私が、生きていく上で注意していることがもしあるとすれば、それは好きなものを好きでいることができるように生きているということです。いつでもその時好きと思うものに対して何の障害もなく好きでいられるように、自分の気持ちを邪魔するかもしれないものを無限の未来を縛る恐れがあるものを、心や環境の中に存在させないようにしています。残酷なことかもしれませんが、好きなものを好きでいるために、私にとっては世界は一瞬一瞬が0からはじまります。 (「君のそばで会おう」裏表紙より引用) 「君のそばで会おう」の中の写真は、「いろいろなところがあります。伊豆やパリや高速道路や月や北海道や宮崎や北陸や八ヶ岳やアラスカやモルジブやニューヨークや太平洋やスペインなどです。」(「つれづれノート」177ページ)と書かれているように旅先で書かれた、あるいは旅先の思い出と書かれたと思われる詩が多いようです。結婚後も旅をされていますが、独身の頃は方々へいらしていたようですね。一人旅もあれば、グループ旅行もあり、または恋人との二人旅もあったのか?いろいろと想像できる詩があります。 旅先での詩とはいえ、恋の詩です。 左に引用した夏生さんの言葉のように、この詩集の詩の中には、気持ちを断ち切るような、さっぱりとした別れを感じます。最後の「君のそばで会おう」という詩は、それを現しています。 僕の想像ですが、この詩集に書かれた思いの相手は、「つれづれノート」に出てくる夫「むーちゃん」ではと思いますがどうでしょうか?「つれづれノート」には、むーちゃんとは再会したとあります。これについてはもう少し「つれづれノート」を読み返したりする中で知りたいと思います。夫「むーちゃん」夏生さんの詩を理解するうえで興味のある方です。 「流星の人」には4つの恋が書かれています。その中の一人12ページには長い空白の後に再会した人として「かけがえのない人となりました」ともあります。 夏生さんの強い生き方の中に、自分の生活自由というものがありますが、左の引用文の中にも「いつでもその時好きと思うものに対して何の障害もなく好きでいられるように、自分の気持ちを邪魔するかもしれないものを無限の未来を縛る恐れがあるものを、心や環境の中に存在させないようにしています。」とありますが、恋にもその後の結婚生活の上においても一貫した夏生さんの考え方です。二人目の夫「イカちん」との別れはまさに「残酷なことかもしれない」ような別れでした。 このような夏生さんに対してわがままだというような批判が当然あると思いますが、詩人として生き抜こうという決意、この生き方に銀色夏生という人がいるのであって、それは認めなければならないでしょう。 夏生さんも傷ついているようで、二度目の離婚前後に出版された「バイバイまたね」を最後に詩集が出ていませんね(自選集は別にして)。「バイバイまたね」というタイトルも気になるところです。 夏生さん必死に生きていると思います。 2004年1月9日 記 夕螺 |
P、5「あの恋の力を」 |
「あなたを愛しぬこう」そう決めたわたし。あなたの「裏切りが美しく破滅的に純真なら」、あなたを愛しぬこう。これが恋の力。あなたが私のことをどう思っているのか。裏切りが真実でもそれを受け止めて恋の力に殉じる。後悔だけで終わろうとも、憧れのままで終わろうとも。これが恋の力。一度好きになってしまったなら、もう後戻りはできない。後戻りができないほど恋の力は大きい。それが殉じるということ。恋人どうしあるいは夫婦間もそうでしょう。後戻りのできない何かがあります。 |
P、10「夢のように僕たちは」 |
男女間の微妙な意識の違いか?過去を振り返れば残してきたものもあれば今に引きずってきた事もある。でも過去という時間は存在しない過ぎてしまえば夢のように過ぎ去った時間。時間も涙も苦しみも過去においてきた。そんなつもりだったけど、彼はまだその時間を引きずり、時間などおいてくることなんかできないと。こんな二人の美妙な意識の違いがお互いを孤独にする。 |
P、16「微粒子」 |
多分彼のことを考えながら眠れない夜をすごしたのかな。いろいろ彼の言葉やしぐさを思い返した。「希望的観測」。夜明けの光。窓から外に出ると、朝の微粒子が突き刺さった。朝の微粒子は希望を与えてくれた。また新しい日が始まる。新たな気持ちで彼に接しようというのか。。。。 |
P、21「あなたを好きだと言う女の子と一緒に遊んだ」 |
少しだけどんな子かを知っているような女の子から彼を好きだといわれた。わたしは自分の心を言えない。自分の気持ちを伝えるわけにはいかない。だって彼もその子が好きだというのだから。今できることは、その女の子とただ遊ぶこと、彼の近くにいられるという気持ちだけでも。そして私はその女の子の素敵なところを見てあきらめるしかないのだ。 |
P、24「一度目のベル」 |
愛しぬいた日々。でも彼とのことを思い起こすと、取り返しのできないことがあったよう。頭の中に非常ベルがなりひびいた。でもたじろぎやしない。。。。突っ伏して乗り切っていこう。すごく夏生さんらしいしだと思います。深刻なのでしょうが、なぜか読むと微笑んでしまう。「つっぷしてやりすごす」という言葉におもしろさがあります。夏生さんらしさがあります。 |
P、31「メロディー」 |
夏生さんの一人旅でしょうか。写真は北海道あたりを感じます。誰もいないくらい海、そんな孤独。電線にとまる鳥たちの音符もきっと孤独な調でしょう。恋から逃れた一人旅でしょうか?恋から解き放たれた孤独という自由。 |
P、34「晴れた日は川へ行って」 |
川に石を投げたり、葉っぱを浮かばせて競争したり。そんな友達のようにただ好きという気持ちであなたに接していられたときが一番楽しかった。今も楽しいけど、それ以上の苦しみがあるという気持ちかな。 |
P、44「神様のお帰り」 |
夏生さんにとっての神様は、近寄りがたいほどの荘厳さのある神様ではなくて、なんとなくクスリと笑ってしまうようなほほえましい神様です。 写真を見て、雪の中、奈良の山之辺の道を歩いていたら、雪がやんだと思ったら太陽の光が思い雲の隙間から箸墓(古墳)に差込んだ風景を思い出しました。僕の思った神様は、場所が場所だけに天孫降臨神話風でした。神様が登って行って積もる話を。。。というのは浮かびませんでした。 |
P、50「深き緑の水深7m」 |
わたしは飛行機の窓辺で退屈そうなあなたを見つめる。あなたの瞳は揺れる。わたしを見る瞳も。。。。。あなたにとっては退屈な恋?ふとこんなことを思ってしまう。 |
P、56「青く染まった海の色」 |
やはり飛行機からのながめ。ただ海がきれいだと話しているばかりの二人。ここにはあなたの本心がつかめない。こうして二人でいられることは幸せだけど、「中途半端なしあわせな恋」 |
P、62「時の配分」 |
あなたと共有している今という時間。しかしこの時間は恋のもの。わたしの時間ではない。この恋がなくなったとき、共有する時間もなくなる。わたしだけが持つ時間もなくなる。これを覚悟しなければ浮気者のあなたの愛の言葉は受け取れない。恋が持つ時、この時の配分をわたしのほうへ、あなたのほうへ。 |
P、76「真夜中の遊園地」 |
みんなといった遊園地。こんなに楽しい思い出。。。。こうしてチケットの半券をちぎって並べているとき、これが今の時間。過ぎ去った今さっきの時間も過去の時間、思い出として心の中だけ。 |
P、80「小さな迷い」 |
優柔不断なあなたとのこと、期待と不安。不安のほうが大きいけど、最後には心の決めたところへ行くしかない。でもなんでこんなにまで迷うのか。 |
P、87「大事な言葉」 |
あの時、あなたが心の中を打ち明けてくれた言葉。何気なく、そのときは大切に心の中の思いをあなたに伝えた言葉。あなたはもう忘れているかもしれないけど、私にとってはすごく大切にしていた言葉。恋の言葉ばかりではなく、何気ない言葉が自分にとっては大きな支えであることが時々あると思います。いって人は忘れてしまうような些細な言葉であっても。 |
P、92「恋する少女を力づける言葉」 |
純粋に好きであれば、障害は無いはず。そして自分自身も内気でなんかいられないはず。本当に好きであれば何も考えずに彼の胸に飛び込むはず。いつの間にかさらわれてしまうはず。この純粋に好きになるということ。恋だけではなくても大切なことです。多くの小説で、この純粋さを強調する作品があるかと思いますが、夏生さんは、この短い詩でそれを十分表現しています。ここに素晴らしさがあります。夏生さんが、夏生さん自身を励ましているような詩。 |
P、94「自然が作った形は完璧だから」 |
自然は無駄が無い。その意味で木々も葉っぱも意味があり、太陽の光を受けてそのままに生きている。恋する二人の心も自然が作ったもの。葉っぱが太陽に光を素直に受けるように、二人の心も素直でいよう。 |
P、96「最後の散歩」 |
その後の夏生さんの結婚生活と離婚を思い起こすような夏生さんの生き方を思わせるような詩です。私はこれから一生懸命に生きる。だからあなたも自分の道を走ってくださいと。でも、好きである気持ちは変わらないから見かけたときはずっとひそかに見つめますと。。。。上に引用したこの詩集の背表紙にある言葉「残酷なことかもしれませんが・・・・」という夏生さんの強さ。 |
P、106「夢の嵐」 |
どこですれ違ってしまったのだろう。あるとき私はあなたが冷たいと思った。あるときあなたは私が気まぐれだと思った。「恋はどちらかをいつもおきざりにして・・・」という言葉すごいと思います。 |
P、116「ひどい別れ」 |
お互いに好きという気持ちは変わらない。でも、二人はお互いに歩こうという道がある。お互いの恋する呼びかけにお互いに素直になれない二人。どこですれ違っているのか。なぜ二人のすすむ道が無いのか。すすむべき道がはっきりしているからこそ、彼の恋の言葉を笑って受けて子供のふりをしてしまった。。。そんなひどい別れ。 |
P、118「雨で川のように見える道がどこまでも」 |
この詩も、背表紙にある言葉「残酷かもしれませんが・・・・」という言葉そのものを表現しています。今見ている景色は素晴らしい景色。でも、私はこの景色に立ち止まらずに次のところへ向かいますと。お互いを必要にしていることは確か。でも見切りをつける。でも、この愛する気持ちは純情ですと。 |
P、124「雨にぬれて本当のことを言ってしまおう」 |
別れてしまってからの幾日。ますますあなたを思う気持ちが強まる。素直になってあなたの気持ちに応えられなかった私。あれは全部嘘だった。私があなたをふったようだけど、こんな私だからきっとあなたが私をふってしまったのだと思う。雨にぬれて本当のことを言ってしまおう「本当に好きだったんだ」 |
P、126「君のそばでまた会おう」 |
分かれてしまった後にわかった自分の気持ち。ずっと好きだったこの気持ち。だからこの恋は終わらない。僕が終わらせない。君の好きな道を歩んでおいで。でも必ずまた君のそばでまた会おう。未来の夫むーちゃん。再会後に結婚をした夏生さん。こんな二人を想像してしまうような詩です。 |