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人間の復興か 惨事便乗型「構造改革」か

「震災からの地域再生」

 都留大の「地域交流センター通信21」の巻頭文は今泉吉晴名誉教授の文章でした。
 「くらしを見直す多彩な証言」 ―北上山地の山小屋で3・11を経験する―
 この文章の中に以下のくだりがあります。
 ―3・11大地震では、自力で逃げることもできた津波の災害から、危険が見定め難い原発事故まで、人間の災害のほとんどが見られた、といえます。その中で、人間が決めた原子力の利用は変更できることが共通の認識になりました。そこで、3・11大地震の余震が続く今こそ、しておいた方がいいことのもう一つは初心を忘れないことで、それも経験した人の声が代表しています。―
 今週も、一冊の本(「はしがき」の一部)を紹介したいと思います。「東日本大震災とは何か」、復興はどうあるべきかがより正確に理解できるのではないでしょうか。本の題は「震災からの地域再生」 著者は岡田知弘京都大学教授です(小見出しは小林)。


 東日本大震災と福島第一原発事故災害から一年以上が経過した。この大災害は、いまも続いている。せっかく救われた命が、その後の政策的支援の遅れやまずさによって、自殺を含む多数の「震災関連死」を生み出している。家も仕事も失った数多くの被災者の生活、経営再建の目途も立ってはいない。また、福島第一原発事故については、いまだ放射性物質の放出が続き、それを封じ込める目途が立っていない。その汚染の範囲は広領域にわたり、数十年単位での復旧・復興を考えなければならない事態となっている。
 そのような事態であるにもかかわらず、政府は原発事故収束宣言を発表し、原発再稼働、輸出に突き進もうとしている。同様に、消費税増税、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加、さらに道州制導入といった、財界が求める「構造改革」を「再稼働」する路線をひた走っている。大震災を機に、文字通り、ナオミ・クラインのいう「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)を強行しようという姿勢である。

政治が震災を深刻にした
 だが、そもそも被災地を含め、東京はじめ大都市都心部を除く日本の地域経済は、震災前からの「構造改革」や野放図なグローバル化政策によって大きく衰退していた。それに輪をかけたのが市町村合併の強行であった。このことが被災地における被害を拡大し、その後の対応の遅れを生み出したことを忘れてはならない。「構造改革」の再稼働は、被災地をはじめ、日本の地域経済をさらに痛めつけることになろう。むしろ、首都直下型地震や海溝型地震の連動が予想される中で、日本列島のどの地域であれ、住民一人ひとりが安心して、幸せに暮らせるような、安全な社会を作ることが求められる時代となっている。そのような「人間の復興」の道を、被災地から切り拓くことによって、何よりも大切な人々の命と暮らしを優先した国(新しい福祉国家)をつくる展望も広がる。その意味で、私たちは今、どのような地域と国を次世代に残すのかという重大な歴史的岐路に立っているといえる。