評判の細工師(1)
さて、この国の城下町にたいへん腕がよいといわれている装飾細工師がおりました。
貴婦人をより美しく引き立たせる首飾りや指輪・耳飾など、それはもう巧みでしたので、細工師のお店の看板は、揺れておさまることがないほどでした。
しかもこの細工師、腕がよいだけではなく、若くて器量もよろしかったので、多くの女性は皆、この細工師を贔屓にいたしました。
原石の美しさを見抜く鳶色の瞳は、宝石のように若い女性を虜にしました。美を作り出す繊細な指先は、それ自体が美でした。仕事のために無造作に束ねられた栗色の髪は、誰もが一度はほどいて指を絡ませてみたいと思うのでした。
これだけ素養に恵まれた男でしたら、普通ならばおごってしまうところですが、細工師はとても真面目でこつこつと仕事をして、並居る女性の熱い視線に誘惑されることもなく、すべてのお客様を大事にしたものですから、ますます評判があがりました。
ある日のこと、お城から細工師のもとに使いがやってきて、仕事を依頼しました。
内容を聞くと、さすがの細工師も一瞬眉をしかめてしまいました。
「鈴鳴り姫様の銀の鈴を、一晩のうちに全部磨くこと」
姫の鈴は、お城の者が交代で満月の夜に磨いておりましたが、所詮は素人のやること、最近はすっかり黒ずんでしまい、これでは魔力も半減だと、満月の魔女に怒られたのです。
困っているところに、城下で人気の腕のよい細工師の噂が聞こえてきましたので、王様は喜んですぐに使いを送ったのでした。
本来は名誉ある王様の依頼です。
しかし『鈴鳴り姫は忌むべき者』という噂が伝わっておりましたので、細工師がこの命令に悩んでしまってもやむをえません。
あぁ、いったいどのような禍がふりかかるのだろうと、細工師は天を仰ぎました。
しかし、細工師はこの国を愛していました。それに、優しい王様を尊敬しておりました。
命令を拒否して国を追われるなんて、所詮は考えつきません。
姫は恐ろしい存在ではありましたが、まさかとって食われることはないでしょう。
そこで、大きな耳栓と銀磨き粉を持って、満月の夜にお城をたずねました。