このサイトでもドイツの旅で集めた落書を紹介していますけれど(フランクフルトのこれとかベルリンの壁のこれとか)、日本の落書にも風雪に耐えて生き残ったなかなかすごいものがあります。たとえば有名なところではこんなのがありますが、ここまで古くなくたってしみじみといい落書はあるのです。そんな落書をあちらこちらでぽつぽつと集めてみました。
東大寺の落書 | 超有名寺院にひっそりと残る近世の落書 |
国上寺の落書 | 良寛様ゆかりの寺に残る脱力系落書の数々 |
東大寺は今さら解説の必要もないほど超有名なお寺です。奈良随一の観光スポットにして世界最古最大の木造建築、あの大仏様のお住まいでもあります。今の大仏殿は戦国時代に全焼したものを1709(宝永6)年までに再建したものです。そのあたりの詳細はこのサイトやこのサイトで。
私も高校生のころ修学旅行で初めて参内して以来、何回か訪れる機会がありましたが、薄暗い大仏殿内のあちこちに残る落書が気になっていたのです。文化財のこと、フラッシュをたいて強い光を当てるわけにもいかず、1999年1月に至って初めて一部を撮影することに成功しました。
この時、奈良には仕事関係の長期研修で来ていたのですが、土日の休みに家族を呼び寄せて観光がてら東大寺を訪れたのです。 | エサをねだる奈良公園のシカに襲われる我が子。不憫。 |
大仏殿の堂内には大仏様を守る四天王のうち広目天と多聞天が配置されており、それぞれ木の柵で囲われているのですが、そこにこんな落書が。「越後 小千谷」までは読めるのですが、3行目がちょいとわからん。たぶん江戸時代に小千谷からの見物客が残したのでしょう。 小千谷といえば小千谷縮で有名ですよね。この落書を残したのも、縮の生産で小金を貯めて上方見物に来たお上りさんでしょうか?まさに「越後の縮緬問屋」だったりして。 左が全体写真、右が落書の部分を拡大して少しでも読みやすくなるように画像処理したものです。以下の写真も同じ。 |
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こっちは「越後長岡」までは読めます。下の方は「太吉」と読めないこともない。落書者の名前?ただし筆跡が違うようにも見えるので、上の落書とは別の時期に書かれたのかも。 | |
「越後村上城」かな。もしかしたら「村松」かも知れん。学生のころ古文書の解読はいちおう勉強したんですが、とんでもない劣等生だったもので、近世の筆文字読むのさっぱり自信がありません。 最終行の頭、「文化三(年)」とも読めるのですが、もしそうなら西暦1806年、今からざっと200年前の落書ということになりますが。 しかし、小千谷といい長岡といい村上といい、現代でも関西まで来ようと思ったら結構おっくう(東京方面なら新幹線で2時間くらいですが、関西方面へは便が悪いのです。大阪まで直通の特急「白鳥」も廃止になったし)なのに、よくぞ徒歩でやってきたものですね。昔の人は丈夫だわ。 |
私の住む町から西へ40キロメートルほどのところに国上山(くがみやま)という低山があります。この中腹あたりに建っているのが国上寺(こくじょうじ)です(周辺地図はここ)。なんと創建が和銅2(709)年という古いお寺ですが、なにより良寛様が晩年住まっていた五合庵があることで有名です。詳しくはこちらがよろしいかと。
なお、古刹ではありますが現在の本堂は享保3(1718)年の再建です。再建といったってもう300年近くたっているのですが。
本堂の羽目板には落書がびっしり。ほとんどが筆書きなのでそれなりに古いものでしょう。墨で書いてあると落書でもなんだか格調高く見えませんか。左上のはマジック書きのようですが、もうそれだけで品がない感じ。 「文久四年(1864年)」という文字が見えます。アメリカ南北戦争のころですね。 中ほどになかなかご立派なものがなにやら吹き出しております。 |
左の落書の下に描かれた正装の男性。実にいい顔してます。 個人的には日本の絵画は伝統的に人物描写−特に人の表情−がピカイチだと思っています。ヨーロッパ絵画などは技巧的ではあるのですがどうも表情に乏しいような気が・・・。たとえば有名どころではこんなの(バイユーのタペストリーの一部)。 |
これは龍か獅子でしょうか。誰か知りませんが、落書としてちょいちょいとこれだけのものを描いてしまう腕はたいしたものと思わざるを得ません。 | 脱力系人物その1。頭が坊主なので坊さんかあんまさんなんでしょうか。 |
脱力系人物その2。いちおうちょんまげをしてますが羽生やして空飛んでるようにも見えます。ちょんまげ天使だ。 | 脱力系人物その3。腰が低い。ちょっと困ったようなお顔。商家の若旦那さんって感じ。 |
ここにも真ん中にご立派なものが描いてありますが、1枚目のものと違ってやる気なさそうです。 下には馬の絵。絵馬の代わりかな。ここは神社じゃないんだけど、昔は神仏習合だからいいのか。やはり落書なのに実に達者な筆さばきです。 |