ではかなり知られていますが・小林)。そして「運転士がおらず、遠隔操作で走る高速鉄道である。現在計画中のリニア新幹線は、深い地下と山岳トンネル内の走行区間が全路線で71%(東京―名古屋間で86%)で、途中の車窓からは富士山も美しい自然景観も殆ど見られない。低速走行のためのタイヤはあるが、レールも架線もなく、電磁力で地上10cmを浮上して走る……”地下トンネルの中を飛ぶ航空機”だと言っても過言ではない」と、リニアに対する見方を土台に据えています。そして「着工直前のいま、リニア計画に問われているのは、多くの国民に喜んで利用してもらえる鉄道なのか、全国各地域を結びつけている鉄道ネットワークの中で有用な役割を十分発揮できるのか、事業当事者にとって投資回収が可能なのか、という問題であろう。もし失敗すれば、JR東海という公益企業が経営破綻の危機に瀕するばかりでなく、将来のわが国と国民にとって取り返しのつかない損失となることは避けられない」と問題提起しています。

  経済、安全、環境、問題だらけ
 「中央新幹線」は1970年に制定された全国新幹線鉄道整備法(全幹法)にもとづき、73年に基本計画路線の一つとして認められましたが、リニア方式は想定していませんでした。リニアにしたのではこの法律の趣旨である新幹線の鉄道網の整備にはなりません。相互乗り入れができないからです。しかも根拠のない需要予測で赤字必至、多消費電力、山岳トンネル貫通工事、危険な活断層、安全救出対策、大量の残土処理など、どこから見てもリニア建設に理はありません。リニア方式を断念したドイツの決断に学ばなければ大きな悔いを残すと知る一冊です。