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■デフレの止め方、教えます!(論文) 2005/10/15〜
 
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 今回は、テーマを「デフレの止め方、教えます!」として私の持論を述べさせていただきます。
 
 皆様は『デフレ=貧乏』と思っていないでしょうか。それは全くの誤りです。あくまでデフレは物が値下がりし続ける現象であり、物が減って食うや食わずの貧乏に襲われる現象を言うのではありません。普段の生活で消費している生活物資の品質や分量は減っていないのに、その値段だけが持続的に下がり続けるのです。
 
 これは決して嬉しいことではありません。生活物資の値段が下がると同時に、皆様の給料も下がるのですから。
 
 では、生活物資が減らないのにデフレの何が問題なのでしょうか。いくら物単位の収入が減らなくても、円単位の収入が減れば誰も借金を返せなくなってしまいます。生活物資は足りているはずなのに、皆が円単位で契約された借金を返せなくなります。その一方で、投資・融資をする側も歩留り(返済率)が悪くて投資意欲を失います。
 そうやって徐々に徐々に経済がデフレの病(やまい)に蝕まれていきます。この十年間、日本経済の実質成長率が低かったのも、そのためです。生活物資の総量に影響を与えるはずのない単なる値下がり現象が、やがては経済にダメージを与えていき、その成長を阻害するようになります。
 これは考えてみれば当たり前の話で、経済は通貨を物々交換の中継ぎ役として使い始めたことにより大発展を遂げました。したがって、通貨の中継ぎ機能を阻害するデフレは最悪の破壊要因となり得るのです。
 デフレだけではありません。インフレも同じです。通貨の価値が中継ぎ作業の最中に上下してしまったら、もう誰も物々交換の中継ぎ役としては使わなくなってしまいます。通貨自体が投資対象になってしまうからです。だからと言って、やたらと手間の掛かる物々交換を復活させることもできません。そうやって、真綿で首を絞めるように取引が停滞していきます。
 
 政治家や有識者の方々はこれらの事実を知らず、皆が単純に『デフレ=貧乏』と信じて、「デフレ対策」という名の「貧困対策」を続けてきました。まさに対症療法です。テレビに出ているよな有名な政治家や有識者の発言に注目してください。彼らはデフレの根本である「値下がり現象」には手をつけず、ただ生活物資を増やすような政策を主張しているはずです。 『デフレは貧乏のことだから、貧乏を止めればデフレが止まる』と信じきっているはずです。
 だからデフレが止まらなかったのです。だから金利が上がらなかったのです。だから投資の運用利回りが上がらなかったのです。だから皆様の給料が上がらなかったのです。
 
 今こそ本物のデフレ対策を講じるときです。私も昔は単純に「構造改革や減税をすればデフレが止まる」と信じていました。デフレを貧乏のことだと勘違いしていました。しかし、この10数年間に行われたデフレ対策が全て失敗したのを見て、考えを改めざるを得ませんでした。
 
 貧乏対策でデフレを止めることはできない!
 
 それが私なりの結論です。今回のテーマは『デフレの止め方、教えます!』という高飛車な題名になりましたが、誰も今のデフレを止めた人間は居ないのですから、どんなに偉い経済学者が私を嘲笑しても何とも思いません。「で、貴方はデフレを止めることに成功したのですか?」と問い返せば済む話です。だから、あえて刺激的な題名にしました。
 
目次
  1. デフレの止め方、教えます!《1》
  2. 構造改革・不良債権処理《2》
  3. 公共事業・減税《3》
  4. デフレ=みんな貧乏?《4》
  1. 貧乏インフレ《5》
  2. 日銀の怠慢《6》
  3. 長期的な通貨価値《7》
  4. 日銀先行配当論《8》

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●デフレの止め方、教えます!《1》
 
 
 今、日本はデフレに苦しめられている。政治家や有識者の方々から様々な意見が沸き上がり、国会やテレビ番組などで討論が行われたが、全ての討論参加者を一斉に説き伏せるだけの意見は1つとして登場することは無かった。もうバブル経済が崩壊してから10年以上、日本経済は右往左往している。
 
 国会やマスコミなどで取り上げられた意見は次の通りである。
 「構造改革・不良債権処理を行えばデフレが止まる」
 「政府が減税・公共事業を行えばデフレが止まる」
 もう聞き慣れたフレーズだが、これらの意見を聞いて私は違和感を覚えた。昔から何かが心に引っ掛かっていた。
 誰もが口を揃えて「構造改革・不良債権処理・減税・公共事業などを行えば民間企業が元気になって、“物”の生産量が増えて、皆が豊かになって、デフレが止まる」などと主張するのだが・・・私は中学の社会科の授業で
 
 「“物”の生産量が増えると“物”の値段が下がってデフレになる」
 
 と教わったことがある。皆様も今日この後、古い教科書をタンスの奥から引っ張り出して見ていただきたい。「“物”の生産量が増えると“物”の値段が下がってデフレになる。逆に“物”の生産量が減ると“物”の値段が上がってインフレになる」と書いてあるはずだ。つまり、お店の棚に商品が山積みになっていると値段は安くなり、逆に棚がスカスカだと商品の値段は高くなるのだ。

 さて、ここで簡単なシミュレーションを行ってみよう。今、コンビニで“おにぎり”が1個100円で売られているが、もし日本全国の“おにぎり”生産量が2倍に増えてコンビニの棚を山盛りの“おにぎり”が占領するようになったら、皆様は“おにぎり”を1個100円で通常の2倍買うだろうか。それどころか、1個140円や150円の高値で買うだろうか。
 政治家や有識者の方々は、そんなインチキ経済学を信じているようだ。なぜ彼らは中学で教わった初歩的な経済常識を忘れてしまったのだろうか。私なら“おにぎり”1個に70円くらいしか出さない。それが商売の常識である。どんなに無学な人間でも、それまでの人生経験で知っていることだ。
 正しい経済原理に従えば、構造改革などを行うと民間企業が元気になって、“物”の生産量が増えて、お店の棚に“物”が山積みになって、“物”の値段が下がって、
 
 さらにデフレが強くなる!
 
 そもそもデフレとは“物”と“円”の交換比率の話であって、“物”の絶対量が減って貧乏になることを言うのではない。たとえば、皆様の給料が半分に下がっても“物”の値段も一緒に半分に下がれば、皆様が買える生活物資の分量は変わらない。

 では、なぜデフレを止めなければならないのだろうか。
 
 デフレの世の中では賃金や“物”の値段が下がっても、借金だけは減ってくれないのだ。現金収入が毎年毎年減り続ける世の中で、毎年毎年増え続ける借金を返済するのは不可能である。
 よくテレビ番組などで「デフレは低金利になるから素晴らしい。もっと住宅ローンを組んでマイホームを買いましょう」などと発言されている有識者の方々を見かけるが、デフレの世の中で借金を抱えるのは自殺行為である。デフレには借金の返済計画を狂わせる性質があるのだ。
 こういった商売の常識を元に、これより数々のインチキ経済学を叩き潰していきたいと思う。
 

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◆構造改革・不良債権処理《2》
 
 
 構造改革・不良債権処理とは、民間企業が持っている財産を売り飛ばしたり従業員を解雇して現金を確保し、それを使って借金を返済して会社の経営状態を良くする作業を言う。会社が黒字経営を達成した暁(あかつき)には、余った現金と余った労働力を合体させて新しい事業を初める予定である。これを再投資と言う。
 その過程で、どのような現象が発生するのか詳しく検証してみよう
 
1.構造改革・不良債権処理を始めると、“物”の売り注文が殺到して値段が下がる。いらない施設・機材・備品などを売り払えば、それらの市場価格が下がるのは当然である。
 また、人員が解雇されれば労働市場に職を求める人が溢れ返り、それによって雇用主の立場が強くなり、“物”だけでなく賃金も下がる。しかし、日本には最低賃金ルールがあるので、そこまで労働市場のバランスが崩れると失業者は決して雇われない。もし雇えば雇用主は処罰されてしまうだろう。
 このルールを作らせたのは、例のごとく労働組合の支持を受けた政党である。彼らの圧力に政権与党は屈したのだ。まったく・・・マルクス教にドップリ浸かっているような政党というのは、労働者を守りたいのか殺したいのか、私には分からない。
 何はともあれ、“物”の値段も皆様の給料も何もかも一度に下がればデフレである。これは売り注文の殺到によって発生する短期デフレと言える。店頭などで、いわゆる「処分品」を破格値で売っているのを見たことはないだろうか。あれが日本中に溢れるのだ。
 
2.構造改革・不良債権処理が終わると、“物”の売り注文が途絶えて値段が上がる。売り注文と買い注文がバランスが元に戻ることで、もはや低価格で取引を続ける理由が無くなり、一気に市場価格が上昇するのだ。労働市場においても雇用主と労働者の立場がバランスを保つようになり、皆様の給料は一気に跳ね上がる。
 構造改革・不良債権処理を訴えている政治家や有識者の方々は、ここまでのシミュレーションを見て満足してしまう。ところが、幸せが永遠に続くことは無いのだ。このインフレは長続きせず、元々辿るはずだった物価ラインに達すると上昇が止まる。これは揺り戻しの短期インフレと言える。
 なぜ長期的な上昇が途絶えてしまうのだろうか。理由は簡単だ。一時的に売り注文が殺到した後、その売り注文が途絶えたに過ぎないからだ。
 
 買い注文が増えたわけではない!
 
 長期デフレの要素が何も変わらない以上、「売り注文が途絶えた」くらいでデフレが止まるものか。元々の買い注文が100、売り注文が110だったところに構造改革・不良債権処理の嵐が吹き荒れて売り注文が150に増えたが、しばらくして売り注文が110に戻った。それだけの話である。状況は以前と何も変わらない。
 
3.いよいよ構造改革・不良債権処理が成功すると、民間企業の生産活動が活発になる。前半で述べた通り、民間企業が黒字経営になれば再投資が可能になる。再投資が上手くいけば生産量を増やすことができる。そして、政治家や有識者の方々は手に手を取り合って熱狂する。
 
 「万歳、万歳、やったーっ、構造改革・不良債権処理でデフレが止まった!」
 
 ・・・はたして、本当にデフレは止まったのだろうか。もう少し先をシミュレーションすれば、彼らの間抜けな姿が白日の下に晒されることになる。
 民間企業が再投資と、それに伴う拡大再生産に成功すると、山のような新商品が市場に溢れ返るようになるだろう。ここまで説明すれば、皆様には“オチ”が見えたはずだ。
 お店の棚に新商品が山積みになって、需要と供給のバランスが崩れて、“物”の値段が下がって、
 
 さらに長期デフレが強くなる!
 

〈結論〉
 
 デフレの世の中で構造改革・不良債権処理を行うと、物価は・・・
1.一気に下がって、
2.反動で上がって、
3.その後でジワジワと下がる。
 なぜ頭の良い政治家や有識者の方々が、経済学の基本原理の中の基本原理を無視してまで“民間企業・悪玉論”を展開したのか、私には理解できない。これは次に登場する“政府・悪玉論”にも共通する心理である。
 

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◆公共事業・減税《3》
 
 
 では、公共事業・減税を行うとどうだろうか。これからお話しすることは、日本の経験則その物である。皆様自身が過去に経験したことである。
 
 私が公共事業と減税をひとまとめにしているのを見て、首を傾げた方も多いのではないだろうか。世間の常識では、公共事業を乱発しているような利権政治家と、減税を訴えて景気刺激を行おうとしている政治家は、まるで対立関係があるかのようなイメージを持たれている。一見すると公共事業と減税は逆方向の政策のように思えるが、実はデフレに対する効果としてはベクトルが一致しているのだ。
 公共事業と減税の差は、日本全体に予算がバラ撒かれるか、特定業界に予算がバラ撒かれるかである。予算がバラ撒かれた結果、それを上手に利用して儲けを上げられるか否かで日本の未来が変わるのは、どちらも同じである。
 最近では公共事業を絶対的な“悪”と評するマスコミが幅を利かせているが、たとえば、低コストで道路の利便性を上げて事業費の何倍もの利益を通行者が享受できれば、この公共事業は成功したことになり、日本国民の生活レベルは向上する。
 同じように減税によって民間企業の手元に資金が余り、それを使って既存事業の拡大や新規事業の開拓に成功すれば、やはり日本国民の生活レベルは向上する。もちろん失敗すれば、どちらも日本国民の生活レベルを低下させる。
 そういう意味では公共事業≒減税と言えるのだ。では、今回もシミュレーションをしてみよう。
 
1.公共事業・減税を始めると、民間企業の手元に無いはずの資金が余るようになる。私が社長なら、それを使って再投資を行い、新たな人員を雇うだろう。すると、新規事業に必要な“物”の買い注文が殺到して値段が上がる。日本中で我も我もと施設機材備品の需要が発生する。
 また、人員が大量募集されれば労働市場に従業員を求める企業が溢れ返り、それによって労働者側の立場が強くなり、“物”だけでなく賃金も上がる。
 このように“物”の値段も皆様の給料も何もかも一度に上がればインフレである。これは買い注文の殺到によって発生する短期インフレと言える。きっと店頭の商品棚はスカスカになるだろう。
 公共事業・減税を訴えている政治家や有識者の方々が満足するのは、この時点である。彼らは、ほんの一時の物価上昇を見て、それが未来永劫続くと勘違いしてしまうのだ。しばしば公共事業・減税派は「自分は長期思考でデフレを考えている」と言い張るが、実際には構造改革・不良債権処理派よりも短期思考ではないだろうか。
2.当たり前の話だが、いつまでも公共事業・減税を続けるわけにはいかない。いつかは、やめなければならないのだ。そうすると、今度は“物”の買い注文が途絶えて値段が下がる。労働市場においても雇用主と労働者の立場がバランスを保つようになり、皆様の給料は一気に下降する。物価も賃金も元の水準まで戻る、と言ったほうが正確だろう。
 しかし、この急激なデフレは長続きせず、元々辿るはずだった物価ラインに達すると下降が止まる。これは揺り戻しの短期デフレと言える。この一連の物価変動は、一時的に買い注文が殺到した後、その買い注文が途絶えたことによって発生する。
3.いよいよ公共事業・減税が成功すると、民間企業の生産活動が活発になる。しつこいくらい何度も述べたことだが・・・民間企業が黒字経営になれば再投資が増え、再投資が上手くいけば生産量が増え、政治家や有識者の方々は例のごとく手に手を取り合って熱狂する。
 
 「万歳、万歳、やったーっ、公共事業・減税でデフレが止まった!」
 
 そして、また地獄が繰り返されるのだ。生産拡大によって山のような新商品が市場に溢れ、お店の棚に新商品が山積みになって、需要と供給のバランスが崩れて、“物”の値段が下がって、
 
 さらに長期デフレが強くなる!
 

〈結論〉
 
 デフレの世の中で公共事業・減税を乱発すると、物価は・・・
1.一気に上がって、
2.反動で下がって、
3.その後でジワジワと下がる。
 構造改革や不良債権処理とは初期の物価変動が逆方向だが、最終的な結果は同じである。政府が収入を減らそうが支出を増やそうがデフレは止まらない。
 
 散々失敗したあげく、まだ公共事業・減税を叫び続けている政治家が居る。
 さて・・・どうしてくれようか。
 
☆ぼやき論
 
 また日銀が、壊れたレコード(古式表現)みたいになっています。
 
────朝日新聞2005年10月24日(月曜日)朝刊より引用────
【量的緩和、来春にも解除】
 
 景気回復を下支えしてきた「量的緩和政策」は、来春に解除される見方が有力になっ
た。日本銀行は月末に発表するレポートの中で来年度の物価予測を上方修正する見通し
で、解除の前提条件となる「デフレ脱却」が06年4月前後にも実現しそうなためだ。解
除には景気回復の持続が不可欠だが、予定通り進めば、長期不況と戦後初のデフレ下で
始まった政策に、5年ぶりに終止符が打たれる。当面ゼロ金利は変わらないが、その先
の利上げの是非が焦点となる。
(石川尚文、丸石伸一)
────引用終了────
 
 日銀はまだ、本物のデフレ対策は実施していません。ただ教科書通りの低金利政策、
貸出し増大、買い注文増大だけを行い、自分たちのおかげでデフレが止まったと信じ切っ
て満足しています。
 
 今、日銀は債権市場や外国為替市場で買い注文を乱発しています。そうやって債券や
外国通貨の円価格を高めているのです。たとえば、「1年後に100万円返す」と約束され
た債権の値段が95万円、96万円、97万円と上がっていけば、金利は5.26%、4.16%、
3.09%と下がっていることになります。
 これらの膨大な買い注文のおかげで市場に資金が溢れてデフレが止まる、というのが
彼らの信奉する経済学です。
 
 これまで失敗してきた方法であるにもかかわらず。
 
 2000年8月に「もうデフレは脱却した」と自信たっぷりに金融緩和政策を解除してか
ら半年後、青ざめた顔で「量的緩和政策の導入」について会見を開いていた日銀総裁の
間抜けな姿が目に浮かびます。
 また同じことが起こるような気がしてなりません。私としては来年(今年度)の決算期
が楽しみです。それまでは、日銀内部の「緩和続行組」と「緩和解除組」の綱引きを市
場関係者が見守る5ヶ月間になるでしょう。日銀総裁が「やめると言ったら止める!」
と強気な発言をすれば債権、ドル、ユーロが下落し、「すこし性急すぎたかもしれない」
などと弱音を吐けば価格が揺り戻す、そんな上下動が続くことが予想されます。あくま
で素人判断ですが・・・。
 さて、素人のぼやきと玄人の市場予測、どちらが当たるでしょうかね。
 

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◆デフレ=みんな貧乏?《4》
 
 
 どうやら政治家や有識者の方々は『デフレ=みんな貧乏』と勘違いしているようである。彼らは単純にデフレと貧乏を“=(イコール)”で連結させてしまった。そのためだろうか、従来型の「貧乏脱出大作戦」を実施しようとするのだ。
 
「デフレとは貧乏のことである。だから貧乏を直せばデフレが止まる」
 
 これが日本に蔓延しているインチキ経済学の共通点である。皆様も『デフレ=みんな貧乏』の罠にはまっていなかっただろうか。
 あの超好景気「バブル経済」が弾けたとき、政治家も有識者も自分の財布の中身を見て「現金」が減っていることに気が付いた。そのせいで彼らは「自分は貧乏になってしまった!」と恐れ戦(おのの)いたのだ。
 
 そして、彼らは「貧乏脱出大作戦」を開始した!
 
 ある者は「構造改革」を叫び、ある者は「不良債権処理」を叫んだ。「公共事業」や「減税」を叫ぶ者も現れた。これらの陣営は互いに対立しているように見えて、実は「貧乏を脱出してデフレを止める」という共通の目的を持っていた。
 ところが、何をやってもデフレは止まらなかった。当然と言えば当然の結果である。本当は『デフレ=みんな貧乏』ではないのだから。
 デフレと貧乏は可逆的な“=(イコール)”の関係ではなく、実際には不可逆的な因果関係を持っている。
 デフレと貧乏の関係は以下の通りである。
1.今日、買い物をするよりも1年後に買い物をしたほうが値段が安くて得だから、
2.投資や買い物が減って、
3.生産活動が停滞している。
 もっと分かりやすく川の流れに譬(たと)えてみよう。
1.上流で毒水が発生し、
2.それをやり過ごすために中流で農業用水の水門が閉じられ、
3.下流で田畑が枯れている。
 川の水は通貨(円)を表す。通貨が毒に染まっている、との表現になるが、その理由は後々説明しようと思う。これこそがデフレ経済の正体である。まさに上流と下流の関係である。
 それなのに、政治家や有識者の方々はデフレと貧乏が直結関係にあるものと誤解し、下流の田畑ばかりに手を加え続けた。
「構造改革・不良債権処理を行えばデフレが止まる」
 これは稲の品種改良である。
「減税を行えばデフレが止まる」
 これは食べる割合を減らして翌年の種籾(ためもみ)を増やす作戦である。
「公共事業を行えばデフレが止まる」
 これは化学肥料を撒き続けているに過ぎない。
 どれもこれも、まさに不毛な戦いと言える。彼らには「上流の毒水」「下流の田畑」という概念が無いのだ。
 
 下流の田畑に手を加えれば上流の毒水が消えるのだろうか。
 
 これは典型的な因果転倒のインチキ経済学である。「風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる」という言葉があるが、「桶屋(おけや)を儲からなくすれば風が吹かなくなる」と言っているようなものだ。なんという無知無能無為無策だろうか。
 本来ならば、先に上流の毒水を直接退治するような政策が必要ではないだろうか。
 

〈結論〉
 
 『デフレ=みんな貧乏』ではない以上、いかなる「貧乏脱出大作戦」もデフレに対して無効である。とても皮肉な話だが、彼らの政策は長期的な“物”不足=長期インフレを止めるための手段なのだ。つまり、全く逆方向の政策である。
 
 

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◆貧乏インフレ《5》
 
 何とかしてデフレを止めなければ日本経済は崩壊する。いつまで、この異常な低金利に耐えなければならないのだろうか。
 先に「“物”の生産量が増えると“物”の値段が下がってデフレになる。逆に“物”の生産量が減ると“物”の値段が上がってインフレになる」と説明したが、だからと言ってデフレを止めるために日本中の工場を潰して貧乏インフレを発生させるのは本末転倒である。
 ところが、困ったことに日本には社会全体を貧乏にしてデフレを止めようとしている方々が居るのだ。「ユニクロなどの日本企業が、アジア諸国の人々を安い賃金で働かせて商品を生産し、日本に輸入したからデフレが止まらないのだ」という意見を聞いたことはないだろうか。
 彼らは輸入制限を行うつもりだ。たしかに輸入制限を掛ければ日本国内が物不足に陥ってデフレは止まるが、その代わり日本人は貧乏になってしまう。
 他にも、「消費税を1年間に1%ずつ増やしていけば、国民が物を買い急いでデフレが止まる」という意見が流行(はや)っているすが、長期的に見れば増税の影響で民間企業の生産活動が不活発になって、“物”の生産量が減って、お店の棚がスカスカになって、“物”の値段が上がって、やはり貧乏インフレが発生する。ちなみに、公共事業が失敗しても貧乏インフレになる。
 
 これは手段と目的が入れ替わった最大最悪のインチキ経済学と言える。経済政策の目的、国民の生活レベルを維持・発展させることにあるのは言うまでもない。いくらデフレが害悪だからと言って、貧乏インフレに頼ってデフレを止めたのでは目的を達成できないではないか。「物の持続的な値下がり現象」と、それに伴う「真綿で首を絞めるような成長鈍化」を止めるのが本当のデフレ対策である。
 
 最近になって日銀は、デフレ収束を臭わせるような発表を行いました。それに飛びついた経済学者の方々は満面の笑みで楽観的な予測を述べています。しかし、今回の「値上がり現象」は日本の通貨政策に起因するものではなく、単に石油価格の上昇に伴うものではないでしょうか。
 
 そうです、例の「貧乏インフレ」です。
 
 もし石油不足が解消されれば、瞬く間に日本はデフレに逆戻りすると思われます。なぜなら、通貨政策は以前と何も変わっていないからです。この十数年間、デフレを止められなかった通貨政策は今も続いています。また、数年ごとの経済の波とも重なっているようです。
 さて、外部要因と経済の波が消失したら、どうなるでしょうか。・・・考えるのも恐ろしい。
 
 以上、素人のぼやきでした。
 

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◆日銀の怠慢《6》
 
 デフレとは“物”と“円”の交換比率が持続的に変化する現象のことである。“物”に手を加えてデフレを止められないなら、その反対側にある“円”に手を加えるしかない。
 ここで、はっきりと言い切れることがある。
 
 デフレが止まらない原因は日銀にある。
 
 とても単純な理屈である。誰もが中学の社会科の授業で習う経済学の基本原理を用いて、これから私の“日銀・悪玉論”について説明しよう。
 まずはインフレの原因についてだが、通貨政策が変わらない状態で政府や民間銀行が生産活動に失敗すれば、物不足による貧乏インフレが発生する。また、実体経済が変わらない状態で日銀が通貨を乱発しても、いわゆる通貨インフレが発生する。
 次にデフレの原因についてだが、通貨政策が変わらない状態で政府や民間銀行が生産活動に成功すれば、物の供給過剰による裕福デフレが発生する。また、実体経済が変わらない状態で日銀が通貨を減少させても、いわゆる通貨デフレが発生する。
 以上のことから、それぞれの物価変動の原因について1つの結論が導き出される。
 
 インフレは政府・日銀・民間企業のいずれの失敗によっても発生するが、デフレは日銀の失敗によってのみ発生する。
 
 インフレの原因となっている事柄は、どれも失敗の中の失敗である。一方、デフレの原因となっている政府や民間企業の行動は、誰がどう考えても「失敗」ではない。政府が効率良くインフラを整備し、それを民間企業が効率良く利用した結果、高品質の商品が大量生産され、店の棚に新商品が山積みになって商品1個1個が値下がりしたのだから。
 これは「失敗」ではなく「成功」以外の何物でもない。ただ、日銀が通貨政策を誤って通貨デフレが引き起こされたのであれば、それはまさに日銀の「失敗」と言える。
 だからこそ私は、デフレが止まらない原因は日銀の通貨政策にある、と疑っているのだ。
 
 では、日銀のどのような行動がデフレの停止を阻んでいるのだろうか。日銀は、デフレを止めるために何をしなければならないのだろうか。その答えは、現在日銀が行っている通貨政策の中にある。
 最も有名な通貨政策は、日銀が政府や民間銀行への貸出しを増やしたり、民間企業の債権などを買ってお金の流通量を増やすことである。後者は「買いオペレーション=買いオペ」などと呼ばれており、通貨政策の主流とされている。
 このような政策を政府や日銀の関係者、政治家や有識者の方々は「金融政策」と呼んでいるのだが、それが真の「通貨政策」になっていないのは皮肉なことである。「通貨政策」のつもりで「金融政策」を行い、通貨に何の影響も与えられないのだから、本当に間抜けとしか言いようがない。
 彼らが「金融政策」に固執するのは、本当に金融的な行動によって物価がコントロールできると信じているからだ。彼らは本物の通貨政策を知らない。彼らが知っているのは、小手先の市場介入によって各種相場を上げ下げするだけの金融政策である。
 それどころか、なんと恐ろしいことに日銀の首脳陣には『デフレ=みんな貧乏』の罠にはまっている人間が居るのだ。
 
 「我々は過去の金融政策を維持する。あとは政府や民間企業が本気で構造改革や不良債権処理をやるだけだ」
 
 何を隠そう現日銀総裁・福井俊彦その人の発言である。就任当初のインタビューでこの珍言を吐いたのを見て、私はガックリと肩を落としたのを覚えている。日銀の首脳陣もまた、例のインチキ経済学を信じているのだ。もし本当に政府や民間企業が仕事を怠けていたら、
1.物の生産量が減って、
2.お店の棚がスカスカになって、
3.物の値段が上がって、
4.貧乏インフレが発生しているはずだ。
 通貨政策の責任を担っている福井総裁に対しては、はっきりと真正面から「間抜け」と言い切れる。中学生レベルの経済学に反するコメントを述べた福井総裁は間抜けである。
 初歩的な経済学であるはずの需給バランス理論を無視して、なぜ「政府と民間企業が生産活動に励めばデフレが止まる」などと発言できたのだろうか。心のどこかに違和感を覚えなかったのだろうか。無学な私でも、政治家や有識者が吹聴する「貧乏を直せばデフレが止まる」といった発言に違和感を覚えて素人研究を始めたほどである。
 政府や日銀の首脳陣、経済通を名乗る政治家や有識者にそのような珍言を吐かせているのは、彼らが信奉する経済学の教科書に原因があるのではないだろうか。教科書と言っても個別具体の書籍を指しているのではなく、一般的に用いられる物価変動への対処法のことである。この経済学の教科書には、デフレやインフレが発生したときの対処法が詳しく書かれてある。
 まずはインフレについてだが、生産活動を充実させて物不足を解消すると同時に、通貨発行者は高金利で貸し出しを行うこと、貸出量を減らすこと、市場で「売りオペレーション=売りオペ」を行って無理やり債権などの市場価格を下げること、などの対処法が謳(うた)われている。そうやって物の流通量を増やし、逆に通貨の流通量を減らし、両者のバランスを取ろうという作戦だ。
 次にデフレについてだが、通貨発行者は低金利で貸し出しを行うこと、貸出量を増やすこと、市場で「買いオペレーション=買いオペ」を行って無理やり債権などの市場価格を上げること、などの対処法が謳(うた)われている。そうやって通貨の流通量を増やし、物とお金のバランスを取ろうという作戦だ。
 日銀はバブル経済が崩壊して以来十数年間、このような教科書通りの行動を取り続けた。それにもかかわらず、デフレは一向に止まらなかった。教科書通りに低金利の貸出しを増大させ、買いオペを実行したのに全く効果が無かった。
 ついに日銀の首脳陣は経済学の基本原理を忘れるほどの混乱を来たし、自分たちは精一杯やっているのにデフレが止まらないのは政府や民間企業の責任だ、などと責任転嫁を始めたのだ。完全に経済理論からは外れた主張である。
 

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◆長期的な通貨価値《7》
 
 
 私は従来の経済学で常識とされている物価安定策に異議を唱えたいと思う。いや、これは宣戦布告と言っても良い。効かないという経験則を持ちながら、いまだに「効く効く、絶対に効くはずだ。効かないには自分のせいじゃない」などと珍言を吐き続ける政府や日銀の首脳陣、自称・経済通の政治家や有識者の方々にとっては宣戦布告になるはずだ。まあ、彼らの耳に入らなければ素人の戯言(たわごと)に終わるが・・・。
 ここで単純な通貨理論を紹介したいと思う。
 
 低金利の貸出し増加や買いオペなどの「通貨流通量増大作戦」でデフレが止まらないのは、それが日銀にとって「投資」であるためだ。
 
 日銀の関係者は、常識的な手段によって通貨の流通量が増大したのを見てデフレが停止したと思い込んでしまう。たしかに買いオペなどの効果によって、一時的には物の値段が上がるだろう。
 だが、それを市場関係者の目から見ると、どうなるだろうか。目の前には確かに通貨が溢れているのだが、よく考えたら日銀は「円」を放出するときに国債や社債、外国為替などの商品を買っているのだ。日銀の金庫や口座には、山のような現物財産=「円」以外の財産が詰まっている。
 
 この買いオペによって日銀は、将来の売りオペを実施する能力を身に付けたことを意味する。
 
 いくら日銀総裁が「売りオペはしない」と公言したところで無駄である。政府や日銀の首脳陣の発言には「短期効果」しかなく、日銀が通貨に与える影響は日銀が保有するありとあらゆる現物財産と通貨発行量の推移によって決定されるのだ。
 たとえば、私が通貨を発行しても誰も信用してはくれないだろう。なぜなら私には何の現物財産も無いからだ。簡単に言うと、私には売りオペを実施する能力が無い。
 では、日銀の場合はどうなるだろうか。日銀には売りオペを実施する能力がある。長期的な視野で見たときに売りオペを行う能力があれば、いくら現時点で大量の買いオペを行っても長期的なインフレ効果は発生しない。
 市場関係者の頭には「所詮は日銀による投資にずぎない。どうせ将来、日銀の戻っていくお金だ」という認識がある。そんな状況で、誰がデフレの停止を予想して「買い物」を始めるだろうか。日銀のデフレ対策に市場が反応しないのは、そのためである。
 

〈結論〉
 
 日銀の「通貨流通量増大作戦」には、残念ながら短期インフレの効果しかない。それが将来日銀に戻ってくる予定のお金だからである。お金の流通量が増えてインフレが発生したように見えるが、長期的に見れば±ゼロでデフレに逆戻りする。
 この10年間、日銀は何度も何度も「通貨流通量増大作戦」を実施したが、そのたびに短期インフレと短期デフレの波が発生した。相変わらず長期デフレは止まらない。この作戦は失敗だった。
 

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◆日銀先行配当論《8》
 
 デフレが止まらない原因は、お金の流通量の増やし方にあった。実体経済(※生産物の分量で測る経済)の成長が鈍化しているときに日銀が投資を拡大しても、そもそも資金を借りたがっている相手が居ない。やればやるほど需給バランスが崩れて、世の中の名目金利は余計に下がってしまう。
 というよりも、日銀はその状態が正しいと思い込んでいる。低金利であればあるほど通貨の流通量が増えてデフレが止まるはずだ、と十年以上も全く役に立たなかった通貨政策を今でも信じている。
 全ての原因は「回収可能な資金放出」にあると私は確信している。放出した資金が、日銀の資産、債権となって将来日銀に戻ってくるからインフレ効果が現れないのだ。
 
 将来日銀に戻ってくる予定のお金を増やしてもデフレが止まらないなら、将来日銀に戻ってくる予定の無いお金を増やすのはどうだろうか。
 
 それを実現する最も簡単な方法は、日銀から政府への上納金や日銀株主(日銀出資証券の所有者)への配当金を増やすことである。日銀自身に、支払いを増やすだけの名目収入が無くても構わない。どんどん通貨を新規発行して政府や日銀株主にプレゼントしてあげよう。
 このお金は将来に渡って市場に溜まり続けて長期インフレの効果を発揮する。そして、デフレが止まる。これを日銀過剰配当と呼ぶことにする。
 「収入が無いのに支出を増やしたら日銀が債務超過になってしまうじゃないか」との反論が聞こえてきそうだが、“円”の発行元である日銀が“円”単位の債務超過になることはない。おそらくは民間企業の経営常識に沿った反論だと思われるが、そういった支出のブロック機能こそがデフレの根本原因である。これを日銀に適用すると、たった1度でもデフレになると二度と抜け出せなくなる。理由は次の通りである。
 デフレになると、まずは日銀の名目収入が減る。
1.それを見た日銀の首脳陣は慌ててオーナーへの配当金を減らす。
2.市場にお金が溜まりにくくなって余計にデフレが強くなる。
3.余計に日銀の名目収入が減る。
4.それを見た日銀の首脳陣は更にオーナーへの配当金を減らす。
5.市場にお金が溜まりにくくなって更にデフレが強くなる。
6.さらに日銀の名目収入が減る。
 このような悪循環が永久に繰り返されるのだ。これを「日銀デフレ会計の罠」と呼ぶことにする。日銀株主への配当金を無理矢理にでも増やせば、この悪循環を断ち切ることができる。デフレが止まれば日本全体の運用利回りが回復し、後を追うようにして日銀の名目収入も回復することだろう。
 現行の日本銀行法には、大間抜けなブロック機能が堂々と示されている。日銀は儲けが発生すると、儲けの一部(5%)を積み立てなければならないのだ。これは法律的な義務である。普通の民間企業において積立金は、財政状態の波を吸収するためのクッション効果として利用されるが、こういったものは業種や事業規模によって最適の積立て残高が存在すると考えられる。各経営者は自らの判断で、その適正金額を設定している。
 断っておくが、ここで取り上げている民間企業の積立て金額は毎年毎年の値ではなく、現在貯まっている累積金額の値である。一方、日銀に義務付けられている5%の積立ては、事業規模と無関係に毎年のように積み増しされる金額である。
 実体経済の規模も一定、投資残高も一定、投資による収益も一定、事務経費も一定、政府への上納金も一定、日銀株主への配当金も一定、債権者への利払い金額も一定、収入と支出も同額、そんな安定状態からオーナーへの上納金や配当金の一部をカットして積立金に投入したら、どうなるだろうか。
 市場関係者は日銀が積立金を貯め続けているのを見てデフレを予測する。しかも平成15年度の会計では「財務の健全性確保の観点(曰、日銀)」から、これを超える15%相当の資金が積立てに回された。積立金は将来の非常事態で支出されることは分かっているので長期デフレの効果は無いが、今日明日に支出されないのは確かであり、短期的な流通量不足は否定できない。それを防ぐために、日銀は無理に投資を拡大して短期インフレの効果を発生させている。
 自分で“毒水”を垂れ流して自分で浄化に苦心するとは・・・なんとも、お暇な方々である。
 

〈結論〉
 
 経済用語では、私が提案するような日銀過剰配当を持続的ヘリコプターマネーと言う。もともとヘリコプターマネーとは、通貨の発行元が現金を刷って刷って刷りまくって刷りまくって全国民に無償で現金をプレゼントすることを言う。もちろん巨大なインフレを引き起こすので経済学者の方々には嫌われている。彼らは「ヘリコプターマネー」と聞いただけで暴れ狂う制御不能のインフレを想像し、思考回路を閉じてしまうのだ。たとえば、現金の流通量が70兆円の時に、現金を一挙に100兆円もバラ撒いたら巨大なインフレが起こるに決まっているではないか。
 ただし、日本の経済学者たちが「ヘリコプターマネー」と呼んでいるものは、実は単なる大規模な貸出し増加だったりする。単純に日銀が現金をバラ撒いてプレゼントすれば良いものを、なぜか政府に国債を発行してもらってから、そのときに政府に資金を渡して国民にバラ撒くような手段が想定されている。ヘリコプターマネーについて語るときまで例のインチキ経済学から抜け出せないとは・・・もう救いようのない無能である。
 
 日銀過剰配当というのは、日銀が作成している普通の帳簿の範囲内では払えるはずもない上納金や配当金を、年間わずか数百億円から数千億円だけ余分に通貨を発行して上乗せする作業である。
 実際のデフレ停止作業としては、まずは日銀の積立て義務を年次式ではなく、民間企業のような累積式の目標値にする。それで余った資金を政府への上納金や株主への配当金に少しずつ転化していくのが良いだろう。そうやって収支バランスを合わせたら、しばらく様子を見る。
 実体経済が一定ならデフレは止まるはずだ。しかし実体経済に成長する余力があるなら、そこで初めて過剰配当が必要になる。そして、実体経済が盛り上がりの気配を見せたら日銀は投資を拡大し、収益の増大を狙う。
 
 つまり、日銀の動きは民間企業と順番が逆なのだ。
 
 民間企業は名目収入を得てから名目支出を行うが(※当たり前)、実体経済が急激に盛り上がっているときに日銀が同じことをすると、名目収入から名目支出までの時間差によって日本経済は常に弱いデフレ圧力に晒されることになる。
 日銀の名目収入には波があるが、その波から1年間ほど位相が後にズレた配当金の波を想像していただきたい。そうなると当然のように通貨流通量の波が発生し、それがデフレやインフレの波を呼び起こす。よって、通貨の発行元は名目収入の直前に名目支出を行われなければならない。
 優秀な通貨発行業者は、自分の1年後の名目収入を予測して名目支出の計画を立てる。実体経済が成長すると予測すれば日銀過剰配当を計画し、逆に縮小すると予測すれば日銀不足配当を計画する。日銀不足配当とは、本来なら帳簿上支払われるはずの配当金の一部または全てを失効させて通貨を消滅させることを言う。そして、日銀は投資を縮小し、事業規模を縮小して物不足による貧乏インフレに対応する。
 ただ、1つだけ気を付けてほしいことがある。何もが考えずに無計画に行われる日銀過剰配当や日銀不足配当は長期インフレや長期デフレを発生させるおそれがある。実際に途上国では政府が直接通貨を発行する際に、ろくに税収も無いのに通貨を乱発行して一般予算として使い、制御不能の長期インフレを発生させてしまうことがある。
 あくまで日銀過剰配当や日銀不足配当は、将来の名目収入を見込んだものでなければならない。このように日銀が将来の経営状態を予測し、自らの名目収入よりも名目支出をわずかに前倒しして日銀過剰配当や日銀不足配当を行うのが「日銀先行配当」である。
 
 これが正しい通貨政策であると私は考えている。
 
 
────以上。

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