〜とんでもねぇ勇者ども外伝・三者面談 後編〜 −翠氏に捧ぐ−

「今日……四時から三者面談なんです」
「四時っつーと、あと一時間弱か?」
「そうだね。三十分ちょいかな? なんでこんなとこにいるんだい?先生が心配するだろう」
 壱夜のもっともな意見に、駿河は一瞬息を止め、それでも言った。
「どうせ、二者面談になるし……それなら行かない方が……」
「はあ? どーゆーこった。斬雪さん、今日いないのか?」
 師である斬雪は、時折この学校で武闘の臨時講師を務めていた。だから志摩や壱夜なども、彼のことをよく知っている。
「いないわけじゃないけど……似たような、もん」
「ちゃんと話してみなよ、スル君」
 優しい言葉とは裏腹に、有無を言わせないそれに、駿河は全部喋った。斬雪がすっかり三者面談を忘れてたこと、喧嘩したこと、そのまま出てきたこと。
 やがて二人がゆっくり目を見合わせた。
「……それで結局お前、教えてこなかったのか?」
「だって……なんか悔しくて」
 自分との約束を、すっかり忘れてしまった保護者が、とても憎らしくて。すごく腹が立ってしまったから。
「まあ、気持ちはわからないでもないけどね」
 肩をすくめて壱夜が苦笑いした。
「でも、言わなかったら絶対こねえじゃん。いいのか、それで?」
「……忘れるぐらいなら、来なくていい」
 突き放すように言ったそれに、志摩もまた苦笑いした。駿河の頭に手を載せ、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「素直じゃねえなあ、お前」
「お前に言われたくないと思うよ、志摩」
「うるさい、壱夜」
「…………」
 素直じゃないのも、馬鹿なことしたのもわかっていた。でも、あの人には約束を覚えていて欲しかったのだ。ワガママだと、わかっているけれど。そんな義理が彼にあるなんてとうてい思えないけど、それでも。
「なあ、スル」
 頭をもう一度撫でられて、顔を上げれば志摩の琥珀色の瞳と出会った。意外にも、優しい眼差しで自分を見ている。
「四時過ぎてもいいから、斬雪さんにちゃんと話して呼んで来いよ」
「でも……」
「大丈夫だよ、スル君。こっちでちゃんと担任には連絡とっておいてあげるからさ」
「よーするにお前、寂しかったんだろ? 約束じゃなくて、自分が忘れられた気がしたんだろ?ばっかだなあ……」
 クスクスという、先輩二人の笑いに、どこか照れくささを感じる。
 志摩の言葉は、真実だと自分が一番わかっているから。
「来てくれるかな。あんだけやっちゃたし……」
「大丈夫だって、今回はスル、お前じゃなくて斬雪さんが一番悪い」
「斬雪さんは、そんな心の狭い人じゃないでしょ?」
 うん、と小さくうなずいて、二人を見た。先輩二人は楽しそうに、おかしそうに、まだ笑っている。
「ほんっとバカなんだから、お前は……」
 バカバカ言わないでください、と反論しようと思った瞬間、答えは全く予想もつかないところから返ってきた。
「――まったくだ」
「え!?」
 聞き覚えのありすぎるその声に、駿河は思わず身をすくめた。
「このバカ弟子ときたら、師の理解範疇を越えたバカだからな」
 志摩と壱夜が、おかしくてたまらないといった風情で、駿河の後ろに歩き出した。
「こう言っちゃなんですけど、斬雪さん。今回悪いのはスル君じゃなくて……あなたでしょう?」
「……全部ばれてるのか」
「モロばれ。観念したらどうだ? 斬雪さん」
 ふう、という、斬雪のため息の声が聞こえた。
「こら、駿河」
 呼ばれて、恐る恐る振り向いた。
 師は、怒った様子もなくいつも通り立っていた。
 いや、いつも通りではないと言えばそうである。長いざんばらの銀髪はきちんと後ろで結われ、服もいつもと変わらぬ東方の衣装ではあるが、なんだかいい生地を使ったよそ行きで、ぴしっとしている。
 完璧によそ行きバージョン、参観日のお母様状態の師匠は、弟子に尋ねた。
「三者面談……どこでやるんだ。時間がないだろう? 連れてけ」
 驚きに目を丸くしたままこっくり頷いて、側まで駆け寄る。
「ほれ、行くぞ」
 背中をぽんと叩かれる。それだけで、安堵するのを駿河は感じていた。
「スル、三者面談頑張ってこいよ」
「適当でいいからね、スル君」
 先輩の励ましに、満面の笑みで答えて駿河は師の服の裾をつかみかけだした。
 そして志摩と壱夜の姿が見えなくなった頃、斬雪は、駿河の頭を豪快に撫でた。あまりに唐突な行動に、駿河はぐちゃぐちゃな髪のまま、目を白黒させて師を見上げる。
「師匠?」
「――悪かったな」
 ぶっきらぼうで簡潔すぎるそれに、一瞬何を言われたのかわからなかった。
 だから、思わず聞き返した。
「え?」
「忘れてて、悪かった。これからは、そういうことがないように気をつける」
「……うん」


「あー……それで、駿河君の進路希望は」
「――本人の自由」
 担任がびびりながら言った質問の答えを、斬雪はあっさり一言で終わらせた。
「しかし、斬雪さん。それではあまりに……」
「俺にこいつを縛る権利はないと、何度言ったらわかる!?」
「し、師匠……。そんな脅さないでも」
「脅してなんかいねえよ」
 すでに涙目になりかけの担任と、どこまでも喧嘩腰の師に駿河はため息をついた。
 前から思っていたが担任は明らかに文系の人で、斬雪の眼力に耐えられる根性があるようには見えなかった。やはり止めるべきなんだろうか。
 ――でも……嬉しいしなあ。
 とんちんかんなことを思いながら、駿河はすぐにゆるみそうになる顔を引き締めるのに必死だった。
 なんだかんだ言いながらも、こうしてきちんとした格好までしてきて、三者面談につきあってくれた。それだけで駿河には、充分に思えた。
「保護者としての責任をどうお思いですか、あなたはっ……!」
「だから、俺の意志でこいつの先を決めるわけにもいかねえだろ。こいつの自由、それでいいじゃねえか!」
 どうやら担任と師の意見は、どこまでも平行線のようで。このままだとずっと押し問答が続きそうだと、駿河はぼんやりと思った。
 ……その前に、斬雪が机とかひっくり返しそうだ。
 仕方ないか、と駿河は心で呟く。
 積極的に話に参加して、早くこれを終わらそう。そして、ゴメンナサイの代わりに家に帰って晩ご飯を作ろう。もちろんおかずは、師の好物を集めて。
「先生、俺も一応思ってることがあります」


おまけ
 駿河と斬雪が去ったあと、残された二人は堪えていた笑いを爆発させた。
 お互いの肩を叩きながら、二人は笑いの渦に巻き込まれた。
「あはははははっ!! なあ、志摩。斬雪さんの格好見たか?」
「くくくっ。おおよ。どうせ希陽校長にやられたんだろ」
 二人の脳裏に浮かぶのは、この学校の創始者にして現校長を務める、斬雪の友人である希陽の姿だった。
「だろうなあ。彼女もスル君に甘いからねえ」
「斬雪さんに三者面談教えたのだって、校長だろ、多分」
「というより、教えたことを口実にして斬雪さんにあの格好をさせたんだろうね」
「そうじゃなきゃ、あの人があんな格好するかよ」
「なんだかんだ言いつつも、斬雪さんだってスル君に甘いから。誰かさんと同じでね」
 何かを含んだ言葉に、志摩が少し顔をゆがめた。怒りと言うより、驚きに。
「どーゆー意味だよ」
「そのまんまだよ。ここにいる誰かさんも、あのワンコのよーな後輩にすごく弱いってことさ」
「その誰かって、お前か壱夜?」
 じと目で見る友人を、壱夜はさらりとかわす。
「僕? 否定はしないけど、僕以外の誰かさんもだろう?」
 志摩はしばらく考え込むようにしていたが、やがて小さく楽しげに、ぽつりと漏らしたその言葉を、壱夜は聞き逃さなかった。
「……くっ。違いない」


〜とんでもねぇ勇者ども外伝・三者面談 終〜



〜あとがき〜
こんにちは、刃流輝(はる・あきら)です。
『とんでもねぇ勇者ども外伝・三者面談』を読んでいただき、ありがとうございます。
はい、外伝です。………………………………本編じゃなくてすいません。
今回の作品は、友人である翠君の誕生日に捧げるために書きました。
気に入ってくれるか今からドキドキです。
なぜなら、魁氏が求めていたのは三者面談する師匠であって、その前の部分はいらないからです。ごめんね、魁君。
最初は駿河と師匠のみだったはずが、希陽さん、志摩が出て、『外伝・兄妹』のゲストキャラにしか過ぎなかった壱夜まで出て……もうどうしましょうな状態です。しかし、意外に気に入ってたんだな……壱夜。
五年前の駿河、いかがだったでしょうか。今よりずいぶん可愛らしい少年だと作者は勝手に思っております。素直だし。
そして、師匠が予想以上に情けないキャラに成り下がり、それをも上回る感じに希陽さんが強い人になったのが一番驚きです。
こーゆーハプニングがあるから楽しいと思う作者は変なのか。

ではでは今回も、この作品を読んでくれた方に最大級の感謝を雨あられにお送りいたしましょう!傘の用意はよろしいですか?(笑)
勇者どもを少しでも、面白いと感じて下さった方、こんな阿呆な作者に興味を抱いて下さった方は、メールか掲示板にて連絡を。
一言でもすごい喜びます。書く事なんてないとは言わず、なんでもいいから書いてやって下さい。哀れだと思って。
では、この作品が少しでも楽しまれたことを願って。

〜2002.10.29 灰色受験生・刃流輝〜


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