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Inside Farming Vol.181


〜Working Poor〜 進んでいる方向は正しいのか?  


新聞報道で松本市の老舗書店である鶴林堂書店が破産申請していることを知った(2007年2月)。「鶴林堂」といえば、20年以上も前の高校時代に文庫本を5000円分まとめ買いしたことを思す。当時高校生の私にとって5000円は超・超大金だったから、まとめ買いを決断したこと自体が大きなイベントだった。あの時買った文庫本は今でも書棚にある。例えば「哲学ノート」三木清220円、「二十歳の原点」高野悦子220円、「老人と海」ヘミングウエイ200円「愛をめぐる人生論」立原正秋220円、「人間ぎらい」モリエール160円。この価格なら20冊以上は購入したのだろう(あの後、ちゃんと読んだのかな?)。そんな「鶴林堂」だから、このニュースはとても寂しい。

それにしても、ここ数年松本では、浅間温泉のウエストン・ホテルの休業(2006年)、縄手通りの松本中劇の閉館(2004年)などがあった。そして、河合果樹園だってそろそろ休園の兆し。倒産、破算、廃業、休業というニュースを聞くたびに、それに遭遇してしまった人たちのことを思う。希望を捨てずに頑張ってくださいと。

倒産、破算、廃業、休業のニュースは、例えば、農産物価格の長期低落傾向の中で天災による農産物の壊滅的な被害を受けたあの時と重なる。例えば、一つの仕事の収入減を他方の仕事で補うという形態の兼業のスタイルで土日も休み無く働いた日々と重なる。例えば、キャリア形成のための資格試験になかなか合格することができずに焦燥していた日々と重なる。だから心が痛む。



それにしても、最近は、「ワーキング・プア(Working Poor)」という言葉が妙に心に引っ掛かる。ワーキング・プアとは、働いても働いても貧困から抜け出せない状態をいうのだが。

私も、少なくとも天災からの5年間は・・・・その瀬戸際にいたと思う。
なぜにそう思うのかといえば、天災によって自己のキャリアが分断されたからである。果樹栽培で培った10年以上のキャリアのほとんどは、他のビジネス分野で生かすことができない。だから、年齢(キャリア)に見合った収入など、そもそも期待できないのである。そして、30代後半で新たなキャリアを形成することの困難さと、努力と忍耐。自分の能力と、チャンスと、生活の中でキャリア形成に使える時間との均衡を図ることの難しさ。これらを客観的に考えれば、ワーキング・プアに陥らないことの方が不思議というものである。

政府は、格差の是正に「再チャレンジ支援」だなんてノンキなことを言っているけれど、ワーキングプアスパイラルに片足を突っ込んだ者にとって「再チャレンジ」を試みる資金も時間も心の余裕もない。ただ、ただ、目の前に垂れ下がってきた糸にしがみついて闇雲に登るしかないのだ。

しかし、「ワーキング・プア」という言葉を頻繁に耳にするようになった今の日本の成長の方向性は正しいのだろうか。何か、制度的、構造的に間違っているのではないのか?

刹那的な消費に走る一方で、いつでも、すぐ隣に存在するワーキング・プアの影に怯える私である。(2007/2/24)

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