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■多数決講座(論文) 2005/07/30〜
 
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 今回は、テーマを「多数決講座」として私の持論を述べさせていただきます。これまでの物とは違い、お話は博士と生徒の掛け合い方式で進みます。どうか気楽にお読みください。
 
 日本の諸問題の多くは実際の力関係と、選挙で得られる力関係の格差によって生じているような気がしてなりません。実質の持ち分と名目の持ち分の差異、といった表現もできます。 なぜ政府は、悪いと分かっていて地方への異常な補助金のバラ撒きをやめられないのでしょうか。なぜ無駄としか思えない公共事業を乱発するのでしょうか。政治家は皆、政府の財政状態について充分に承知しているはずです。それでも「腹が減った、メシをくれ!」とは言わず、その大規模事業が日本にとって必要であると訴えて予算を勝ち取ろうとします。本人は分かっています。もし分かっていなければ、何か能力的な問題があるとしか言いようがありません。
 普通の有識者なら、ここで利権政治家への罵詈雑言を浴びせるところでしょう。吐けるだけ悪口を吐いておいて、では問題解決は果たしたのかと言えば何も進展は見られません。毎度お馴染みのパターンです。
 何か利権政治家が失敗すると、マスコミでキャンペーンを張って、街中でインタビューをして「酷いですねー!」と当たり前のコメントを引き出して、失職に追い込んで、あるいは自殺に追い込んで、そこまで行くとマスコミも国民も潮が引いたように事件のことを忘れてしまいます。そして、また利権政治家が失敗すると・・・∞(エンドレス)・・・。
 (最初からお読みの方は)ご承知の通り、私は根性が捻じ曲がっていますので、利権政治家が自分の支持者の欲望を満たすことを“悪”とは考えません。
 
 とても立派なことです!
 
 頭に血が上った方は、どうぞ深呼吸をしてください。
1.建設業界から票をもらった政治家が建設業界の利益を訴え、
2.医療業界から票をもらった政治家が医療業界の利益を訴え、
3.農水業界から票をもらった政治家が農水業界の利益を訴え、
4.郵政業界から票をもらった政治家が郵政業界の利益を訴え、
5.運輸業界から票をもらった政治家が運輸業界の利益を訴え、
6.金融業界から票をもらった政治家が金融業界の利益を訴え、
7.教育業界から票をもらった政治家が教育業界の利益を訴えるのは、どれも当たり前のことです。それこそが選挙の本質です。これらの利権を得られなかった政治家は、罵詈雑言を浴びせる暇があるなら、自分の支持者の欲望を満たせばよいではありませんか。
8.サラリーマンから票をもらった政治家はサラリーマンの利益を訴え、
9.主婦から票をもらった政治家が主婦の利益を訴え、
10.老人から票をもらった政治家が老人の利益を訴え、
11.若者から票をもらった政治家が若者の利益を訴えればよいのです。ただ、1つ問題なのは支持母体の実際上の勢力と、国会における票の力が合致しない点です。たとえば、地方の人口密度は平均以下なのに国会議員の密度は平均以上です。
 国会は正義の場ではありません。有権者同士のドロドロとした欲望の妥協点を探る場です。たいした勢力でもない集団が制度上だけ大きな決定権を有するようでは、社会に利益をもたらす妥協案は作れません。かなり歪んだ政策しか決定されなくなるでしょう。
 政府の財政状態は直接全国民の生活に影響するのですから、多数決に歪みが無ければ財政状態を気にするような妥協が図られるはずです。では、政府の財政支出によって利益を得る小勢力が、国会において大きな票の力を持っていたらどうなるでしょうか。
 結果は皆様がご存知の通りです。この10年間に経験したことを思い出してください。
 
 まずは日本の票の力を正さなければなりません。票の力を整理整頓し、その上で政治家が支持者の欲望を満たすために行動すれば、きっと日本の諸問題は解決の方向に進むことになるでしょう。
 私はそのように信じています。
 
目次
  1. 多数決講座《1》
  2. 多数決とは?《2》
  3. 参加者の責任《3》
  4. 結社のススメ《4》
  5. 誰が入会できるのか《5》
  1. 団体の発足から解散まで《6》
  2. 契約の変更《7》
  3. 網羅会を簡略化するには?《8》
  4. 契約変更のテクニック《9》

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●多数決講座《1》
 
 
【ヴォート博士】:はじめまして、私が多数決博士のヴォートです。本日は多数決について講義したいと思います。みなさまには、普段遊ばせている脳ミソのヒダヒダに「多数決とは何ぞや」という無駄な知識を刻み込んでいただきたいと思います。ここで、みなさまと一緒に講義を受けてくれるお友達を紹介しましょう。
【バロット君】:ど〜も、ボクが多数決訓練生のバロットです。小学4年生です。早く多数決を覚えて、夕飯に毎日ハンバーグが出るように家族多数決をやりたいと思います。
【ヴォート博士】:それだと、他の家族がハンバーグ嫌いなら永久にハンバーグは食べられませんよ。
【バロット君】:えっ、どうして!? 「みんなで多数決をやれば民主主義になるから、みんなの自由と平等と基本的人権は守られる」って学校の先生に教わったよ!
【ヴォート博士】:いいえ、多数決に参加する人の過半数の自由と平等と基本的人権が守られるだけです。どうやらバロット君は、多数決が自分にとって良い事ばかり起こるものだと誤解しているようですね。
【バロット君】:ハンバーグ三昧は“おあずけ”なの?
【ヴォート博士】:バロット君は多数決のルールを知っていますか?
【バロット君】:「過半数が賛成したら決定」っていうのは教わったよ。
【ヴォート博士】:バロット君が夕飯にハンバーグを食べたければ、他の家族を口説いて過半数の賛成をもらう必要があります。このような状況を「決議案が可決された」と表現します。
【バロット君】:知ってる知ってる。ニュースなんかで「国会で法案が可決された」って聞くよね。でも、“決議案”って何?
【ヴォート博士】:決議案とは、多数決にかけられる提案のことです。バロット君の家では、何人が賛成すれば「夕飯ハンバーグ決議案」が可決されますか?
【バロット君】:ボクの家族は全部で5人。お父さんは焼き魚&お味噌汁みたいな和風の定食が好きだし、お母さんはスパゲッティーが好きだし、お姉ちゃんは麻婆豆腐みたいな中華が好きだし、弟は哺乳瓶をチュウチュウ吸ってる赤ちゃんだから・・・ボク以外に2人をハンバーグ派に引き込まなきゃいけないのか〜。
【ヴォート博士】:どうして“あと2人”なのですか?
【バロット君】:5人の過半数は3人だから、ボク以外に家族2人がハンバーグに賛成してくれたら過半数の賛成をもらったことになるよ。博士ってば、ボクを馬鹿にしてるでしょ? このくらいの計算はできるよ。
【ヴォート博士】:まだ赤ちゃんの弟さんが「ハンバーグに賛成」とか「ハンバーグに反対」とか声を上げてくれるでしょうか。
【バロット君】:そう言えば・・・弟はまだ「バブー!」とかしか言えないや。ハンバーグが何なのかも理解できないし、夕飯にハンバーグが出ても弟はミルクしか飲めないよ。
【ヴォート博士】:普通、弟さんは多数決を棄権したことになります。
【バロット君】:“棄権”?
【ヴォート博士】:「全体の数から除外する」という意味です。5人家族の中で1人が棄権するのですから、全体の数は4人になります。
【バロット君】:でも、4人の過半数は3人だから、さっきと同じだよ。
【ヴォート博士】:もしもお父さんが「夕飯のメニューは家族みんなで勝手に決めてくれ」と言ったら、これも棄権したことになります。
【バロット君】:それだと全体の数が3人だから、過半数は2人か〜。
【ヴォート博士】:普通は、そうなりますね。
【バロット君】:さっきから「普通」「普通」って何度も言ってるけど、もしかして普通じゃない多数決もあるの?
【ヴォート博士】:はい、実はそうなのです。やっと『はじめに』の重要ポイントに差しかかりましたね。多数決と聞けば誰でもその方法が頭に浮かぶでしょう。小学校の頃、学級会などでみんなが手を挙げて賛成や反対の意思表示を行った、あのシステムです。そんな子供たちの中で棄権という手続きを知っていたのは、はたして何人いたでしょうか。単純に賛成数と反対数を比べる方式の他に、賛成数が反対数+沈黙数を越えなければ可決されない方式などがある事を知る人はいたでしょうか。
【バロット君】:“賛成数が反対数+沈黙数を越えなければ可決されない方式”!? そんなの知らないよ!
【ヴォート博士】:バロット君の弟さんは何も言わずに沈黙していましたけど、これを棄権とみなすのか、それとも反対とみなすのか、という問題があります。何も言わない人の考えを読み取るのは大変なのです。
【バロット君】:沈黙していると反対したことになるなんて、ボクの家では全体の数は減らないや。5人のままだ。
【ヴォート博士】:ですが、お父さんが沈黙しないで「棄権したい」とハッキリ意思表示をすれば棄権が認められます。
【バロット君】:お父さんが沈黙したら、どうなるの?
【ヴォート博士】:バロット君の弟さんと全く同じ意思表示をしていることになります。「沈黙=棄権」というルールならば棄権になりますし、「沈黙=反対」というルールならば反対になります。
【バロット君】:いろいろな種類の多数決があるのか〜。
【ヴォート博士】:バロット君も、これまで学校などで多数決を利用して来たと思うのですが、自分がどの方式の多数決を行っているのか分かっていましたか?
【バロット君】:・・・ボクはぜんぜん知らなかった。
【ヴォート博士】:ほとんどの人がバロット君と同じはずです。みんな「何となく」多数決というシステムを理解し、「何となく」利用し、「何となく」その結果に拘束され、「何となく」従っていただけです。これまでの多数決は、慣習法という脆弱な地盤の上に成り立っていたと言えます。
【バロット君】:“慣習法”? それって法律なの?
【ヴォート博士】:きちんと文章で書いたルールを明文法と言うのですが、それとは逆に「昔から」「何となく」「当たり前のこととして」「普通に」守られて来たルールが慣習法です。
【バロット君】:何かボクでも知ってるような慣習法は?
【ヴォート博士】:“言葉”がそうですね。「日本語とは何ぞや」という定義が書いてあるルールは存在しません。
【バロット君】:「これが日本語だ」っていうルールが無いのに、みんな日本語を使ってるの!? それで大丈夫なの!?
【ヴォート博士】:まったく問題ありません。みんなが「何となく」日本語を理解していれば日本語は慣習法として成り立ちます。ですから、日本国内で日本語を使って契約書を作れば正式な契約が成立するのです。
【バロット君】:ちゃんとルールの内容を決めたわけじゃないのにルールが成り立つなんて、不思議だな〜。
【ヴォート博士】:多数決も同じような状況にあります。例えば、民法には共有財産の管理について「持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ此ヲ決ス(第252条)」とあります。これは「所有者には持ち分の値段に比例して投票権が与えられ、多数決で共有財産の取扱い方法を決める」という意味です。持ち分とは、その人が所有している割合のことです。
【バロット君】:共有財産の値段が、そのまま投票権になるの? それじゃあ、何十万円もする共有財産だと1人で何万票も持つとか・・・。
【ヴォート博士】:それでは投票が面倒なので、大まかな割合に応じて投票権が与えられるのが一般的です。共有財産だけでなく、みんなで一緒に団体を作って共同事業を行う際も多数決が利用されます。同じ民法に「組合ノ業務執行ハ組合員ノ過半数ヲ以テ此ヲ決ス(第670条)」とあります。意味は「共同事業をどのように実施するかは、その共同事業の責任者の人たちが多数決で決める」というものです。
【バロット君】:共有財産でも共同事業でも、多数決の仕組みは同じなんだね。
【ヴォート博士】:しかしながら、民法のどこを読んでも具体的にどのような方式の多数決を行うのかは指定されていません。国の憲法や法律、自治体の条例、会社の規則などを見ると「多数決を行う」というルールは無数に存在しますが、その中で「多数決法」と呼べるような厳格なルールは数えるほどしかないのです。大部分は慣習法の域を出ないものです。そこに大きな問題があります。
【バロット君】:どうして問題なの? さっき「慣習法もルールとして成り立つ」って言ってたのに。
【ヴォート博士】:慣習法で争いが発生すると、わざわざ裁判で慣習法の存在を証明しなければなりません。裁判で勝つには「我が地元では・我が業界では・我が組織では、このルールに従うのが昔からの慣わしとなっている」という証人・証拠品などを自力で集める必要があります。時間と手間とお金の無駄遣いです。少しくらい不満があっても泣き寝入りする人がほとんどでしょう。泣き寝入りで得をする人は、それを慣習法のままで維持したいと考えます。最近、歪んだ多数決をよく目にするのも、それが原因の1つだと思われます。
 多数決は今日も日本のどこかで、世界のどこかで何万回も──それどころか何十万回も何百万回も利用されているシステムです。それが慣習法のままで良いはずがありません。
 これからお話しする『多数決講座』は、物事を「何となく」「あいまいに」説明されても納得できない人のためのものです。しつこいくらい明文法にこだわり、契約書などを多用したいと思います。
 たとえるなら、コンピューターのプログラムでしょうか。コンピューターの世界では「こういう場合は、こうなるのが常識である」といった世間の仕来りは無意味です。コンピューターに何かを行わせたければ、あらかじめ全てをプログラムの中に書いておかなければなりません。ここから先は非常に頑固な内容になりますが、どうか最後までお付き合いください。この講義を受けている時だけは性悪説の立場で、徹底的に相手を疑いましょう。ぜひとも執念深い刑事になったつもりで身構えてください。
【バロット君】:ガチガチの石頭にならなきゃいけないの?
【ヴォート博士】:いろいろな所にツッコミを入れてもらえれば結構です。早速、私もツッコミを入れたいと思います。バロット君は全員で多数決を行うのを「民主主義」と表現しましたが、主義などと言ってしまっては「みんなで多数決をやるべきだ」「多数決をやらない奴は悪党だ」という意味になります。多数決の有無を善悪の問題として取り上げるつもりはありませんので、ここでは「民主主義」ではなく「民主制」と呼ぶことにします。
【バロット君】:なんだか最初っから屁理屈だらけだな〜。
 

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◆多数決とは?《2》
 
 
【ヴォート博士】:多数決を利用すると、どんな効果があるのかバロット君は知っていますか?
【バロット君】:多数決って、みんなで一緒に何かをする時には便利だよね。学芸会の出し物を何にするのかクラスの全員で多数決をやって決めたことがあるんだけど、みんなで歌を歌うことになって楽しかったよ。効果って言えば、そのくらいかな〜。
【ヴォート博士】:クラスの全員がバロット君と同じように楽しかったと思いますか? 「歌を歌う」という判断は正しかったのですか?
【バロット君】:そんなの当たり前だよ。みんなで多数決をやって「歌を歌う」って決めたんだから。
【ヴォート博士】:バロット君は「歌を歌う」ことに賛成したのですね。
【バロット君】:うん、そうだよ。「歌を歌う」のは楽しいことだから、多数決で「歌を歌う」って決めたのは正しかったと思う。
【ヴォート博士】:本当にそうでしょうか。多数決を行うと多数派の意見だけが尊重され、少数派の意見は無視されます。バロット君は「歌を歌うのはイヤだ」と考えて反対した人たちのことを全く考えていないようですね。結果として、そういった小数派の意見は死に票となります。
【バロット君】:“死に票”!?
【ヴォート博士】:多数決で無視された意見を死に票と言います。みんなが1票ずつ票をもらって多数決を行う場合、「賛成のほうが多い」とか「反対のほうが多い」というのは票数を足し算して比べるのですが、ここで数が少なかったほうが死に票です。
【バロット君】:それじゃあ、あの時「歌を歌う」っていうことに反対した10人くらいのお友達の意見は死に票なの?
【ヴォート博士】:歌を歌いたくないのに「歌を歌う」ことになってしまったのですから、間違いなく死に票です。バロット君は「歌を歌うのは、みんなにとって楽しいことだ」と信じているようですが、中には「歌を歌う」のが大嫌いな人も居ます。多数決を行うたびに大量の死に票が発生し、そういった小数派はバロット君のような多数派に従わなければいけません。
 小数派は「数が少ない」という理由だけで我慢を強いられます。もっと話し合いをして物事を決めるべきではないでしょうか。こんな非民主的で残酷なシステムが許されるのでしょうか。
【バロット君】:そうだよね。ボク、だんだん多数決が信じられなくなって来たよ。多数決で負けた人はかわいそうだと思う。少数派が多数派の言うことを聞かなきゃいけないなんて、絶対に許せない!
【ヴォート博士】:いいえ、許されるのです。それこそが多数決です。
【バロット君】:えええーっ!?
【ヴォート博士】:多数決の参加者は「自分が小数派になったら多数派の意見に従う。その代わり、自分が多数派になったら小数派を従わせることができる」という約束で票が与えられます。
 「票は欲しい。だが、小数派になっても多数派の意見に従うつもりはない」という傲慢な人に多数決への参加資格はありません。多数派になる可能性と、小数派になる可能性を考えて、納得できる人だけが多数決に参加できるのです。
 バロット君が勘違いをしていたのは「多数決で決まったことだから、みんなが大喜びをしているはずだ」という点です。そんなことは絶対にありません。喜んでいるのは多数決で勝った多数派だけで、負けた少数派は「すごく悔しいけれど、多数決で負けたら従うと約束したので歯を食いしばって我慢する」という精神状態なのです。
【バロット君】:多数決に参加するのは「もしも負けたら多数派の言うことを聞く」って約束してるのと同じなのか〜。なんだか幻滅しちゃった。どんな出し物にするのか話し合いで決めれば、みんなが楽しくなるって思ってたのに。
【ヴォート博士】:たしかに話し合いも大事ですが、話し合いで物事は決まらないという現実を無視してはなりません。
【バロット君】:何を言ってるの? 話し合いをすれば、ちゃんと物事は決まるよ。学芸会の出し物も、みんなでアイディアを出し合って「あれがいい」「これがいい」って話し合いをして決めたんだから。
【ヴォート博士】:いいえ、物事を決めるのは契約です。バロット君のクラスで学芸会の出し物が決まったのは話し合いの最中ではなくて、最後に多数決を行った瞬間です。話し合いとは、思い通りの契約を結ぶために相手を口説く行為にすぎません。
【バロット君】:・・・話し合いって、口説いてるだけだったの?
【ヴォート博士】:契約を結ぶ前の段階であると言えます。1対1の契約で相手を口説くのは簡単ですが、総勢100人、総勢1000人といった大人数では同じように事が運ぶでしょうか。
【バロット君】:1000人を口説かなきゃいけないなんて、ボクなら途中で投げ出しちゃうかもしれないな〜。
【ヴォート博士】:口説くだけならまだしも、実際に大人数が契約を結ぶと契約者が一定人数を超えた時点で物理的な障害が発生します。
【バロット君】:“物理的な障害”?
【ヴォート博士】:規模が大きすぎて、どんなに頑張っても最後まで契約を結べなくなるのです。それぞれの契約者は自分以外の全員と直接契約を結ぶ必要があるのですから。
 どのくらいの規模に膨れ上がるのか、その計算式を紹介しましょう。
 
 契約本数={(参加人数×参加人数)−参加人数}÷2
 {(5人×5人)−5人}÷2=10本
 
 これはスポーツなどでリーグ戦(※総当たり戦)の試合数を計算する時に使われている計算式です。ご覧のように、たった5人が契約を結ぶだけで10本もの契約が必要になります。たとえば、日本で法律を作るたびに全国民が契約を結ぶと、
 
 {(1億2600万人×1億2600万人)−1億2600万人}÷2=7937兆9999億3700万本
 
もの契約が必要になります。各国民は1億2600万人分の署名(サイン)が書かれた契約書を自宅に保管しなければなりません。おそらく、契約書の印刷費用だけで日本は破産するでしょう。
【バロット君】:はじめて見る数字だね、博士。本気で全国民が契約を結ぼうとしたら、こんなことになるのか〜。
【ヴォート博士】:現実的とは言えません。この契約作業を簡略化するために発明されたのが多数決です。多数決では、参加者の過半数が賛成するだけで参加者全員の契約が成立します。
【バロット君】:つまり、多数決は契約の一種なんだね。
 

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◆参加者の責任《3》
 
 
【ヴォート博士】:多数決とは、みんなで一緒に意思表示を行うためのものです。「塵も積もれば山となる」の言葉通り、小さな力であっても複数の人が寄り集まって多数決を行えば大きな力となります。
【バロット君】:ボクが1人で担任の先生に「次の遠足はパン工場に行こう」って頼むよりも、クラスの全員で多数決をやって「次の遠足はパン工場に行こう」って決めたほうが強そうだよね。
【ヴォート博士】:バロット君は食いしん坊なんですね。でも、同じ学年の全生徒が丸ごと多数決を行ったほうが、もっと強くなりますよ。
【バロット君】:それだったら、全校生徒が丸ごと多数決をやって、もっともっと強くしよう!
【ヴォート博士】:このように多数決を行う集団を多数決会、その参加者を多数決会員と呼ぶことにします。バロット君がクラスで多数決を行う時は、クラスの全員が1つの多数決会を作っている状態になります。
【バロット君】:それじゃあ、クラスのお友達は多数決会員なの?
【ヴォート博士】:そうなりますね。では、多数決が終わった後、多数決会員はどうなるでしょうか。
【バロット君】:“多数決が終わった後”? 多数決で可決されたことをみんなでやるんでしょ?
【ヴォート博士】:問題なのは、それを実行した結果です。もし多数決のせいで失敗をしてしまうと、多数決会員は多数決の内容に賛成した人・反対した人・棄権した人に関係なく全員が多数決の結果に拘束され、全員が共同で責任を負います。
【バロット君】:そんなの変だよ! 賛成した人ならいいけど、何で反対した人まで責任を取らなきゃいけないの!?
【ヴォート博士】:全員で責任を取るのが多数決会の約束事です。たとえば、みんなで組合を作って多数決で「お金を借りる」と決めた場合について考えてみましょう。
 借金が約束通り返済されなければ、まず債権者(※お金を貸した人)は組合の代表者の財産を差し押え、それでも足りなければ借金の残高を組合員の持ち分の割合に応じて分割し、一般の組合員に請求します。「お金を借りる」という決定に反対・棄権した事は組合員が借金の返済を免れる理由にはなりません。返済を免れる方法は、ただ1つ──「お金を借りる」という決定の前に組合を脱退することです。
【バロット君】:決める前に抜け出さなきゃいけないのか〜。
【ヴォート博士】:決めてから抜け出しても手遅れです。組合の外にいる人は、組合員が行った個々の投票を無視しても構わないのですから。組合員の過半数が賛成すると、部外者は「全組合員が契約に合意している」と判断し、賛成した人だけでなく反対した人や棄権した人にも責任を負わせることができます。
 内部的には、それぞれの組合員が加入の時点で「組合員の過半数が賛成すれば、その契約に合意する」という契約を結んでいる状態です。この契約こそが多数決の源なのです。
【バロット君】:でも、ボクは組合なんか作ったことないよ。お父さんは会社で労働組合に入ってるらしいけど。
【ヴォート博士】:それならば、バロット君の家族多数決を例に挙げましょうか。バロット君がお父さんやお母さん、お姉さんを誘って多数決を行い、「夕飯はハンバーグにしよう」という決議案が可決されたのに、そのハンバーグが猛烈に不味かったらどうなりますか?
【バロット君】:それって、本当の話だよ! ハンバーグソースと間違えて、お好み焼きソースをかけて美味しくなかったことがあるの!
【ヴォート博士】:それでもバロット君、お父さん、お母さん、お姉さんは黙ってマズいハンバーグを食べなければいけません。ハンバーグを作り直すにしても余分な材料費がかかりますし、食事の時間も遅れてしまいます。
「誰が賛成したのか」
「誰が反対したのか」
「誰が棄権したのか」
 ということに関係なく、バロット君の家族は全員が不快な思いをします。まさに多数決会の仕組みを表すものではないでしょうか。
【バロット君】:最初に「過半数が賛成したら合意する」って約束してるから、もしも失敗したら全員で責任を取らなきゃいけないのか〜。
 

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◆結社のススメ《4》
 
 
【ヴォート博士】:多数決の行う方法を紹介する前に、まずは慣習法や民法の特別なルールを利用しない結社について講義したいと思います。普段、どれだけ慣習法に頼っているか分かるはずです。
【バロット君】:博士、“結社”って何?
【ヴォート博士】:結社とは、みんなで一緒に団体を作ることを言います。日本国憲法第21条でも結社の自由が認められていますよね。
【バロット君】:多数決会も団体なのか〜。
【ヴォート博士】:ここで例題を1つ。放課後、バロット君のところにお友達のA君・B君・C君・D君がやって来て、こんな事を言いました。
A君「今日、何して遊ぶ?」
B君「野球がいい!」
C君「サッカーがいい!」
D君「僕はボーリングをやってみたいな」
A君「ボーリング!? いいかもしれない!」
B君「うん。やっぱり野球よりもボーリングのほうがいいや!」
C君「そうだね。俺もボーリングに決めた!」
D君「じゃあ、みんなで多数決をやろう! ボーリングに行きたい人、手ぇ挙げて!」
A君「賛成!」
B君「賛成!」
C君「賛成!」
D君「もちろん、僕も賛成! 賛成4人で過半数を越えたから今日はボーリングに決定! ボーリング場の入場料が必要だから、みんな1000円ずつ払ってね! バロット君もちゃんとお金を払うんだよ!」
 こういう多数決が行わてボーリングをすることになったら、バロット君はどう思いますか?
【バロット君】:なんだか腹が立つな〜。
【ヴォート博士】:どうして腹が立つのですか?
【バロット君】:だって、ボクは「みんなで一緒に遊びに行こう」なんて言ってないもん。みんなが勝手にボクの周りに集まって来て、勝手に多数決をやって、いつの間にかボーリングをやることに決まっちゃって、そのせいでボーリング場の入場料を1000円ずつ取られるんだよ。
【ヴォート博士】:つまり、バロット君はA君・B君・C君・D君と同じ多数決会に入った覚えが無いのですね。
【バロット君】:うん、そういうこと! 博士が前に話してた「過半数が賛成したら、その契約に合意する」っていう約束をしてないんだ! なのに、みんなが「放課後に何をして遊ぶかを多数決で決めるのは当たり前」とか「バロット君も入れて5人で多数決をやって過半数が賛成したら、その遊びに付き合うのは当たり前」なんて言うから腹が立つんだ!
【ヴォート博士】:そこが『結社のススメ』の重要ポイントです。多数決の結果に従わなければならないのは多数決会に入った人だけです。ここからは、どうすれば結社して団体に入れるのかを講義したいと思います。
 
◎網羅会
【ヴォート博士】:結社には様々な方法がありますが、その中でも最も原始的な構造を持った団体を網羅会、団体を作る手続きを網羅契約と呼ぶことにします。
【バロット君】:“網羅会”“網羅契約”? みんなに網でも掛けるの?
【ヴォート博士】:その通りです。全員が全員に対して網を掛けたような関係図が出来上がるので、そのように名付けました。契約というものは、自分が直接契約を結んだ相手に対してのみ責任を負います。全員が全員に対して平等な関係を作るには、全員が1通ずつ契約書を持ち、各契約書に全員分のサインが必要になるのです。それが網羅契約です。
【バロット君】:もしも「放課後お遊びクラブ」を作る時に契約書を作ったら、ボクが持ってる契約書にはボクのサインだけじゃなくてA君、B君、C君、D君のサインもあるってことだね。
【ヴォート博士】:A君、B君、C君、D君の契約書にも、ちゃんと5人分のサインがあります。
【バロット君】:なんだか面倒臭いな〜。たくさんサインをしなきゃいけないなんて。
【ヴォート博士】:『多数決とは?《2》』の講義で紹介したリーグ戦の計算式が、網羅契約の本数を表すものです。網羅会では全員が完全に平等な関係で共同事業を実施できますが、その反面、平等すぎるせいで不自由な点もあります。なお、ここで紹介している網羅契約は絶対的なものではなく、あくまで共同ルールを実現するための手段の1つに過ぎません。
【バロット君】:共同ルールって、「みんなでやろう!」って約束事?
【ヴォート博士】:はい、いろいろな事柄に関して作られた「みんなでやろう!」「みんなで利益を分け合おう」「みんなで責任を被ろう!」という取決めがセットになったものが共同ルールです。これがないと、何も始まりません。
【バロット君】:「放課後に、みんなで一緒に遊びに行こう」って最初に決めておかないと、放課後お遊びクラブは役に立たないよね。ボーリング場の入場料を誰が払うのか、っていうことも決めておかないと。
【ヴォート博士】:それが、団体を作るための基本的なルールになります。共同ルールの中には、誰が入会できるのかを決めるものや、共同事業の責任者である会員や役員を決めるものがあります。
【バロット君】:たぶん“会員”は多数決会員のことだろうけど・・・。
 
〈会員〉
【ヴォート博士】:バロット君の予想通り、会員とは多数決会員のことです。共同事業の最終的な責任の受け皿となるのが会員です。
【バロット君】:どうすれば会員になれるの? 契約をすればいいの?
【ヴォート博士】:全ての契約者が会員になれるわけではありません。普通は、団体に金銭などを出資するのと引き替えに持ち分が与えられます。
【バロット君】:“出資”?
【ヴォート博士】:共同事業に財産を提供するのが出資です。出資をして持ち分をもらったのが会員です。持ち分の割合が出資金額に比例するのは言うまでもありません。そして、後で利益が発生した時は同じ割合で分配を受け、損失が発生した時は同じ割合で分担を求められます。これを決めないまま契約を結ぶと、出資金額や持ち分の割合が自動的に平等になるので注意しましょう。
【バロット君】:出資したお金に比例して持ち分がもらえるんだね。
【ヴォート博士】:お金だけとは限りませんよ。契約によっては、物納や労働力の提供が出資として認められる場合もあります。
【バロット君】:頑張った分に比例して持ち分がもらえるの?
【ヴォート博士】:と同時に、損失を穴埋めする時には同じ割合でダメージを受けます。これを分割無限責任と言います。
【バロット君】:“分割無限責任”?
【ヴォート博士】:「全責任×持ち分の割合」の分だけ金銭などの請求を受ける責任です。“無限”と言うからには、団体の借金総額が1億円でも10億円でも100億円でも会員は持ち分の割合に比例して借金を返済しなければなりません。たとえば、平等な割合の持ち分で会員が5人いる団体があって、債権者に100万円の支払いを求められると、各会員は20万円ずつ取られます。
 利益の分配についても、同じ団体で100万円の利益が発生すると、各会員は20万円ずつ支払いを受けます。
 また、いくら借金が多くても全ての責任は会員の財産を終着点として請求は終わり、会員の家族や親戚が支払いを求められることはありません。全会員の資産総額が、その団体の最高担保金額(※借金を穴埋めできる最高金額)であるとも言えます。
 この金額こそが団体の信用力の源です。もしも団体を作る時に大きな信用力を持つ大金持ちがサインを拒否したら、おそらく団体その物の信用力に影響が出るでしょう。
【バロット君】:貧乏人は信用されないんだ・・・。
【ヴォート博士】:いいえ、貧乏人でもたくさん寄り集まれば信用力が高まります。大金持ちならば、少ない人数でも信用してもらえるでしょうけどね。
【バロット君】:なんだか世の中の仕組みを見た気がするな〜。
【ヴォート博士】:どんな人でも、リスクの低い取引を行おうとするものです。
 

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◆誰が入会できるのか《5》
 
 
【バロット君】:入会って多数決会に入ることでしょ? わざわざ説明する必要があるのかな〜?
【ヴォート博士】:契約に参加するだけでは入会とは言えません。会員になるのが入会です。契約者の中には、会員になれない人もいますからね。会員かどうかをハッキリさせるには入会ルールが必要です。
【バロット君】:出資をすれば入会できるって、前に博士が言ってたけど。
【ヴォート博士】:誰が出資をするのですか?
【バロット君】:もちろん、会員だよ。
【ヴォート博士】:では、いつ誰が「バロット君は会員になってもいい」と決めたのですか?
【バロット君】:だから、契約を結ぶ前に・・・!
【ヴォート博士】:その証拠は? バロット君は後から勝手に割り込んできて、みんなに無断で会員を名乗っているだけではないのですか?
【バロット君】:“証拠”!? 契約書にサインがあるよ!
【ヴォート博士】:契約を結ぶ前の段階で、契約書にバロット君のサインはありませんよ。
【バロット君】:えっ!? そう言えば・・・! ボクのサインだけじゃなくて、お友達のサインも無い!
【ヴォート博士】:このままでは、バロット君は自分が正式な会員であることを証明できません。契約文の中に名前が入っていないからです。
【バロット君】:“契約分の中に”!? そんな所に名前を入れるの!?
【ヴォート博士】:実は、契約者の構成も合意事項の1つなのです。契約の前に契約者の構成を決めておくのが入会ルールです。「サインをした人=契約者」というシステムだと、自分がサインを済ませた後で他の人がサインを拒否し、契約者の構成が変更されてしまう可能性があります。たとえば、最初は5人で共同事業を行う予定だったのに4人しかサインを行わなければ、事業資金が足りずに大損害を受けるでしょう。
【バロット君】:もしもボーリング場が「最低でも5人分の入場料を払わないと1レーン貸しませんよ」っていうシステムだったら、4人で団体を作っても遊べないよね。
【ヴォート博士】:逆のパターンとして、自分がサインを済ませた後で想定外の人が勝手にサインを書き加えてしまったら、あなたは見ず知らずの人と不安な毎日を過ごさなければなりません。
【バロット君】:A君、B君、C君、D君と一緒に「放課後お遊びクラブ」を作るつもりだったのに、途中でX君とかY君が入ってきたら困るよ。
【ヴォート博士】:バロット君がX君やY君と仲が悪かったら放課後の遊びも楽しめません。争いを避けたければ、契約文の中に全契約者の氏名を書いておくのが良いでしょう。
 ここで言う「氏名」とは「署名」ではなく「記名」のことです。自筆でも代筆でも印刷でも何でも構いません。契約文の中で契約者の構成を固定してから全員がサインを行えば、失敗を防ぐことができます。
【バロット君】:契約書に「この団体はボクとA君とB君とC君とD君が作るんだよ。他の人は入れてあげないよ」って書いてからサインをすれば、ボクの知らない人が入って来なくなるんだね。
【ヴォート博士】:「誰が共同事業に参加するのか」「失敗した時は誰が責任を取るのか」「成功した時は誰が利益を得るのか」ということを契約の前に決めておくのは絶対です。バロット君も、お金を払ったのに他の4人だけで遊びに行かれたり、ある日突然ボーリング場から「お前らがフザケてレーンに侵入した時にレーンが傷付いたから弁償しろ」と修理費を全額請求されたら困りますよね。そうやって団体の利益を他の契約者に横取りされたり、損失を自分1人に押し付けられたら堪りません。
【バロット君】:1人だけ遊びに行けないのも1人だけ弁償させられるのもイヤだけど、そんなことになったら友達関係が壊れちゃうよ。
【ヴォート博士】:そういった種類の損失もあります。
 
〈役員〉
【バロット君】:次は役員について教えてよ。
【ヴォート博士】:役員とは、一般の会員と違う特別な仕事を行う契約者のことです。団体の外部と取引する代表権を持つのも役員です。役員を決めておかないと共同事業が進みません。いくら契約を結んでも、一体どの契約者が共同事業を実施すれば良いのか分からないからです。
【バロット君】:“係”みたいのが決まってないと困るってこと?
【ヴォート博士】:そうですね。たとえば、「団体を作って1回目の多数決で、誰が票を数えて発表するのか」ということを契約の中で決めておかないと団体の動きが止まってしまいます。
【バロット君】:なんだかテレビゲームの“バグ”が発生した時みたいだよ。どのボタンを押しても、ぜんぜんゲームが進まなくなっちゃうの。ゲームのプログラムを作る人が間違えちゃったんだね。
【ヴォート博士】:そうやって全員が動けなくなるのも困りますが、逆に各会員が勝手に役員を名乗り、勝手に団体の財産を使って事業を始められても困ります。
【バロット君】:ボーリング場の受付にお金を払う時に、みんなが「俺が払う!」「僕が払う!」って言い始めたらケンカになると思う。
【ヴォート博士】:「船頭多くして船山に上る」という言葉がありますが、まさに当てはまる現象ではないでしょうか。どんなに優秀な人たちであっても、みんなで寄り集まって団体を作った時に全員が「自分がリーダーだ!」などと言い始めたら、団体がバラバラになってしまいます。
 実行者と責任者は違うのです。普通の団体では「実行者=役員」で「責任者=会員」です。契約の中に「全会員は役員になれる」というルールがあれば構いませんが・・・。
【バロット君】:役員は誰でもなれるの? ボクでもなれる?
【ヴォート博士】:禁止ルールが無ければ誰でも役員になれます。非会員でもなれますよ。
【バロット君】:“非会員”でも?
【ヴォート博士】:団体の役員が会員である必要はありません。契約の中で認められれば丸腰の無一文でも役員になれます。
【バロット君】:「貧乏でも仕事が上手な人なら役員になれる」っていうこと? それじゃあ、役員は失敗した時に責任を取らなくてもいいの?
【ヴォート博士】:そんなことはありません。契約の中で役員と名指しされた契約者は、共同事業について互いに連帯無限責任を負います。
【バロット君】:“連帯無限責任”?
【ヴォート博士】:連帯無限責任とは、少なくとも一時的には丸ごと全責任について追及を受ける種類の責任です。たとえば、役員が3人いる団体があって債権者に100万円の支払いを求められると役員の誰か1人が一時的に丸ごと100万円の請求を受ける可能性があります。その後、役員は自分が支払った金額を分割し、各会員に請求します。
【バロット君】:いきなり全額払わなきゃいけないなんて・・・その後で会員に払ってもらえたとしても、ちょっと大変だな〜。
【ヴォート博士】:同じ団体で100万円の利益が発生すると、役員の誰か1人が一時的に丸ごと100万円を受け取る可能性があります。その後、役員は自分が受け取った利益を分割し、各会員に対して支払います。
【バロット君】:利益が発生した時も一度は丸ごと受け取るの? もしも役員が悪い人だったら、お金とか持ち逃げされないかな〜?
【ヴォート博士】:持ち逃げされます。それだけではありません。たとえ役員が悪い人でなくても、お金が支払われない場合があります。
【バロット君】:それって、どんな時!? そんなの困るよ!
【ヴォート博士】:途中で役員が死亡・破産してしまったら、どうなるでしょうか。この団体は法人格を持たない任意団体なので、役員が団体に関係の無いところで作った借金を抱えたまま死亡・破産すると、たまたま役員の手元にあった団体の財産が裁判所に押さえられてしまう可能性があります。
【バロット君】:“法人格”!?“任意団体”!? 何で団体のお金が裁判所に押さえられるの!? 会員のお金じゃなかったの!?
【ヴォート博士】:役員が死亡・破産した場合の話をする前に、法人格や任意団体について講義する必要がありそうですね。
【バロット君】:うん、知りたい知りたい!
【ヴォート博士】:法人格で一番有名なのは株式会社です。この団体には「株主」と呼ばれる会員が居るのですが、会社の財産と株主の財産は完全に独立していて、たとえ会社が大きな借金を抱えて倒産しても、債権者が株主の個人資産を取りに来ません。
【バロット君】:どうして取りに来ないの!?“株主”って会社の持ち主でしょ!? さっきから話してる網羅会の会員はお金を取られるのに!
【ヴォート博士】:法人格のある団体は、ちゃんと自分の“お財布”を持っているからです。そして、株式会社と取引する人は「後で問題が起きたら株式会社の“お財布”からお金を取ります。株主の“お財布”からはお金を取りません」と約束しています。
【バロット君】:株式会社って、人間じゃないのに自分の“お財布”を持ってるのか〜!
【ヴォート博士】:一方、網羅会のような団体に法人格はありません。法人格が無いので自分の“お財布”は持っていません。これを任意団体と言います。
【バロット君】:任意団体が“お財布”を持ってないなら、どうやって共同事業を進めるの? 会員から集めたお金はどうなるの?
【ヴォート博士】:会員から集めたお金は、役員が自分の“お財布”に入れて管理します。
【バロット君】:役員が自分の“お財布”に!? 会員は団体にお金を払ってたんじゃないの!? 役員個人に払ってたの!?
【ヴォート博士】:会員は“団体”という存在にお金を払っているつもりですが、財産は一時的に役員の個人資産となります。
【バロット君】:会員が払ったお金が役員の個人資産になるなんて、そんなのずるいよ! すぐに取り戻さなきゃ!
【ヴォート博士】:心配しないでください。役員は会員からお金を受け取る時に「後で持ち分の割合に応じて、お金を返します」と約束しているのですから。
【バロット君】:あっ・・・そうだった。会員は後でお金を返してもらえるんだよね。それじゃあ、安心だ。
【ヴォート博士】:ところが、そう上手くはいきません。
【バロット君】:どうして? 返してもらえるなら問題は無いでしょ?
【ヴォート博士】:では、役員が死亡・破産した場合の話に戻りましょうか。もし任意団体に出資されたお金を役員が自分名義で預金していたらどうなりますか?
【バロット君】:誰か別の役員が銀行に行けばいいじゃん。
【ヴォート博士】:銀行は拒否すると思いますよ。
【バロット君】:大丈夫だよ。だって、ちゃんとした役員なんだから。
【ヴォート博士】:「ちゃんとした役員」というのは任意団体の会員から見た姿です。銀行は元の役員のことしか知らないのですから、別の役員が預金を引き落としに来ても「あんた誰?」と言われるのが“オチ”です。
 また、人が死亡・破産すると、その人の名前で管理されていた資産が凍結されて他人には手が出せなくなることがあります。本人が借金漬けになっている時などは、その危険性が高いと言えるでしょう。最悪の場合、お金は戻って来ません。それが会員から出資されたものなのか、それとも正真正銘の個人資産なのか、全く見分けが付かないからです。
【バロット君】:そんなことになったら、団体はどうなるの?
【ヴォート博士】:ここで一例を挙げましょう。マンション管理組合の組合費を管理していた役員が死んでしまったので、みんなから集めた組合費はどこへ行ったのかと探していたら、その役員が自分名義で預金していたことが発覚し、管理組合のメンバーと役員の遺族が「お金は自分のものだ!」と裁判で争ったという事件がありました。
 そういった失敗を防ぐには、あらかじめ契約の中で財産の管理方法をハッキリさせておくしかありません。役員名義の預金でも、ちゃんと個人資産とは別の預金通帳を作っておけば、後で「この預金通帳に入っているお金は我が団体のものだ」と主張しやすくなります。
【バロット君】:個人の“お財布”を使って団体のお金を管理しなきゃいけないっていうのは、けっこう不便なんだね。
 

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◆団体の発足から解散まで《6》
 
 
【ヴォート博士】:さて、次は団体の発足の話に移りましょうか。
【バロット君】:“発足”って団体が作られることでしょ? 契約すれば発足されるんじゃないの?
【ヴォート博士】:契約の成立と団体が発足は別のものです。契約は全員分のサインが終了した時点で成立しますが、団体の発足は契約と同時に認められる方式や、特定の条件(※期日など)を充たすと認められる方式などがあります。団体が発足することによって初めて、契約者に責任が発生します。それまでは発足の準備段階にすぎません。
【バロット君】:契約と同時とは限らないんだね。
 
◎解消ルール
【ヴォート博士】:他にも必要なものとして、解消ルールがあります。
【バロット君】:“解消ルール”? 今度は何かが消えるの?
【ヴォート博士】:解消ルールとは、契約を取りやめるためのルールです。この中には脱会・除名・解散の方法を決めたものがあります。
「条件Aに当てはまったら脱会」
「条件Bに当てはまったら除名」
「条件Cに当てはまったら解散」
 というように、あらかじめルールを作っておいて、そのルールの範囲内で契約の一部または全てを消滅させるのが解消です。
【バロット君】:“脱会”?“除名”?“解散”?
【ヴォート博士】:脱会とは、本人が本人以外の全契約者との契約を消滅させ、団体との縁を切ることを言います。
【バロット君】:途中で団体をやめるのが脱会?
【ヴォート博士】:そうなりますね。あらかじめ脱会ルールがあれば、その条件に当てはまった本人が本人以外の全契約者に対して一方的に通知するだけで脱会が成立します。
【バロット君】:それじゃあ、除名は?
【ヴォート博士】:除名とは、本人以外の全契約者が本人との契約を消滅させ、団体との縁を切らせる事を言います。あらかじめ除名ルールがあけば、ルール違反などを理由に本人以外の全契約者が本人に対して一方的に通知するだけで除名が成立します。
【バロット君】:自分から抜けるのが脱会で、みんなから追い出されるのが除名なんだね。
 
〈払戻し〉
【ヴォート博士】:ただ単に脱会・除名しただけでは終わりません。契約を解消した契約者は、自分の持ち分について払戻しを受けます。
【バロット君】:“払戻し”?
【ヴォート博士】:払戻しとは、本人対本人以外の全契約者の間で持ち分の割合に応じて債権(※財産をもらう権利)・債務(※財産をあげる義務)の処理が行われることを言います。
【バロット君】:そう言えば、お金を払って団体を作ったんだから、やめる時にはお金を返してもらわないとね。
【ヴォート博士】:全額を返してもらえるとは限りませんよ。
【バロット君】:どうして!? 団体を作る時に1000円払ったら、ちゃんと1000円返してもらわないと!
【ヴォート博士】:共同事業が進んでいたら、みんなから集めたお金が増えたり減ったりするはずです。もし増えていれば払ったお金よりも大きな金額が戻ってきますが、減っていれば払戻し金額は目減りします。
【バロット君】:お金が減る場合もあるのか〜。
【ヴォート博士】:また、たとえ除名されたとしても、罰金を取ったり持ち分を没収するようなルールが存在していなければ、持ち分の通りに払戻しを受けることができます。ルール無き処罰は許されないのです。払戻しの具体的な金額については、争いを避けるために両者の間で合意した上で契約を解消するのが良いでしょう。
【バロット君】:抜けた人と残った人が合意してれば、もう安心だね。
【ヴォート博士】:いいえ、そうとは言えませんよ。たしかに団体を離れた人は、その後に団体が行ったことについては責任を負いませんが、契約を解消する前に団体が行ったことについては責任を負います。
【バロット君】:団体から抜けた後も責任を追及されるの!?
【ヴォート博士】:それを忘れていると大変なことになります。たとえば、平等な割合の持ち分で会員が5人いる団体が100万円の借金をしている場合、脱会を望む会員は団体に20万円を支払う必要があります。
 この時、脱会に同意していない債権者は「そちらが勝手に脱会しただけなので自分には関係が無い」と言って脱会者に20万円を請求できます。
【バロット君】:団体を抜けても“お構い無し”だなんて・・・!
【ヴォート博士】:団体の内部ルールに同意していない部外者が、団体の内部ルールに従って脱会した人を許す義理はありません。ただし、債権者に20万円を取られた脱会者は後で団体に20万円を請求できます。
【バロット君】:いちおう後で団体にお金を請求できるんだね。
 
〈存続〉
【ヴォート博士】:次に問題となるのは、一部の会員が抜けた後の団体の行く末です。脱会・除名などによって一部の契約が解消されても、残った契約者の間で契約を維持するような存続ルールがあれば団体は存続しますが、無ければ契約全体が解消されてしまいます。
【バロット君】:1人が団体から抜けただけで契約全体が消滅するの?
【ヴォート博士】:一般の取引でも、契約者の一部が契約を解消すれば契約全体が消滅しますよ。しかし、残った人たちの間で「まだ契約を続けよう」という合意があれば契約は維持されます。
【バロット君】:契約って、全員が一致団結しないと続かないんだね。
 
〈解散〉
【ヴォート博士】:全契約者が全契約者との契約を消滅させ、団体その物を消滅させることを解散と言います。
【バロット君】:“解散”っていうのは聞いたことがあるよ。
【ヴォート博士】:団体でも組織でも集会でも何でも、集まっていた人たちがバラバラになるのを「解散」と表現しますよね。団体の解散で一番簡単なのは、特定の期日を決めておく方式です。
 他にも、共同事業が終了した時点で解散が認められる方式などが考えられます。あらかじめ解散ルールがあれば、その条件に当てはまった時点で解散を望む本人が本人以外の全契約者に対して一方的に通知するだけで解散が成立します。
【バロット君】:解散する時に、お金の処理はするの?
【ヴォート博士】:もちろんです。解散した団体は清算されます。
【バロット君】:“清算”?
【ヴォート博士】:役員が抱えている団体の財産を全て売り払い、または借金を全て返済し、全会員に対して払戻しを行うのが清算です。ただし、清算が通用するのは会員同士の間だけですが・・・。
【バロット君】:ああ、やっぱり。借金取りはやって来るんだね。
 
◎一般ルール
【ヴォート博士】:これまでに紹介したルール以外にも、自由にルールを決めることができます。集団が共同事業を行うには、各契約者の行動を制限するルールなどが必要になるでしょう。違反者から罰金を取ったり配当を減額したり、様々な罰則ルールを決めることができます。
【バロット君】:これまでは、そういうことしか考えてなかったよ。博士から教わった「団体の作り方」とか「共同事業の実行者・責任者」とか「団体から抜ける方法」とか「払戻し・清算の方法」とか一番大事なことを考えないで、「ルールを破ったら罰を与える」っていうことだけを決めて団体を作ってたような気がする。
 

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◆契約の変更《7》
 
 
【ヴォート博士】:団体というものは多くの場合、その場その場の状況に合わせて臨機応変に途中で契約を変更するものです。それが団体にとって利益のあることだからです。この『多数決講座』では、最初の契約の中で想定していない手続きを行うのを変更と呼ぶことにします。
【バロット君】:契約って変更できるの?
【ヴォート博士】:できますが、簡単ではありません。網羅会で用いられる網羅契約は、その場限り・1度限りが原則なので、契約者の構成・会員の権限や持ち分・役員の権限・一般ルールなどは全てがその契約の中で決定されます。後になって契約を変更するには、一般の契約と同じように全契約者の合意が必要です。
 
 そこに多数決は存在しません!
 
【バロット君】:なるほど。だんだん多数決の話に近づいてきたね。
 
〈役職〉
【ヴォート博士】:代表的な変更として、役職というものがあります。役職とは、特定の仕事を担当する役員の責任をひとまとめにした契約を言います。
【バロット君】:“社長”っていうのも役職だよね。
【ヴォート博士】:社長も専務も常務も役職です。役職の担当者が変更されると、後任者は前任者の契約とその責任を引き継いで、前任者が契約の中で約束していたことを実施します。この引継ぎという作業は、明文法の考え方ではどのような手続きになるでしょうか。
【バロット君】:慣習法なら「役職が変わった」って説明されれば「何となく」理解できるけど、明文法だと難しそうだね。
【ヴォート博士】:ある役職を担当している役員の名義で結ばれた契約があると、その担当者の記名とサインが丸ごと書き換えられるのです。この方法だと、全契約者の合意によって役員の入替えが可能になります。全てが自動的に引き継がれるというのではなくて、前任者が重要な情報を後任者に伝えなければ、その点については前任者が責任を負います。
【バロット君】:よく“名義”って聞くけど、何なの?
【ヴォート博士】:先に述べた“お財布”のことですよ。バロット君の名義で結ばれた契約があれば、契約相手は問題が発生した時にバロット君の“お財布”からお金を取ることができます。
 取引相手の同意をもらわずに純粋な任意団体の役員が変更された場合も、取引相手は役員の変更を無視して前任者の“お財布”からお金を取ることができます。純粋な任意団体と取引を行う以上、一時的には役員の財産が信用力の源となるからです。
【バロット君】:“純粋な”任意団体って?
【ヴォート博士】:日本の法律は複雑怪奇で・・・任意団体の中には、特別な法律に基づいて役所に登録され、まるで半法人格のように扱われている組織もあるのです。「放課後お遊びクラブ」と違い、そういった任意団体の契約構造は公開されていますので、取引相手は役員の変更などを素直に受け入れなければなりません。
【バロット君】:あわわわっ、意味無いじゃん! 法人格でいいじゃん!
【ヴォート博士】:法人格を取りにくいのが存在理由のようです。それなら法人格を取りやすくすれば良いと思うのですが・・・まあ、日本らしい曖昧な責任構造ですよね。あまり曖昧なところに首を突っ込みたくないので、ここでは思い付きで作ったような身の回りの任意団体だけを扱おうと思います。
 さて、大金持ちの役員を相手にしていると思ったら、ある日突然ほとんど財産を持たない人が役職を引き継いでバロット君の前に現れました。これまで通りの心持ちで取引を続けることができますか?
【バロット君】:「この人で大丈夫かな〜?」って心配になると思う。
【ヴォート博士】:誰でもバロット君と同じように不安に駆られるはずです。一方、役員は変更されず、その部下の従業員だけが変更されるのであれば問題ありません。従業員は役員の代理人に過ぎないのですから。
【バロット君】:従業員は役員の“お財布”を使って動いてるんだね。
【ヴォート博士】:株式会社の“お財布”を使って従業員が動いているのと同じ構図です。
 
〈新規入会、団体の合併と分割〉
【ヴォート博士】:途中で変更できるのは役職だけではありません。全契約者の合意があれば、新たに入会を望む人と契約を結んで団体に招き入れることが可能です。
【バロット君】:これは入会ルールの変更だね。
【ヴォート博士】:個別の新規入会だけではなく全契約者の合意があれば、自分の団体を他の団体と丸ごと合併させることもできます。
【バロット君】:ボクとA君、B君、C君、D君が作った「放課後お遊びクラブ」と、他の人たちが作った「放課後お遊びクラブ」を1つに合わせて一緒に遊んでもいいんだね。
【ヴォート博士】:その時、2つの団体が持っていた財産は1つにまとめられます。反対に、全契約者の合意があれば自分の団体を複数の団体に分割することもできます。
【バロット君】:それだったら、みんなで作った「放課後お遊びクラブ」を途中でボクとA君だけの団体と、それからB君、C君、D君の団体に分けて別々に遊んでもいいの?
【ヴォート博士】:もちろんです。ただし、分割の前に発生した損失は分割の前に会員や役員であった契約者に対して請求されます。分割の前に債権者となった人は団体の分割を無視しても構いません。
【バロット君】:ということは、「放課後お遊びクラブ」でボーリング場のレーンを傷付けちゃった後で団体を分割しても、5人全員が弁償しなきゃいけないのか〜。
【ヴォート博士】:団体からお金を借りている人も、団体の分割を無視して返済を済ませることができます。そうやって支払われるお金を2つの団体で奪い合ったら大変なので、分割の前に「借金を返してもらえる権利」をどちらの団体が引き継ぐのかを決めておきましょう。
【バロット君】:そうだった! 団体を分割するってことは、団体の財産も分割されるんだよね!
【ヴォート博士】:そこが一番大事なポイントです。新規入会や団体の合併・分割で問題となるのは、何と言っても相手方との持ち分の割合ではないでしょうか。これを決めないまま契約すると、後で大きな争いになります。特に分割の際は、どの財産をどちらの団体が引き継ぐのかを具体的に決めておくと便利です。もちろん、2つの団体で1つの財産を共有しても構いません。それが一番安心できる分割の方法ですね。
【バロット君】:共同事業をやってる2つの団体が、またまた「1つの財産を2つの団体で共有する」っていう共同事業を始めるなんて、おもしろい関係だな〜。
 
〈ルール外の脱会・除名・解散〉
【ヴォート博士】:これまで紹介した項目では契約者の利害が一致すれば契約を変更できますが、誰かが団体を抜ける場合は全く話が違ってきます。特定の契約者自身が変更の対象となっているからです。
【バロット君】:簡単には団体から抜けられないの?
【ヴォート博士】:そうなりますね。脱会ルールが無いと、本人が望んでも本人以外の全契約者が合意しない限り、勝手に脱会することはできません。
 「お前らなんか大嫌いだ!」などという理由で本人が騒ぎ立てても団体をやめられないのです。同じく除名ルールが無いと、本人以外の全契約者が望んでも本人が合意しない限り、勝手に除名することはできません。
【バロット君】:自分からは抜けられない、相手をやめさせることもできない・・・なんだかガチガチの契約だね。
【ヴォート博士】:解散ルールの変更も同じ条件です。全契約者の合意によってのみ契約その物を消滅させ、団体を解散することができます。
【バロット君】:変更のキーワードは「全契約者の合意」でしょ?
【ヴォート博士】:バロット君、正解です。多数決が無いと、そうなります。
 
◎契約破棄
【ヴォート博士】:以上のような手続きで納得できない場合、契約者は一方的に契約を破棄し、団体との縁を切ることができます。破棄という手続きは、破棄を望む本人が本人以外の全契約者に対して一方的に通知するだけで成立します。
【バロット君】:“破棄”!? それって「最初に決めたルールを途中で破って逃げ出す」って意味でしょ!? そんなことが許されるわけないよ!
【ヴォート博士】:いいえ、破棄その物は許されます。誤解している人も多いのですが、契約破棄は犯罪ではありません。ただし、破棄によって団体に損害が発生すれば賠償金の支払いは免れません。全契約者の合意が無い限り、債権・債務の処理は裁判所に委ねられるのです。
【バロット君】:それだと、「他の契約者に訴えられて賠償金を払う覚悟があれば勝手に契約を破棄しても構わない」ってことになるよ!?
【ヴォート博士】:世の中には「破棄は汚い」「破棄者は悪党」という考えがありますが、それは誤解です。契約通りに物事を進めた未来と契約を破棄した未来を比べて、自分にとって幸せなほうを選ぶのが悪行なのでしょうか。共同事業の途中で、その失敗を予感させるような情報が舞い込んだとしても、「破棄=悪行」の考えを貫いて契約を続行しなければいけないのでしょうか。
【バロット君】:う〜ん・・・そう言われると困るな〜。
【ヴォート博士】:たとえば、平等な割合の持ち分で会員が5人いる団体があって、100万円の資金を元手に株式投資を行おうとしたところ、その寸前で「投資先の会社が倒産しそうだ」という情報を手に入れたとしましょう。
 役員たちは馬耳東風で、あなたの意見を聞き入れてはくれません。しかも、この団体に脱会ルールはありません。失敗すると分かっていながら投資を続けなければいけないのです。このままでは20万を損してしまいます。
【バロット君】:なんだか袋小路に追い詰められたような気分・・・。
【ヴォート博士】:こんな時は契約を破棄しましょう。団体に訴えられて5万円や6万円くらいは目減りするかも知れませんが、20万円を丸ごと失うよりは楽です。
【バロット君】:同じようなことになったら、これからはボクも契約を破棄するよ。分かってて損するなんて馬鹿みたいだもん。
【ヴォート博士】:ただ、1つだけ困ったことがありまして・・・団体に現金が渡った後で騒ぎを起こしても全くの無意味です。
【バロット君】:どうして? 契約を破棄したら助かるんじゃないの?
【ヴォート博士】:契約を解消できない仕組みである以上、役員は会員から集めたお金を契約通りに投資する権利があるからです。しかし、まだ現金を提供していないのであれば、損害賠償を覚悟で契約を破棄するのは効果的な手段です。
 
 ただ、これを乱発すると物凄い嫌われ者になります!
 
【バロット君】:“嫌われ者”!?・・・・・・気をつけないと。どっちが損か得かは、よく考えてから決めないとね。
 
〈欠格〉
【ヴォート博士】:意図的に契約を破棄する以外にも、欠格によって契約が維持できなくなる場合があります。
【バロット君】:“欠格”?
【ヴォート博士】:欠格とは、契約者が死亡・破産・禁治産の状態になることを言います。
【バロット君】:死亡や破産は分かるけど、“禁治産”って何のこと?
【ヴォート博士】:よくあるのがケガや病気で長期間にわたって意識不明になったり、お年寄りなどが痴呆症(※いわゆるボケ)になったり、それ以外にも精神障害などで判断能力が失われると、裁判所から禁治産の宣告を受けます。どちらにしろ、本人の自由意思で物事を判断できず、家族などの助けを必要とする状態が禁治産です。
【バロット君】:・・・物事を判断できないと、団体の仕事が進まなくなっちゃうよね。そうなったら、どうすればいいの?
【ヴォート博士】:役員が欠格すると共同事業が完全に止まってしまいますので、
「欠格者の相続人(※死亡した時の遺族など)」
「管財人(※破産した時の財産管理者)」
「後見人(※禁治産者をサポートする人)」
 対
「本人以外の全契約者」
 の間で共同事業停滞問題について合意が成立しなければ、債権・債務の処理は裁判所に委ねられます。
【バロット君】:ということは、契約は消滅するのが普通なんだね。
【ヴォート博士】:それは存続ルールの有無で決まりますので、一概には言えません。欠格したのが一般の会員だと契約が続くのが一般的です。ケース‐バイ‐ケースなので、よく考えてから行動しましょう。
 

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◆網羅会を簡略化するには?《8》
 
 
【ヴォート博士】:ご覧のように、網羅会の手続きは面倒臭い事この上ありません。全てを明文法だけで行うと、これだけの作業が必要なのです。
【バロット君】:・・・ボクも疲れた。なんだか頭がパンクしそう。脳ミソのヒダヒダを使い切っちゃったよ〜。
【ヴォート博士】:何といっても、全員が全員と直接契約を結ぶのが面倒ですよね。たしかに全員が全員の行動を縛るには完璧なシステムですが、参加人数が増えるにしたがって契約作業は複雑化し、遂には物理的な限界を迎えて団体の発足が不可能になってしまいます。
【バロット君】:そうなんだよね。博士、どうにかならないの?
【ヴォート博士】:どうにかなりますよ。ある物を1つ犠牲にする覚悟があれば。
【バロット君】:“ある物”?
【ヴォート博士】:それを説明する前に、まずは団体の発足を簡略化しましょう。
【バロット君】:うん、発足までが一番面倒臭いからね。
 
◎要扇会
【ヴォート博士】:団体を作る契約その物を簡略化できるのが要扇会です。
【バロット君】:“要扇会”?
【ヴォート博士】:要扇会とは、誰か1人が全契約者の契約を取りまとめて発足される団体を言います。契約構造が扇(おおぎ)の全体像と要(かなめ)の関係に似ているので、そのように名付けました。
【バロット君】:誰かが全員分の契約を集めてくればいいんだね。
【ヴォート博士】:扇である契約者は要である契約者と直接契約を結ぶことによって、自分以外の全契約者と間接契約を結びます。これで契約本数は激減します。計算式は次の通りです。
 
 契約本数=参加人数−1
 5人−1=4本
 
【バロット君】:本当だ! ぜんぜん本数が少なくなってる!
【ヴォート博士】:この契約を要扇契約、要(かなめ)となる契約者を発起員と呼ぶことにします。
【バロット君】:具体的な約束事を教えてよ。一般の契約者は発起員と、どんな契約を結ぶの?
【ヴォート博士】:バロット君も明文法に染まってきたようですね。要扇契約の内容は「発起員が、この契約と同じ内容の契約を結んだ人を自分と同じ団体の契約者として認める」というものです。
 発起員は「契約者数−1」通の契約書を持ち、それ以外の契約者は1通ずつ契約書を持ち、各契約書には発起員と契約者1人のサインだけがあります。
 この方式であれば、日本で法律を作る時に全国民が契約を結んだとしても、1通の契約書に契約の本文と2人分の署名欄があれば充分です。
【バロット君】:網羅契約では、たった1通の契約書に1億2600万人分の署名欄が必要だったんだよね。すごい進歩だ!
 ・・・でも、よく考えたら発起員は1億2600万人分の契約を結ばなきゃいけなくなるよ。そんなの絶対に無理だってば。
【ヴォート博士】:発起員が従業員をたくさん雇えば契約は可能です。
【バロット君】:そうか、その手があった!
【ヴォート博士】:網羅会と要扇会の違いは、手続きが本人対本人以外の全契約者で行われるか、それとも本人対発起員で行われるかの1点だけです。要扇会のシステムを利用すれば全契約者が直接契約を結ぶ必要がなくなり、時間と手間と経費を節約できます。
【バロット君】:これなら文句無しの完璧なシステムだね。
【ヴォート博士】:いいえ、そうとは言い切れません。要扇契約を結ぶ事で犠牲になる“ある物”の存在があるからです。
【バロット君】:さっきから「ある物」「ある物」って・・・何のこと?
【ヴォート博士】:“ある物”は共同ルールの中にあります。要扇会の共同ルールは、基本的に網羅会と同じです。1つだけ違うのは、契約者同士の間で契約上のルールに従って財産の遣り取りを行う場合は、その全てが発起員の名義で実施される点です。
【バロット君】:会員がお金を払う時に発起員の名義を使うってこと?
【ヴォート博士】:契約者が他の契約者に自分の名義を使って直接手を出すことは許されません。
【バロット君】:どうして? 同じ団体の契約者なんだから、契約者同士で直接お金を払っても問題は無いと思うよ。
【ヴォート博士】:それは慣習法の考え方です。契約で拘束されるのは、自分が直接契約を結んだ相手だけでしたよね? 要扇会の契約者同士は直接契約を結んでいるわけではありません。
【バロット君】:そうだった。ボク、ゴチャ混ぜにしてたよ。
【ヴォート博士】:A君とB君が契約を結ぶと、A君はB君に拘束され、B君はA君に拘束されます。「A君名義とB君名義の取引が行われている」という言い方もできます。
 ですから、団体の内部で会員から会員に財産が渡る時も、その財産の名義は
 
[1]契約者 [2]発起員 [3]契約者
 
 と移っていきます。明文法の考え方を徹底させれば、財産の名義が
 
[1]契約者 [2]契約者
 
 と移ることはありません。そこだけが、全契約者同士が直接契約を結ぶ網羅会との違いです。
【バロット君】:要扇契約で犠牲になる“ある物”って、他の契約者に直接手が出せなくなるってこと?
【ヴォート博士】:要扇契約では、お金の遣り取りも正式な意思表示も発起員を通さなければ物事が何も進みません。言わば発起員が“会社”の役目をするのです。会員や役員は、そこで働いている従業員のような存在です。
【バロット君】:でも、発起員の名義を使っても使わなくても結果は同じだと思うんだけどな〜。
【ヴォート博士】:名義というものを馬鹿にしてはいけませんよ。債権者から見れば、名義人こそが請求の対象となるのですから。それを知らない人が、軽い気持ちで名義貸しをして失敗するという話をよく聞きます。
【バロット君】:・・・そう言えば、借金取りは名義人のところに来るんだよね。
 
〈要扇会への入会〉
【ヴォート博士】:要扇会で問題となるのは、何と言っても契約者の構成です。契約を発起員に任せる以上、その人が誰を連れて来るのか分かりません。
【バロット君】:A君に「放課後お遊びクラブ」の発起員を任せた時に、勝手にX君やY君を連れて来られたら困るよ。
【ヴォート博士】:そういったトラブルを避けるには、あらかじめ契約の中に契約者の構成を記名しておくか、入会ルールなどを書いておくのが良いでしょう。
【バロット君】:具体的に名前を書かなくても、「こういう条件に当てはまる人なら、合計5人まで入会させてもいいよ」みたいに決めておけば安心だよね。
【ヴォート博士】:発起員が入会ルールなどに違反して無資格者と契約した場合、その責任は発起員が負いますので注意してください。発起員が会員ごとに異なる契約を結んでしまった場合も発起員が責任を負います。
「発起員が誰を連れて来るのか分からない」
「間違った契約を結ぶかもしれない」
 というのも犠牲になる物の1つではないでしょか。
【バロット君】:そういう危険もあるのか〜。
 
〈要扇会の会員と役員〉
【ヴォート博士】:要扇会の会員や役員の権利義務は、基本的に網羅会と同じです。また、発起員を担当する人は役員とします。
【バロット君】:発起員に資格は必要なの?
【ヴォート博士】:特にありません。会員であっても非会員であっても発起員になれます。全く出資をしない契約者が発起員を務めても構わないのです。
 発起員を団体の発足・契約の解消・団体の解散・契約の変更・契約の破棄・団体の閉鎖など全会員が絡む問題だけに関与させて、外部への代表権を持たせない方法もあります。
【バロット君】:発起員のメインの仕事は、会員をまとめることなんだね。
【ヴォート博士】:もっと簡単に言うと、「みんなの“お財布”」です。要扇会における脱会・除名・解散などの契約解消、各種変更や破棄は、すべて発起員を通して行います。
【バロット君】:「脱会したい」っていうのは発起員に伝えるんだね。
【ヴォート博士】:除名や解散も発起員に求めます。発起員はその事実を、対象となっている契約者に伝えなければなりません。
【バロット君】:もしも発起員自身が契約を解消したら、どうなるの?
【ヴォート博士】:バロット君、それは良い質問です。たしかに契約の中心人物がいなくなると団体がバラバラになってしまいます。契約者が1人でも契約を解消すれば契約の全てが消滅するようなシステムであれば問題は無いのですが、存続ルールがある場合は大変です。
【バロット君】:発起員がいなくなっても共同事業を続けられるの?
【ヴォート博士】:あらかじめ発起員の役職を引き継ぐ順番を決めておけば、次の人が全員分の契約を取りまとめてくれるはずです。この引き継ぎ作業は前任者の責任で行われ、前任者は「自分が居なくなったら、発起員の役職を特定の相手に譲り渡す」という約束を果たします。これは非常に大きな契約変更になります。団体の核を担当する人間が交替してしまうのですから。
 
〈要扇会の合併・分割〉
【バロット君】:合併の時は誰が要(かなめ)になるの? 発起員は2人いるよ?
【ヴォート博士】:発起員を1人にする必要はありません。発起員同士が契約を結べば、2つの団体に属する全契約者をつなげることができます。
【バロット君】:それって要扇契約なの!?
【ヴォート博士】:立派な要扇契約です。契約者同士の間接的なつながりを認め、発起員を通して権利義務が発生するのですから。
【バロット君】:それじゃあ、どんなにグチャグチャな構造でも要扇契約って言えるの?
【ヴォート博士】:複雑なつながりを持っていても「契約本数=契約者数−1」であれば、それは変形した要扇契約であると言えます。要扇契約というものは、参加人数が同じであれば、構造に関係なく契約本数が一定になるのです。
【バロット君】:形が変わっても契約の本数が変わらないなんて、不思議だな〜。
 でも、団体が分割された時は誰が発起員を担当するの? 発起員は2人用意しなきゃいけないんだよ。
【ヴォート博士】:分割する時に新しい発起員を決めておかないと、分割する前の発起員が分割した後にできる複数の団体の発起員を兼任することになります。他には適任者がいませんからね。
 
◎復要扇契約
【ヴォート博士】:要扇契約は直接契約では作れないような規模の大きな団体を作るためのものですが、さらに大きな団体を作る方法があります。それが復要扇契約です。
【バロット君】:“復要扇契約”?
【ヴォート博士】:復要扇契約とは、複数の要扇会が1人の発起員によって要扇契約を結び、1つの要を使って寄り集まることを言います。
【バロット君】:これも要扇契約が変形したものだよね。
【ヴォート博士】:もちろんです。復要扇契約はネズミ算式に団体の契約者を増やすことができるので、わざわざ紹介しました。これらの変形した要扇契約を利用するには、最初の要扇契約の中に復要扇契約などを認めるルールを書いておく必要があります。
 

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◆契約変更のテクニック《9》
 
 
【ヴォート博士】:慣習法の考え方では、同じ団体で連続して契約を結べば、後に結ばれた契約(※後契約)は前に結ばれた契約(※前契約)と一体化します。
 後契約は前契約の一部であり、新たに付け加えられたルールなのです。「後契約によって前契約が変更された」という言い方もできます。
【バロット君】:そんなの当たり前だよ。同じ団体なんだから。
【ヴォート博士】:同じ団体であるという根拠は?
【バロット君】:質問の意味が分からないんだけど・・・あっ! まさか、これも慣習法と明文法の話がメインなの?
【ヴォート博士】:バロット君、なかなか勘が鋭いですね。明文法の考え方では、前契約と後契約は完全に分離されています。なぜなら「両者は一体である」というルールが1行も含まれていないからです。
【バロット君】:・・・やっぱり博士は屁理屈オジサンだ。
【ヴォート博士】:事実は事実です。力尽くで両者を一体化するには後契約の中に「この契約は、どの団体で(※団体名)、いつ(※日付)、どこで(※場所)、どのような顔触れで(※契約者の構成)で結ばれた契約を変更するものである」と書いておかなければなりません。
【バロット君】:毎回毎回、契約を変更するたびに1つ前の契約を名指しするの? もっと簡単に一体化できないのかな〜。
 
◎一体化ルール
【ヴォート博士】:そこで登場するのが一体化ルールです。一体化ルールとは、「この契約と同じ記号・番号を用いた契約は、この契約と一体である」と定めたルールのことです。あらかじめ前契約の中に他の契約と区別できる記号・番号を入れておけば、一体化ルールとして役に立ちます。
【バロット君】:契約の中に目印を入れておけばいいんだね!
【ヴォート博士】:そういった“目印”を標識ルールと呼ぶことにします。
 例えば、後契約の中に前契約と同じ「第1067号契約」といった標識ルールを入れておけば、2つの契約に連続性を持たせることができます。
【バロット君】:さんざん苦労して、やっと一体化できるのか〜。
 
◎みなし一体化ルール
【ヴォート博士】:他にも、みなし一体化ルールというものがあります。
【バロット君】:“みなし一体化ルール”?
【ヴォート博士】:みなし一体化ルールとは「この契約と同じ団体名や契約者や場所で結ばれた契約は、この契約と一体であるとみなす」というルールのことです。
【バロット君】:目印なんかを使ってガチガチに一体化しなくても、同じ人たちで集まって契約を結んだりすると「前契約の続き」っていうことになるんだね。
【ヴォート博士】:前契約の中にみなし一体化ルールがあれば、後契約の中に標識ルールが無くても両者を一体化できます。
 ここで、みなし一体化ルールの例をいくつか紹介しましょう。
 
〈団体名みなし一体化ルール〉
【ヴォート博士】:同じ団体名で集合すると、自動的に一体化します。会議の冒頭に「これより放課後お遊びクラブについて会議を始めます」と宣言するのが良いでしょう。
【バロット君】:前契約の中に「放課後お遊びクラブという団体名でメンバーを集まると、この団体の契約を変更できる」っていうルールがあれば、みなし一体化ルールになるよね。
 
〈契約者みなし一体化ルール〉
【ヴォート博士】:同じ構成の契約者で集まると、自動的に一体化します。
【バロット君】:前契約の中に「放課後お遊びクラブのメンバーで集まると、この団体の契約を変更できる」っていうルールがあれば、みなし一体化ルールになるよね。
 
〈場所みなし一体化ルール〉
【ヴォート博士】:同じ場所に集まると、自動的に一体化します。インターネットなどを利用する場合は、同じ送受信先(※URLやメールアドレスなど)を利用するのが条件になります。
【バロット君】:前契約の中に「A君の家に集まると、この団体の契約を変更できる」っていうルールがあれば、みなし一体化ルールになるよね。
 
【ヴォート博士】:条件に当てはまる団体が複数あると後契約が宙に浮いてしまいますので、よく考えてからみなし一体化ルールを作りましょう。もし宙に浮いた後契約が単独で内容を理解できる構造ならば、それ自体が新しい契約として成立してしまいます。
【バロット君】:後契約のつもりだったのに、新しい契約になっちゃうなんて・・・。
【ヴォート博士】:もうメチャクチャな状態です。困った時は「このあいだ結ばれた契約を変更する」という理由で全契約者が集まり、あらためて特定の前契約を指名して後契約の帰属先を明らかにしたり、可能であれば契約その物を解消しましょう。
【バロット君】:ボクは「やり直そう」っていうのが一番いいと思う。
【ヴォート博士】:もっと簡単なのは、最初から契約の中に標識ルールを入れておくことです。一体化ルールやみなし一体化ルールを上手に利用すれば、全契約者が合意するだけで契約の変更が可能になります。
 
 さて、以上が団体の基本的な作り方についてのお話でした。学校やご近所のちょっとした共同事業における参加者の権利と責任を知っていただけたと思います。だからと言って、いつでもどこでも契約書を作れとは言いません。
 これらの細則を頭で思い浮かべながら、実際には「なんとなく」団体を作るのが最も楽ではないでしょうか。斯(か)く言う私も、知人同士で作るような任意団体に契約書など使ったことはありません。「なんとなく」でも構わないのです。
 それでも、この『多数決講座』に参加された皆様なら、今まで見過ごされていたような致命的なミスは防げるはずです。任意団体を作ろうとしている皆様の知人・友人・隣人が不合理な提案をしたときに、きっと何かの違和感を感じるはずです。
 そうなったら、これらの講義を思い出してください。
 
 
第1部────以上。
 

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