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Inside Farming Vol.21 (Japanese)



「ふじ」は全量廃棄。それもいい。

台風7号の残した爪痕は大きい。
長野県農政部の9/28調べの県内農産物被害状況は122億8900万円、その内果樹被害は111億円に達したようだ。地元農協の調べによると、近隣だけで13億円を超える被害だという。被害がはっきりしてくると、被害金額も増えてくる。我が家も前回報告よりも10箱新たな被害が分かった。
この事態に長野県も、JA長野経済連も地元JAも、市場も、そして消費者も林檎農家救済に動き出している(感謝、感謝、感謝)。

それでは実際、台風で落ちた林檎や傷ついた林檎はどうなったのか。
長野県内では「風害林檎」「落ち林檎」の販売も始まった。これらは県内マスコミの報道や、かなり低価格で販売されていることもあってブームになっている。落ちた林檎を販売してもらえるなんて、農家にとってはたいへんにすばらしい事だ。しかしその実態はやっぱり厳しい。

まず、「ジョナゴールド」、「千秋」など収穫直前の林檎はどうなったかというと − 例えば我が家の場合(多くの農家の場合そうかもしれないが) − 落下した林檎たちはダメージが大きすぎた。強風で思いっきり振り落とされた林檎たちは1/4から1/3はつぶれている。また台風の翌日から雨だった事もあって3,4日後からは既に腐り始めた。だから実際に落下した林檎の中で、「落ち林檎」として販売できたのはそれらの林檎の2割弱だろう。
残りの8割はジュースなど加工用として出荷した。しかし加工用の価格は1kgあたり10円にも満たない。林檎1個3円。それでも加工業者が引き取ってくれただけでも大感謝だ。なぜなら、昨年の林檎豊作とジュース需要の低迷の影響で加工業者は既にかなりの在庫を抱えているのが現状らしい。この不況の世の中、加工業者まで巻き込んでの経営危機を誘発するような事があれば事態はもっと深刻になってしまう。

そして、「ふじ」はどうなったのか。
多くの林檎農家で落下した林檎のほとんどは「ふじ」であったと前回書いた。「ふじ」は10月下旬以降に収穫される林檎だから、9月ではまだ甘みは少なく、渋味が多い。つまりは9月下旬では食べられない林檎なのだ。そのため生食用では販売できない。かといって、ジュースなど加工へ出荷できるかというと、やっぱり味がネックになる。さらに加工業者側には前述のような実態がある。

そこで地元波田町の林檎農家で作る林檎部会の決断は「台風で落ちたふじは全量廃棄する」であった。無理して業者に負担をかけたり、消費者にまずいものを販売するよりも涙を飲んで廃棄しようという事だ。
私はそれで良いと思う。
そして英断だと思った。なぜなら、こんな状況だからといって、いくら安く販売するからといって、収穫期を迎えていないまずい林檎や、腐りのあるような傷みの激しい物を売らないで!と心の中で密かに思っていたからだ。本当は林檎に生活が懸かっているのだからそんな甘い事も言っては居られない。けれど安かろう悪かろうの林檎を大量に流通させては「悪貨が良貨を駆逐する」ように、来年以降、本物の林檎が駆逐されてしまいはしないかと危惧していたのだ。(もちろん5割以上の被害を受けた林檎農家なら「その考え方は被害のより大きい農家の生活に立脚していない」と批判されるかもしれないし、私が5割の被害を受けたなら異なる考え方をしたかもしれない。被害の大小で経営や生活、考え方が影響を受けるのは当たり前の事だから)。

10月13日、友人が林檎を捨てるために畑に重機で穴を掘ってくれた。そこに林檎を捨てる時には違う友人が手伝ってくれた。2トン近い量だった。
これで台風落ち林檎の処理は終わりだ。

もう半月もすれば「ふじ」の収穫が始まる。その中には”木から落下こそしなかったが、枝などですれた傷のある「ふじ」”が大量にあるだろうと思うと、ちょっと力が抜けている。(次号に続く)




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