今回はアナスイの険しく長い片思いの軌跡とそれに対する徐倫の心情の変化を本編のエピソードを追いながら検証してみたいと思います。
先ずアナスイが本編に本格登場したのは単行本が7巻を数えてから。メインキャラの中では最も遅いデビューです。多分このキャラの使いどころを荒木先生が曖昧なまま連載を始めたのが原因かと思われますが、初登場の音楽室でのシーンがもう少し練られてから描かれていれば良い伏線になったのではないかと悔やまれます。(逆に良いネタになったという話もありますが・・)
さて、藪から棒に既に徐倫に惚れ込んでいた彼、有名すぎるセリフ「祝福しろ」と言いながら徐倫の元に駆けつけます。
徐倫がアナスイの姿を認識したのが8巻後半に入ってから。
彼への印象第一弾「誰だっけ」(ひっでええ〜・・・)
アナスイが徐倫への恋心を勝手に燃やしていた一方、徐倫の方は彼に対し全く関心の範疇外だった様子です。
更に印象第2弾「確かエンポリオ少年の所でウェザー・リポートと一緒にいた・・・」ううむ、他人のオマケレベルの認識です。
うがってみるならアナスイは徐倫にとって全く好みのタイプでない。とも取れると思います。
少しは興味を引く相手だったらもう少し覚えててもいいんじゃないでしょうか。
まあ、ロメオショックで男性不信の根が深くなっているのかもしれませんが、
「エンポリオと一緒にいる=音楽室幽霊を認識できる=スタンド使い?=味方になる??かも?」位の連想はしてもよさそうなものです。
「対 ケンゾー戦」
さて、いよいよ徐倫とアナスイが会話を交え接触し始めます。
満身創痍の徐倫をかばい一人ケンゾーに立ち向かうF・F。彼女を助けて欲しいと言う徐倫に対し「俺の契約は君を守る事だけだ」と言い放つアナスイ。(人でなしです。)
徐倫の恋ゲージ、「アンジェゲーム」だったら一挙にブルーカラーだよ・・・。
こういう物言いを見るに、この時のアナスイは徐倫が自分をどう見ていても構わない、といった感じです。彼女の意思関係なく手に入れるつもり、みたいな。(まあ、この態度もこの時だけですが)この頃はカッコよかったよねえアナスイ・・・。
−で、ケンゾーをアナスイがD・Dであっけなく倒した時も徐倫は新密度が上がる、というよりはアナスイに対し脅威や畏怖を感じています。「味方らしくない味方」といった設定を描こうとする荒木先生の演出を感じます。
「対 DIOの骨」
ケンゾー戦が終わった直後、一瞬の息抜きタイム。
アナスイは「転んだ徐倫をカッコよく助けてポイントを稼ごう」というセコイ企みをF・Fに提案します。
早速「妖しい二枚目キャラ」が崩れて来ています。
珍騒ぎが未遂に終わった所でDIOの骨が周囲を異変に巻き込み始めます。
植物化した徐倫を口で確かめるアナスイ。
徐倫をアナスイがリードする数少ない(少ないあたりがなあ・・)見せ場です。
この時の徐倫が実にキュート。「え、今なにされたの?」ってな表情です。
アナスイの行動としても未知の存在に対し動じない頼もしさ、とか意表をつく底知れなさ、とか冷静に分析する頭の良さ、とか言ってて涙が浮かんでくるのは何故。
・・・色々な点でお株の上がるシーンでした。
「対 ヨーヨーマッ戦」
DIOの骨が変化した球体を手に入れた一行は懲罰房棟の外を目指します。
アナスイは途中で見つけた正体不明の囚人(グッチョ)をトラバサミに改造してみたりついでにDアンGの腕も破壊してみたりと非情さをここでも披露。
ラスト近くの彼からは想像も出来ないお役立ちっぷりです。
F・Fと別れ、ボートで湿地帯を進むアナスイと徐倫。(オマケ・スタンドのヨーヨーマッ。)
草の影でボートを止めるアナスイに対して
「何故ボートを止めさせる?」と怪訝な様子の徐倫。
更に看守に見つかった時には
「エンジンをかけてすでに発進していれば・・・」
と、心の中でアナスイの作戦に対し非難ゴーゴーです。
アナスイ信頼度ゼロ。
まあ、この時のピンチはアナスイのダイバー・ダウンがあっさり追っ手を一掃してしまったので、徐倫の不安はアナスイのスタンド能力の強さを演出するため、という荒木先生の考えあっての事と解釈します。
この時同時にヨーヨーマッの攻撃の伏線も張られているので荒木先生のネーム展開は巧みです。
ヨーヨーマッの攻撃を徐倫が気が付いてからは、危険を知らせたい徐倫と全然わかってくれないアナスイの珍騒動が描かれます。
アナスイの色ボケ炸裂。
こんな時にキスとかしたいわけないじゃん!本気で思ってる所がスゴイです。
ここら辺でさらに「冷徹非情で危険な二枚目」のキャラ像が崩れていっています。
とはいえ、徐倫の中でアナスイは「よくわからないけれど頼りになる味方」、という認識はされたようで、この時あたりから何かの折に徐倫はアナスイにすがるようなというか触れる仕草をしだします(深い意味はゼロ、ですが。ただ今まで味方という認識すら薄かった徐倫にすればこれは進歩なのではないでしょうか。)
全く自分の考えをわかってくれないアナスイを置いておいて単独ヨーヨーマッの攻撃を受ける覚悟を決めた時も「味方であるアナスイにヨーヨーマッの脅威と攻撃方法を知らせる」事を前提にしています。
徐倫がヨーヨーマッの攻撃の前に倒れた後はようやく事の次第に気が付いたアナスイがヨーヨーマッを倒します。アナスイ、カッコイイですねー。彼が最も輝いていた頃です。(涙)
「対 緑の赤子戦」
F・Fが神父と遭遇しながらもDアンG殺害に成功したのでヨーヨーマッは消えていきます。その様を見ていた徐倫は球体が割れていることに気が付きます。ここら辺、二人の立ち位置が寄り添い合っている様でチェキラッ!です。
生まれ出た物を追うアナスイと徐倫。
異変を察知したアナスイは徐倫に追うのをやめろ、と警告します。
しかし徐倫は「考えるのは、行くところまで行ってからよ」と、猛然ダッシュ。
うーん、全くアナスイの考えを尊重してません。懲罰房棟からずっと、アナスイの提案は何気にいつも的を得ているのですが・・。
自分の考えに賛同しない徐倫に対しアナスイは「おれはその集中力に引き付けられてここにいるのだ」と、普通に惚れ直しています。
ここら辺で「徐倫の尻に引かれるアナスイ」の下地が出来初めているというか。
アナスイにとっては自分の意見に従う云々よりは自己の意見をハッキリ持っている女性の方が萌え要素なのでしょうか。断言はできませんが、この戦い以降、アナスイは己の考えよりは徐倫の意見を優先してサポートするようになります。
緑の赤子戦は赤子の方から徐倫に近づいてきてくれたおかげで決着をみますが、この戦いもダイバー・ダウンは活躍しっぱなしでした。
窮地を抜けた徐倫はアナスイに対し改めて礼を言い、「何故自分に協力するのか?」とも聞きます。
徐倫にとっては一緒に戦ってくれる味方、という事はわかっても「F・Fがいきなり連れてきた助っ人」なわけですから協力してくる理由に疑問を持っても不思議ではありません。
そんな徐倫に対しアナスイは「君はわたしに与えてくれている」(この一人称、変。)
とラブモードに突入しようとします。
考えてみればこれが二人の落ち着いた場所で改まっての初めての求愛シーンなのですが、徐倫の方は思いっきりスルー。
男性不信の徐倫には軽くて甘いラブセリフなど心に届かないようです。
さて、そんな二人の所にF・Fとウェザーが合流します。
再会したウェザーに微笑みかけ「傷はもう大丈夫なの?」と抱きつく徐倫。
今まで異性に対してオープンな行動をしなかった徐倫なだけにファン的には衝撃シーンです。(多分)
それほどラング・ラングラー戦で培ったウェザーに対する信頼が厚いのでしょう。同じように戦いを共にしたアナスイと比べてエライ違いです。このように微妙なニュアンスで男キャラの人となりに差をつけるのも6部ならではのテイストです。
当然面白くないアナスイはF・Fに二人を引き離せと命令します。
自分で直に言わないあたり・・・徐倫に嫌われたくないのか、ウェザーがコワイのか微妙です。とはいえF・Fに対し差別用語&暴言をはきまくるアナスイ。最低です。F・Fもよく我慢してるな、という感じです。どんなに自分を侮辱されても今の状況でアナスイの戦力を失うわけにいかないからグッとこらえているというか・・・泣けてきます。
気持ちを取り直し、緑の赤子を始末しようと提案するアナスイ。躊躇する徐倫をいさめ、ウェザーに対しても了解してくれと言うアナスイ。(ウェザーに対しては「アンタ」と言っているあたり、やはり他の人間よりはウェザーに対し敬意?を払っているようです。)
しかしウェザーの答えは全く予想できないものでした。
「了解なんか出来ない。死ぬのはお前だからだ」
「対 ホワイト・スネイク戦」
なんとウェザーはホワイト・スネイクが化けていたものでした。
ホワイト・スネイクは手刀で徐倫、アナスイ、F・Fを瞬時に一掃します。
唯一致命傷を逃れた徐倫と神父は一騎打ちバトルを展開。
戦いは徐倫が優勢でしたが神父は承太郎のディスクをアナスイに投げつけ徐倫の気をそらします。
徐倫はアナスイの元に駆けつけるも間一髪でディスクはアナスイの死に引きづられて彼の体内に・・・。
「医者が必要よ!」と叫ぶ徐倫の姿を見てかすかに意識のあったアナスイはスタンドを通してF・Fに呼びかけます。
「俺の体をくれてやるから俺の命と知性を使ってディスクを取り出せ」・・と。
読者衝撃のシーンその2(多分)
直前まで暴君&人でなしぶりを披露していたアナスイだけにもう、自分は助からないとわかった時のこの徐倫への献身的な態度は驚愕&感動でした。
さて、ここで注目したいのはアナスイが自分の存在すら捨ててまで守りたいと思ったのは「承太郎のディスク」という事です。
徐倫自身を守るためではなく、自分の評価を高めるためでもなく「彼女が悲しんでいる」、その現実のためにアナスイは自己を投げ捨てようとしたわけです。
・・・なんか、すっごい深くて大きな愛に思えるんですが。
とても「浮気現場を目撃した勢いで恋人と相手の男をバラバラに殺害した」前科者とは思えません。
アナスイにとってどちらの愛し方が本来の姿なのでしょうか。
徐倫が特別なのでしょうか。
昔の恋人の裏切りが余程ヒドイものだったのでしょうか。(・・・にしてもバラバラは行き過ぎですが)
そんなアナスイの行動は露知らず、ひたすらディスクの行く末だけを心配している徐倫。ですがそんな彼女に立ち上る煙と共に話しかける者が。
アナスイの魂??・・・と、思いきやF・Fでした。
F・Fはアナスイの覚悟と真実を知って命の枠を彼に譲り、自分は消滅の道を選んだのでした。
「徐倫見て、これがあたしの魂、あたしの知性。あたしは生きていた。」
あまりに哀しくそして美しい余韻と風と共にF・Fの魂は消えて行きました。
トランシーバーからF・Fの死を知らないウェザーのF・Fを探す声が切なく響きます。
F・Fの名を何度もつぶやき呆然と立ち尽くす徐倫。アナスイは足元に転がったまま。(笑)
「アナスイがディスクを取り戻したんだ」
と言うF・Fのフォローがどれ程徐倫への新密度アップに貢献したのかは定かではありませんが、読者に対しては確実にアナスイもJOJOの味方キャラたる資格を持っているのだという印象をつけた所で舞台は脱獄・・外の世界へと移ります。
<中編へ続く>
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