土曜日は憂鬱だ、と男は思う。
いつもは自分の憩いの場であるべき家が軽い牢獄になる。
娘が連れてきた青年に対し、初対面で邪険な態度をとってしまった事を今は後悔をしている。
結果的に仲を取り持とうとする娘によって毎週強制的に顔を合わすはめになってしまったからだ。
目の前で昼食の準備をする娘と、部屋の時計を修理する青年。
昔馴染みが「羨ましい」と冷やかした事があったが男にとっては笑えない話だ。
例え、どんな青年が現れたところで似たような反応をしていたとは思うが、覗き込むように目を合わせてきて、臆面も無く娘への求婚の許しを願い出た「彼」に調子を狂わされたのは認めざるを得ない。
青年が時計の針を合わせ
直りましたよ
と、振り向く。
器用なものだな
有体な言葉を返せば青年は微笑み言葉を続ける。
機械は簡単で良いですよね。バラバラにしても元の通りに戻せば蘇りますからね。
でも生き物だとそうはいかないでしょう?
魂とか心とかいう部分、どんな風に体に入っているんでしょうね。
どうやって命を分解したらそこに辿り付くのかって、思います。
ごめんなさいね父さん。
彼、時々冗談を言うのよ。
まさか、試した事があるのかと沈黙したまま青年を凝視すれば娘がキッチンから声をかけてくる。
冗談に、聞こえなかったその話題を自分は何処かで聞いた事があった、と不可思議な既視感に誘われながら男は浅く溜息をついた。
プロコフィエフの「雨と虹」
動き出した時計が憂鬱な土曜の正午を奏でていた。
終
2003.11.18
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