海流の中の島々 〜望郷編〜




 心地よい酔いも束の間、また地獄の難民船に乗り込まなければならない時が来た。
 しかも今回は臨時席である。レストランか喫茶室、もしくはロビーの床に寝転がらなければならない。
 暗い気分で船を待っていると、フォークの運ちゃんが「どこ行ってきた?」と声をかけてくる。
 「加計呂麻に行かんと。加計呂麻はえーよー、全然違う」と言われる。
 いつになるかわからないが、次は加計呂麻に行ってみようと思う。


  
地獄船 名瀬港倉庫
台車 自転車


 難民船『フェリーあかつき』が、那覇から戻って来た。
 悪魔の胎内に再び呑み込まれていく。
 マイ臨時席は『レストラン六甲』内だった。ロビーよりマシやろと言われれば、そうかもしれないが…。
 「乗せてもらえるだけありがたく思え」と言わんばかりの雰囲気の中、「まったく仰るとおりでございます」と思うことにして、酔いに任せてさっさと寝る。


夜の名瀬港 早朝の難民船


 再度、地獄の一夜がのろのろと過ぎていく。


垂水行きフェリー 垂水港


 やっとの思いで脱出。
 今日の目的地は志布志である。
 当初は桜島の南岸を自走していく予定だったが、鹿児島〜垂水間フェリーの存在を教えてもらったので迷うことなくそちらを選ぶ。
 鹿児島市内を南下してポートピアっぽい街並みを過ぎ、海に突き当たったところに鹿児島鴨池港がある。
 桜島を眺めるでもなく、寝不足でうとうとしている間に垂水着。


最南端への道 地獄峠


 ここから大隈半島を横断していく。
 海辺をしばらく行くと小さな峠を越え、佐多岬方面への分岐点に差し掛かる。
 佐多岬への道のいちばん先端部分はバス会社の所有で、自転車は通れないそうである(これも昨日教えてもらった)。
 しかし、今回はもとより行く気も無いので、そのまま220号を直進する。
 と、鹿屋へ向けて、地獄の坂が待っていた…。



あと20キロ 志布志市街


 大隈半島はうねうねと坂が多い。
 のんびり走るには悪くないが、寝不足で疲れた身体にはけっこうこたえる。
 それでも今日はもともと距離が短いうえ、垂水までフェリーに乗れたので行程的にはとても楽チンである。
 大崎の道の駅で風呂に入るが、日焼けが痛過ぎ、死んだ。


さんふらわあ 壊れたブレーキ


 今回の旅行で唯一まともな船と呼べる『さんふらわあ きりしま』に乗り込む。
 この船も昨日までは、とても常識では考えられないほどのGW超ドボリまくり料金だったのだが、今日からは通常運賃である。
 と、思うと船内のビール(500ml)が450円で、結局ボラれる。
 しかし、昨日乗ってダブルでボラれるよりはまだマシかと思って気を鎮める。
 いつもべろべろになるまで飲んでしまう私にとっては、ボラれるほうが歯止めも利くし、良いと言えなくもない。
 このように悪質な料金設定の船なのだが、やさしいところもあって、出航の2時間以上前に行ってもすぐに乗船させてくれた。
 おかげで、出航まで船内に延々と流れ続けている"さんふらわ〜さんふらわ〜"という歌が強烈に焼き付いてしまい、耳を離れない。
 今日は2等寝台が取ってある。しかし、背中の水ぶくれがどうにも痛過ぎる。
 眠ったのか眠れなかったのかよくわからないまま、大阪南港着。
 この船の到着時刻は7時40分なのだが、なかなか下ろしてもらえず、下船出来たのは8時をかなり過ぎていた。
 粉塵が舞う大阪南港の道を、生駒山地目指して漕いで行く。
 と、後輪ブレーキが全く効かないことに気づく。
 よく見ると、ブレーキパットが取り付け台座ごと無くなってしまっている!
 通りすがりの自転車屋に寄るが、台座がないためパッドを取り付けることが出来ない。
 前輪ブレーキのみで室生や青山の急坂を下るのは自殺行為に近い。
 そんなわけで仕方なく大阪教育大学前駅から近鉄電車に乗り、自転車の旅は唐突に終焉を迎えるのであった。





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