トリばあちゃんの昔話


トリばあちゃんは我が家の生き字引。
村の事も何でも良く知っています。
朝、焚き火をしたり、ブドウ園で一休みしたり、
雨降りのときは、ついつい昔話が始まります。
トリばあちゃんの昔話は、つい、五十年ほど前の
このあたりの普通の生活です。
あわただしい世の移り変わりに取り残されたように
ばあちゃんの世界があります。
こうやって皆な一生懸命生きてきたんだよ。
そんなトリばあちゃんの昔話は、苦労の中にも
何か、ホッとするものがあります。

そんな話をボツボツ紹介しましょう。




「やきもち」の話
 
こうやって雨が降って、何にもすることがなくっているとのー、
爺さんが「やきもち」でも作れや、と言ってよく作ったもんだ。
昔は小麦を作っていたから、粉はたくさんあったんだ。
一升ほど粉捏ねて、囲炉裏のホーロクで焼くんだ。
忙しいときは、飯の用意なんか、かまってられねーから、
たくさん焼いといて食べる。
中にフキ味噌なんか入れるとうまいんだー。
ふだんはそんな物何にも入れないよ。
小麦粉に炭酸入れて焼くだけだ。
小腹が空いたときに食べたり、飯の代わりに食べたりした。
子供が出来て、乳やってたりすると
ばあさんがよけいにくれたりしたもんだ。
今は、あちこちで売ってるげだけど、買って食べるもんじゃなかったいのー。

管理人注 「やきもち」はいわゆる「おやき」のことです。




精米所の話

今は家に精米機があるけどのー、前は精米所へ持って行ったんだ。
リヤカーに米一表と、小麦一表と、大麦一表と積んで行ったんだよ。
ここから出るとずっと下り坂だろ、そのまま行ったら
すっ飛んで行っちまうから、後ろにすり摺り棒ってのを付けて
ズルズルとブレーキかけながら行ったんだ。
帰りはまた上り坂で、これが大変だったんだ。
年の暮れになると精米所が混んで、さわぎだった。
精米所のおばさんがいい人でのー
子供を乗せてっくと芋の蒸かしたのなんかくれた。
でも、ありゃイヤな仕事だったいのー。
とにかく一日仕事だったんだから。



すすはきの話

昔、私らが子供の頃はのー、お蚕をずいぶん飼っていたんだ
その頃は家の中も冬は畳をしいてたけど、
夏はみんな畳を上げちまったもんだ。
今時分になるとのー、あっちでもこっちでも
すすはきやっててのー
今日は隣んちですすはきやってっからと言って
芋やら何か煮て、お茶と一緒に持ってったりしたもんだ。
今は、隣んちが何してようとかまうこたぁないけど
昔はみんなそうしてたもんだよー。

管理人注 「すすはき」とは大掃除の事です



クワの苗を買いに行った話

もう30年ほども前になるかいのー。その時分はお蚕をいっぱい
飼っててのー、あたりにゃ桑原がうーんとあったんだょ。
ちょうどその頃このあたりで区画整理があってのー、
新しい畑が出来たもんで、父ちゃんと桑でも植えよーってんで
桑の苗を買いにいったんだよ。
室田のほうに金毘羅様が有ってのー、その時分は車なんて
ねーだろー。おごとしてそこまで歩いて行ったんだよ。
千本の苗を買って、トーちゃんが600本とオレが400本背負って
家まで歩いて山道越えて帰って来たんだよー。
いくら指位れぇの苗だって、千本と言ゃなっから有るんだから。
あの頃はまだ若かったからあんな事が出来たんだぃのー。
家に帰って荷ぃ降ろしたら、足がブルブル震えてのー、大変だったぃのー。

管理人注 おごとして・・・大変な目にあって
家から室田までは12キロあります。



ガラメキ温泉の話

表の庭の角にあるつつじはのー、昔みんなでガラメキに行った時に
取って来たんだよー。もう40年にもなるかぃのー、オメーが二つの時だったぃのー。
もう、こーんなに大きくなったぃ。
昔はガラメキに温泉があってのー、そこにゃ二軒の家があった。
一軒は松本という旅館で、もう一軒は中村って言う山番の家だった。
そこには子供もいてのー、あそこから毎日二里の山道を歩って通ってたんだよー。
そこの温泉の湯の桶の脇に、きれいなつつじがあってのー、
父ーちゃんが、これ持って帰るべぇーってんで、持って帰ってきたんだよ。
オレが掘ったつつじを背中にしょって、オメーの手ぇ引っ張ったり抱いたりして
帰ってきたんだよ。それがこーんなに大きくなって、
今でも毎年きれいに咲くんだよー。

管理人注 オメーとは私の嫁さんのことです
榛名山中腹のガラメキには今でも温泉の跡があります



ウサギを食べていた話

オレなんかがまだ小さかった頃はのー、家でもよくウサギを飼っていたんだよー。
その時分はのー、ウサギの毛皮を買ってくれる人がいてのー、
家で大きくしては毛皮を売ってたんだよ。
その肉は家で食べていたんだよー。
いつもはうどんのおつゆに野菜を入れるくらいだけど、
たまにウサギの肉が入るんだ。
今思い出してもあれ位れぇうまい物はなかったぃのー。
山のウサギはあんまりうまかぁねえけど、家で飼ってるのは旨かった。
骨に付いたちっちぇえ肉までへいで(削り取って)のー、
しまいにゃ、骨までナタの背でトントン叩いて細かーにして汁に入れた。
たんまにしかそんな事たぁあなかったけど、あれはほんとにうまかった。
今、牛だぁ、豚だぁ、色々有るけど、あの時の肉ほどうまいと思ったぁねぇよ。


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