第一章 親の心子知らず
「ぶえーっくしゅっっ!!!」 「うわっ、汚ねぇっ!」 すさまじいまでに、紫明(しめい)が後ろに飛びすさった。 紫明の後ずさり方もすごかったが、その原因である俺のくしゃみもすごかった。周りの奴等が、目をまん丸くして俺を見ている。 「うー……」 きっとどこかの誰かが、俺のことを噂しているに違いない。 うなりながら口元をごしごしとこする俺に、孤玖(こきゅう)が噴き出すのをこらえるように尋ねてくる。 「大丈夫ですか、駿河(するが)。風邪ですか?」 「んー、わかんねえ」 「けっ。この馬鹿が、風邪なんてひくかよ」 「うるせー、紫明」 言って、側にあったチリカミをひっつかむと、俺は思いっきり鼻をかんだ。 俺の名は駿河。若き武闘家兼、賞金稼ぎの十八才。もっちろん、男! つい数ヶ月前までは住処の森、師匠のもとで、毎日修行に明け暮れていたのだが……何の因果か、気がつくとこうして、パーティまで組んで旅をしている。 パーティメンバーは……微妙なんだが、とりあえず俺を含め七人としておこう。 え、多いって? 人格だけ集めりゃ、そら多いんだが……現実的にはそうでもない。 そう、俺が人格と言ったのには理由がある。パーティメンバーのうち二人が人間ではなく。そして一人が、二重人格者だからだ。 人でない方は魔族と精霊で。魔族は、実体はあるが、協力心というものが欠如。そして精霊は……『剣の精霊』で、人型なものの、実体はない。 二重人格の方はそのまま、二重人格だからこそ体は一つ。しかも人格自体は両極端。片方は究極の平和主義、もう片方は戦闘能力は高いが『自分に関係ない面倒事は無視』『殺るれる前に殺れ』な人。 そして残りのパーティメンバーが全員後方支援系とくりゃあ……前線で戦うのは俺一人ってことに。 こんなにも苦労してるってゆーのに。天におわします偉い神様とやらは、さらに試練をくれるらしい。 大出血サービスだね。不公平だからみんなにあげてくれよ。少なくても俺はもういらないからさ。 自慢のようで、全く自慢にならないのだが……俺のいるこのパーティは、一応栄えある『勇者様と仲間たち』なのである!! ……ちょっとそこ、ひくな。お願いだから。フカシでもないし。 大体なあ、勇者のパーティったって、なんのメリットもないんだ! はっきりいって便利屋さんだぞ、クソ!! 有名なだけにタチが悪いし。 ――もっとリーダーがまともなら、自信と誇りを持って毎日を暮らせただろうか? そう思い、俺は一人の少女の顔を見つめる。 「……う? 駿河ぁ、どーかした??」 にっこりと、悪意や邪気というものが完璧に欠如した微笑みが俺を出迎えた。 「……ナンデモナイデス」 「にゅ?」 あー……あいかわらず小動物してんなあ、こいつ。 この見た目が明らかに小動物で、実際年齢よりかなり下に見える少女……名は那智(なち)というのだが、こいつが、こいつこそが、我等がリーダー……勇者様だったりする。 これを言うと十中八九みんながひく。なんにしろ、黒髪の彼女はあまりに天然(ボケ)で、大陸で『詐欺にあいやすい人コンテスト』とかしたら、ぶっちぎりで優勝しそうな容貌だ。(よく言えば可憐。普通だとマヌケっぽい) ――もうこのさい、パーティメンバーを全部言っちまおう。 まずは、今話題にしていた我等がリーダー。勇者に見えない勇者ナンバーワンの、博愛主義にして平和主義者の那智。 黒髪に水色の目のチビこいヤツだ。そしてその意識の奥底には裏の性格……もう一人の那智とも言える人格、血無(ちな)がいる。 血無は那智とは反対の性格で、超短気で超強気。普段はあまり外に出てこないが、那智が危険になったりすると出現し、戦闘に対して躊躇というものがない。自分の邪魔をする者は全て消すという考えの持ち主だ。 次に孤玖。金髪に琥珀の目。一瞬女性と見まごうような、美青年吟遊詩人。 詩人らしく、楽器や語りが得意。吟遊詩人内に伝わる、伝承の知識が非常に豊富だ。普段は常識人(?)だが、聞いたことのない話を聞くと、見境をなくす傾向にある。だが、詩人らしかぬことに、音痴……コンプレックスらしい。南のエリア部族の出身。 で、そんな孤玖をお目付役にして旅を続けてるのが、同じ部族の踊り子高嶺(たかね)。 部族では、巫女として踊りを任されていたらしい。良くも悪くも明るい。マイペースかもしれんが。天性の踊り子と言える、素晴らしい才能の持ち主だが、踊りたいと感じれば踊り出すという癖はどうにかして欲しい。 以上で人間は全部。次は人外。 伝説の剣『蒼の守り神』を本体とする、勇者の守護精霊の蒼月(そうげつ)。 まあ、今のマスターは那智と血無って事だ。その名の通り、蒼い。不思議な色合いの青――蒼だ。パーティ内で一番まともだが、長いブランクがあるせいか、たまに一般常識が欠如する時がある。至極真面目な人格。実体はない。 それで……だ。こいつが、こいつが一番問題なんだよな。 これからいうことはやっぱりフカシじゃないし、誇大広告でもないことを胸に止めて欲しい。 最後のメンバーにして最大の人外。その名を紫明(しめい)というのだが………。 ――次期魔王……だったりするんだな、これが。 なぜ勇者のパーティに魔王がいるかと言われれば、成り行きとしか言えない。那智が勇者となったその場所で、城に殴り込みに来た紫明は那智に……一目惚れ、したらしい(正確にはちょっと違うけど。詳しいことは『とんでもねぇ勇者ども』で)。 こんなパーティで、まともな冒険が出来るはずもない。この前なんて、こんなパーティで神殺しだ。よく生きてられたもんだと思う。 全ての始まりはあれだよな。俺はただ、『蒼の守り神』を見に行っただけなのに……。 はあ……なんで俺、こんなパーティの一員になっちゃったんだろう……? ←BACK◆NEXT→◆本編TOP |