二人の魔女(4)
ひとつひとつの鈴は、薔薇の花を模った、それは可憐な姿です。振ればとても澄んだ音がします。
姫の手には魔女の手先にならぬように、足には魔女の元へ行かぬように、耳には魔女の声を聞かぬように、目には魔女の姿が見えぬように、口には魔女と話さぬように、頭には魔女の考えに染まらぬよう、それぞれ百個の鈴がつけられました。
しかし、どのような美しい鈴でも、千も集まると、それぞれがまるで競いあうかのように大きな音を出し、不協和音となりました。
誰もが神経をすり減らし、鈴の音ではなく姫自身が嫌いになってしまうのでした。
やがて、回りの人たちは、自らの気分を害さぬよう、大きな耳栓をして姫に接するようになりました。
さらに鈴は、まるで茨のように蔓を這わせ、姫の顔や手、足に至るまで、我先にと咲き誇りましたので、気の毒にも、姫はそのかわいらしい顔を人前にさらすこともできませんでした。
鈴に覆い尽くされた姫は、夜に出会うと亡霊のようで、女官たちを震え上がらせました。
昼間に見ると、銀色をした蓑虫のようで、歩く姿もおぞましく見えました。
とにかく、見るだけでいつでも人々を嫌な気分にさせたのです。
それでも姫は元気いっぱいに育ちました。
勉強は熱心で、たいそうよくできました。お裁縫やお料理は当然、剣のお稽古もしましたし、乗馬もすぐにおぼえました。ただし、剣の先生も、乗っている馬にも大きな耳栓がつけられましたが。
そして、姫が遠乗りに出かける日は、暗雲が立ち込め、雷のような音がとどろきましたので、国中の民人は戸締りをして家の中で耳をふさがねばなりませんでした。
いつの間にか姫は『鈴鳴り姫』と呼ばれ、民人からも忌み嫌われる存在になってしまいました。
姫がなぜ鈴をつけているのかも、理由は捻じ曲げられて噂になりました。
姫は母親を食い破って生まれてきた邪悪な存在なのだとか、恐ろしい魔女なのだとか。
鈴がお守りであることなど、どういうわけか誰も信じないのです。
それは、もしかしたら姫への呪いを有効にできなかった新月の魔女が、民人にかけた新たな呪いなのかもしれません。それともあまりに鈴鳴り姫の姿が醜いからでしょうか?
優しい王様はたいそう心を痛めましたが、仕方がありません。
王様ですら、姫と会うときは耳栓が必要でしたから。