鈴鳴り姫と銀の騎士

二人の魔女(3)

満月の魔女
 王様は日が高くならないうちに、慌てて西の山へ赴き、満月の魔女に相談しました。

 満月の魔女はさらさらの銀色の髪を梳きながら、あら、こまったわね、と言いました。
「わが妹のかけた呪いは、姫が十五歳になるまでとけることがないのよ」
「いったい、どのような呪いをかけたのですか?」
 見た目はまったく変わらない姫の様子に、王様は、いいようもない不吉を感じて聞きました。
「魔女のお人形にしてしまう魔法よ。今はまだ赤子だから影響はわからないけれどね。姫は妹のいう言葉しか聞こえないの。妹のことしか頭に入らないし、妹のなすがままに何でも悪いことをしてしまうの。おそらく……」
「おそらく?」
 王様は身を乗り出して聞きましたが、満月の魔女はまるで他人事のように言いました。
「私たち姉妹がお互いに喧嘩して大変なことにならないよう、南と北の秘所にそれぞれ力を封印したことは知っているでしょう? 妹はつねづね悔やんでいて、封印を解きたいと願っているの。だから姫を使って宝玉を奪うつもりでしょう? そうしたら、妹は自分本来の力と私の力を手に入れて、唯一の魔女になれますもの」

南の秘所  封印した者たちには足を踏み入れることができない秘所。魔女にはいけなくても、魔女のお使いとして、確かに姫ならば行くことは可能でしょうが……。
 王様は恐怖におののいて息をするのを忘れてしまうほどでした。
北の秘所 「そんなことになったら、この世界は常に新月。闇に包まれてしまいます! それに、秘所には宝玉の守り手がいて、たとえたどり着いても、姫には取ることができません」
「宝玉が手に入れば、運がよかったということよ。姫が守り手に殺されたって、妹にしてみたら、なんてことないじゃない?」
 満月の魔女は、形よい桃色の唇を三日月のようにして、ふふふと笑いました。
 しかし、王様は笑えません。姫が殺されるなんて、聞いただけで涙目になりました。

 宝玉の守り手とは、魔女二人が力を合わせて生み出した聖獣なのです。仲の悪い二人が力を合わせることなど、正直奇跡に近い偉業なのですが、その甲斐あって聖獣の強さは計り知れないのでした。
 魔女の力を奪おうと、外国からたくさんの悪い人たちがやってきましたが、誰も生きて帰ることはできませんでした。
 なのになぜ、女である姫に聖獣を倒すことができましょうか?
 気のいい王様が、情けないほどに涙と鼻水で顔を汚しているのをみて、満月の魔女は気の毒に思いました。
 そこで彼女は立ち上がると、岩屋の奥から宝箱をもってきました。そして中から小さな小さな銀の鈴を出し、振ってみせました。ちりり……と、かわいらしい音がします。
「この鈴をつけたら、とりあえずは妹の呪いから身を守れるわ。十五歳になるまで肌身離さずつけていられるかしら?」
 王様の安堵の声といったら、山裾までも響くほどでした。
 小さな鈴をつけておくくらい、簡単なことですと、胸をはって答えました。
 そして鈴を受け取ろうとすると、魔女は再び箱の中に鈴をしまってしまい、箱ごと王様に渡しました。
 ずっしりとした箱の重さに、王様は思わずよろめきました。
「鈴は全部で千個あります。体中につけて、どこにも妹の言葉が届かないようにしなければなりません。大丈夫ですよ。魔法の鈴ですから、体に傷をつけなくても身につけることができますし、人の意思でとらなければ、落ちることもありませんから」
 にっこり微笑む満月の魔女の前で、腰を抜かしそうになりながら王様は箱を抱えて放心していました。
 王様が箱を担いで山を降りるとき、魔女は最後に付け足しました。
「満月の夜だけ、鈴を外しても大丈夫だから……そのときはきちんと磨いてね」

 

―次へ―  ―前へ―
  目次に戻る
  姫様御殿トップへ