第一章 腐れ縁の始まりは……
俺の名は駿河(するが)。武闘家兼賞金稼ぎで十八歳。ちなみに男。 つい数週間前までは保護者兼師匠と暮らしながら、毎日修行に明け暮れていたのだが……今回あることが目的で、無理矢理休みをもぎ取って旅をしている。 一人旅ではない。一応連れがいるが……相棒(仮)または(?)と言ったところだ。 今、俺の目の前にはどどん! とばかりにおっ建っている、壮大な建物がある。門のところには、かるくとはいえ、武装した二人の近衛兵。ここは、ネルスデル城という。 俺は知らず呟いていた。 「でっけぇ……」 もーそれはまさに無意味と言っていいぐらいにでかかった。問答無用にでかかった。国の主の住むところだからして、多少でかいのは当たり前なのだろーが……何もここまででかくなくとも。 俺がそう常識的な考えに思いを馳せていたとき、 「駿河ぁ、駿河ぁ、大きいねっ!」 興奮して顔を赤くしている少女。こいつこそ、連れの那智(なち)だ。 ここへの旅の途中迷子になってるのを運悪く発見し、目的地が同じ、ここネルスデル城だというのを聞き、そのあまりの危なっかしさに一緒につれてきたのだ。 だから相棒(仮)または(?)なのである。無印にするには、ちょっとこの少女は危なっかしすぎる。 束ねず背中に流したままの長い黒髪に、透き通った大きい青の瞳。まあ、お世辞じゃなく可愛いと言っていいだろう。しかし。 ――百五十あるかないかのどちびな体。いかにもお人好しで、のんきそうな……たとえ詐欺にあっても、詐欺にあったということ自体に気づかないよーなタイプによくある、ぽやっとした(マヌケっぽい)顔。 これら全てから俺は、那智はせいぜい十二、三歳ぐらいだろうと見当をつけていたのだが……それが大きな間違いだと気づいたのは、那智自身に言われてからだった。 彼女自身に言わせると、なんと俺の一個下の十七らしい。 ――見えんかった。絶対に、今も見えない。童顔と言えば聞こえはいいが……そういうのとも違う。 「駿河ぁ、ここで『蒼の守り神(あおのまもりがみ)』が見れるんだねえっ!」 「ああ。この、ネルスデル城でな!」 ネルスデル。この国の名前だ。国の広さは大きくもなく、さりとて小さくもなく、中間程度。技術も豊かさもそれなりで、先進国ってわけでもないが、田舎っていうほどでもない。良くも悪くも、全てにおいて程々な国だ。 だがそのわりに、城のでかさは尋常じゃない。 こんな城にかける金があるなら、税金下げるだとか、俺みたいなビンボー人を助けてくれりゃあいいのに。この城は国民の税金で造ったんだろ? まったく、国ってやつぁ……。 「駿河ぁ? どうかしたの……?」 「え? いや、何でもない」 「じゃあ、早く『蒼の守り神』見に行こーよ!」 さっきから那智が連発してる『蒼の守り神』とはこの国の国宝だ。今はちょうど、建国五百年祭の真っ最中で、普段は拝むことすらできない『蒼の守り神』が、タダでっ、そうっ、タダで触ることができるのだ!! タダ、タダ、タダ。これは聞いちゃ、俺は黙っていられない。 「ふっふっふ……」 思わず笑いもこみ上げるってもんだろう。 「駿河ぁ……?」 ――だめだ。つい嬉しさのあまり含み笑いなんぞをしたが、はたから見れば、怪しいことこの上ない。その証拠に、那智が訝しげにじーっとこちらを見つめている。 な、何とかごまかさなければ。 「……さー、蒼の守り神見に行くぞっ!!」 「うんっ!」 那智が威勢のいい声を上げる。我ながら、かなりあからさまな話題そらしだったが……どうやらごまかされてくれたようだ。那智が単純な奴で助かった。 こうして俺と那智の二人は、城へ足を踏み入れたのだった。 ←BACK◆NEXT→ |