わかりやすい恋
角川文庫
1997(昭和62)年12月18日 初版発行


在庫の有無は角川書店ホームページ
言葉は暗号です。
ひとつの言葉が、いろいろな意味に理解され、誤解され、すれちがい、人々は思いを伝えあいます。
誰が、暗号をといてくれるでしょう。なぞなぞは、むずかしいほど解くかいがあります。
会話は、一瞬の芸術だから、シャボンのように消えようとも、星のように光ろうとも、見える人にしか見えません。
見てしまえば意識の革命です。
好き、ということは、一度言えば、それでいいのです。


  (「わかりやすい恋」表紙裏より引用)

(写真の場所はどこですかと、よく聞かれますが、北海道の稚内と礼文島です。こんなにちゃんと人物の写真をとるのははじめてだったので、すごくキンチョウしました。(と、思う。)白黒写真の紙焼きがとても楽しかったです。
(写真モデルは、10代の森高千里)


(「つれづれノート」1巻160ページより引用)

101ページに「わかりやすい恋」という詩がありますが、その恋は、
「あなたへも私へも
わかりにくい恋です」
と。
夏生さんの恋の中には、友達の彼を好きになってしまった。あるいはその彼も夏生さんにもに好意を持つというようなものがにおう詩があります。その逆かもしれない。こんな恋にわかりにくさがあるのかもしれません。
また、「言葉は暗号です」とあるように、お互いにどのような立場にあるにしろ自分の気持ちを素直に出せないで、お互いが発する何気ない言葉に意味を持たせようと、その何気ない言葉が暗号のように心に残る。
そんな二人のもどかしい恋。
好きだと思うことはたしかなこと、その心だけを見つめれば、この恋は「わかりやすい恋」だ。でもそれが出せない中に、暗号のような言葉が恋をわかりにくいものにする。
こんな他人には覚られたくない秘めた恋ならば、暗号のような言葉が二人にはまるで詩の様な言葉となり、「会話は、一瞬の芸術」かもしれません。
このページを作るために電車の中で読み返したのですが、隣に座っていた若い女性が本と僕の顔をちらりと。たしか二十代の森高千里のかわいい写真ばかりの恋の詩ですからね。。。。おじさんとしては少し恥ずかしかったです。やはり一人でいるときにおじさんとして、夏生さんの詩に心の秘めた高まり感じていたほうがいいのかもしれません。

夕螺
銀色夏生ページ 掲示板
   僕の好きな詩
P、6「あなたの週末」 
楽しい二人での週末。でも、恋をしていたのは過去のあなた。そんな私を捨ててよと。これからの週末は、あなただけの週末。 
P、8「この場所から」
お互いの心を確かめ合ったことのない二人。でも、この恋は本物。そんな二人が今いる「この場所」。この場所から動くのは二人が決めること。それがどんな方向なのか。でも、もう迷いもしないし考えない。
P、16「霧雨のバーガーイン
魔法が解けたように二人の間は「居場所」がないようになぜかぎこちない。二人の中も変わっていく。変わることは仕方ないけど、悲しい。さよならの予感。外に出たとき、雨音の中の最後のあなたの言葉を聞き逃してしまった。
P、26「ビルの陰まで50cmさむいからここにいた」
寒いからビルの陰をよけて君を待っていた。ふと君が現れてその君の陰が僕に抱きつくことを思いながら。僕たちの小さな心臓の音はお互いに届いているはずだよね。もう少し待ってあげる。ビルの陰は30cmまで近づいた。
P、28「電話帳を何度もめくって」
電話帳を何回もめくっては躊躇した。なぜ映画を見に行こうと言うことが難しいのだろう。その題名が「狂気いピエロ」だから?夏生さんも風変わりな娘(こ)と見られていたし、「夕方らせん」の世界に出てくる男性。。。。。。少し深く読みすぎかな?
P、36「恋人に出会って・・・・・」
恋人に出会って世界が変わるというのは本当だろうが、そんなのまっぴらだと。素直になれない自分。でも、これは夏生さんの生き方に深くあるものではないかと思う。その後の結婚生活。
P、51「あなたをあきらめる理由を・・・・・・」
かなえられない恋だから、あなたの嫌いなところを探してみた。たくさんあった。でもこんなことをしている自分の恋の深さにハッとした。
P、70「海」
二人で海に行った。そのとき海辺ではしゃぎながら僕を呼ぶ。そんな女性のかわいらしさがよく出ている詩です。
P、75「君の意地悪でわがままなところ・・・・・」
そばで寝ている君の顔を見ながら、ふと考えた。意地悪なところやこの愛を認めないところ。君が行きたいという草原。生き方。それをイラストにしたら、君がかっこよく見えてきた。そしてうらやましくも。。。。。なんとなくおいて行かれるような気もしたのかな?
P、94「あなたが私にとって・・・・・」
あなたにはわからない私の心。でも、私はあなたが大切な人だとわかる。
P、101「わかりやすい恋」
普段何気なく顔を合わせるような二人なら、一言かわすのも無理をしなくてもいい。でも僕たちは、微笑み会うことさえできない。こんな「わかりにくい恋」。「わかりやすい恋」ならいいのにと?自分の友達でもある彼女と付き合う彼、そんな彼との自分との微妙な関係を思い起こします。
P、114「ため息の遠心力」
近くにいるあなたなのに、あなたのため息は私を遠くに飛ばしてしまう。
P、133,134「追いかけることを・・・・・」
「追いかけることをやめるとき」「私たちは未来に希望を見出すだろうか」短い言葉です。でも、なんか深さが。。。。。自分の友達を彼女としているあなた。だから私があなたを追いかけることをやめればいいのだろうか?そのことが私たちの未来にとって希望を見出すことなのだろうか。。。。。
どんな恋でも、追いかけなくなったとき、それは終わる。恋もそうですが、これと思ったときにはとことん追いかける。だめだったり合わないと思ったらいさぎよくやめる。夏生さんのたくましい生き方です。
夏生さんの恋には、こんな微妙な恋があったように思います。「わかりやすい恋」という詩集には、全体を通してこんな二人が描かれているのではないかと思います。
銀色夏生さんの「わかりやすい恋」の世界へようこそ。こちらは「わかりやすい恋」の紹介と僕の感想のページです。一部の引用を除き僕の個人的な感想です。よろしかったら皆さんのお声も聞かせてください。