会計方法及び会計システム(2015年日本国特許、2015年日本国特許) 概要 |
管理会計と財務会計とを統一する損益分岐点図を利用する標準原価計算会計方法 |
ゆう商事(有)代表 |
工博 林有一郎 |
本文は2015年4月,日本国特許に認定された「会計方法及び会計システム」:出願番号2012-504960,発行日2015年04月20日,に対する概要である。なお本特許は2013年10月に認定された米国特許:Accounting method and accounting system", No. US 8,554,646 B2, Oct. 8, 2013と同一内容である。
■標準原価計算の下での2013利益図と2007年利益図
2015年日本国特許において使用される標準原価計算・損益分岐点図(以下、利益図という)を図1. 2015利益図に示す。図1は、本発明者による同じ利益図に関する2007年米国特許:“Accounting system for absorption costing", US 7,302,409 B2, Nov. 27, 2007と密接に関連するので、そこで使用された利益図を図2. 2007利益図に示す。なお、2007年米国特許時には、πO が πMO と πACとに分離されておらず、その後の研究で本発明者が創出したものである。
図
2. 2007利益図
■財務会計と管理会計
企業会計は、財務会計と管理会計とに分けられる。財務会計とは、原価計算基準に適合する決算書を税務署や株主などの外部に対して公表するために実施される会計方法である。管理会計とは、原価計算基準に基づいて、企業経営者に対して利益計画書や現時点での利益状況を報告し、見積書を作成することなどのために、企業内部に対して自由に運営される会計方法である。理想的に言えば、管理会計は各会計現場(事業最先端部所におけるプロフィット・センターやコスト・センターなどの会計単位)において、原価計算基準に基づいて月次(週次でも)の利益管理を可能とする会計方法で実施されるべきである。そのためには、管理会計方法には、正確さに加えて、理解し易さ、迅速性などが必要であり、管理会計のどのような場においても、利益図が本来必須である。
■標準原価計算とは
製品製造原価は、変動費又は製造直接費(直接材料費、直接労務費、直接経費)と固定費又は製造間接費(間接材料費、間接労務費、減価償却費、その他)からなり、その合計を全部製造原価という。原価計算とは、製品1単位当たりの製造原価を定める手法であり、標準原価計算と直接原価計算とがある。標準原価計算とは、産業革命が成熟した末期1870年頃に英国で誕生したものといわれており、20世紀の始めに米国において技師、会計士であったアレキサンダー・ハミルトン・チャーチ(Alexander Hamilton Church)が標準原価計算手法の原型を案出し、公的な原価計算基準に対して現在に至るまで大きな影響を与えている。標準原価計算では、変動費に対しても、固定費に対しても、1製品当たりの標準の製造全部原価(標準単価)を予め定めておく。その標準単価に実際製造数量を乗じることによって、標準原価計算による製造全部原価を得る。
■ 標準原価計算の下での営業利益
標準原価計算においては、次のようにして決算利益を定める。次のように、記号を定義する。「売上高」をX、「売上総利益」をQ、「売上営業利益」をπO、「製造直接費(変動費、実際原価)」をDX、「製造間接費(固定費、実際原価)」をC、「販売一般管理費(固定費、実際原価)」 をG、「全部製造原価」をE、「Xへの製造間接費配賦額」をACX、「今期のC会計部門配賦収益」をACY、「次期棚卸資産に繰越す期末ACY」をACY(+)、「前期から繰越された期首ACX」をACX(-)と表し、η(イータ) = ACX(-) - ACY(+) = ACX - ACYを「製造間接費配賦額・正味繰越額」と名付ける。標準原価計算の下での財務会計としての売上営業利益πOは次のようにして得られる。Q = X - E; E = DX + C + ACX(-) - ACY(+) = DX + [C + η] 、πO = Q - G = X - DX - [C + η + G] ·····(1)。式(1)は、ηの大きさがπOの値に影響することを示している。
製造間接費と製造間接費配賦額との関係は図3のように表される。
標準原価計算解析においては、ηを定数のように取り扱ってよいことが図4に示されている。
図4 ηの定数としての取り扱い
■直接原価計算とは
標準原価計算が公的な会計法として認められていく中で、1936年米国において,ジョナサン・N・ハリス(Jonathan N. Harris)は、標準原価計算の欠点を指摘し、会社内部の管理会計としての直接原価計算の優位性を強調した。直接原価計算とはCを一般管理費と同じく期間固定費とみなし、VD = X - DX、FD = C + Gと表すとき、πO = VD - FD(定数) により求める。直接原価計算利益図(限界利益図)は、図1において、η=0、即ちACX(-) = ACY(+)、及びACX = 0とすれば得られる。図の中で、FDは水平線として描かれている。その欠点の理由とは、標準原価計算は契約交渉や納税報告、又企業内部における管理会計報告書の提出などにおいて大変煩雑であるということであり、一方、直接原価計算はそれらが簡単になる上に、利益図も活用できるということである。直接標準原価計算もあるが、説明は省略する。この管理会計と財務会計とを統一する会計手法の確立要望は現在に至るまで続き、ますます強まってきているように見える。
■2007利益図
長い間、本発明者は会社経営に携わっていたが、1995年に標準原価計算を使って管理会計と財務会計とが結びつく会計方法を構築してPCによる情報システムを通じて管理会計情報をプロフィットセンターとしての各現場に通知したいと思い、標準原価計算の利益図作図理論の研究を始めた。その結果、図2に示す利益図を創出し、この利益図を利用する会計方法は2007年に米国特許を得た。その内容は次のようである。
最初に減価償却資産に対しては、期首に月次分割しておくことに注意する。標準原価計算の下での管理会計のために、前述の記号の他に、期中の任意時点(例えば月次、週次でも)において、会計用語とその記号を次のように定義する。EM = DX + ACXを「管理全部製造原価」、QM = X - EM を「管理総利益」、πMO = QM−Gを「管理営業利益」、πAC = ACX - (C + η)を「配賦利益、又は製造間接費配賦額利益」、δ= ACY - Cを「製造間接費原価差異]、VS = X - DXを「限界利益」、FS = C + η + Gを「管理固定費」と名付ける。これらの記号を使って、式(1)において、πO = 0 とする軌跡を描くと図2が得られる。図2を観察することにより、πO = πMO + πAC、πAC = ACX - (C + η)が得られる。η = ACX - ACYなので、πAC = ACY - Cである。さらにπAC = δ とも表せる。ここで定義されている会計用語は従来の公式会計用語の中に存在していなかったので、管理会計のために本発明者が新しく造語したものである。
■2013利益図
本発明者の考えるところでは、2007利益図は直接原価計算利益図と比べて管理会計上の大きな優位性を持っていた。直接原価計算利益図では営業利益情報がπO1個であるのに対し、2007利益図ではπOは独立した2種類の利益であるπMOとπACとから構成されている。πMOは管理会計としての販売部門の営業利益の意味を持っており、πACは製造間接費部門の配賦利益の意味を持っている。πACは、事実上は設備の操業度差異による損益であり、それは設備稼働率の向上努力、景気の変動の影響を受ける。その分離により、製造部門と販売部門の利益に対する責任分担制を構築でき、赤字原因を調べ、適切な規模の設備投資水準を決定することができる。
ところが、図2において、「固定費である管理固定費FS (ηを含んでいる)は定数である」と本発明者が強調しているのに、FSと結びつくはずの限界管理総利益率線(図2のEN)は下向きの斜線で表示されている。このような利益図は会計学教育で教えられていないために、会計学教育を受けた人ほどこの利益図に対する抵抗感が大きいのである。それで、図2においてFS線を水平線として描く研究を開始した。
あるとき、図2を図1に変換する着想が浮かび、次のように検証した。πO = πMO + πAC = QM - G + ACX
- (C + η) = [QM + ACX ] - [ C + η + G ] ·····(2)。式(1)より、VS = X - DX = πO + [C + η + G] ·····(3)。式(2)と式(3)よりVS =
QM + ACXを得る。VSを式(2)に代入して、πO = VS - FSを得る。従って、図1と図2は完全に等価図形なので、図2も又、直接原価計算限界利益図を含んでいる。直接原価計算においてはπOをπMO とπACとに分離して示すことはできない。図1を45度線損益分岐点図に容易に変換できる。その図は、式(1)と等価である。
どのような管理会計時点においても、C会計部門においてACY(+)を決定すれば、本文の管理会計用語を使って誘導されたπOは、財務会計で定義されるπOと常に一致する。
■ 標準原価計算勘定
πMOを得る勘定をMO勘定、πAC を得る勘定をAC勘定と名付けるとき、πOを得るPL勘定はそれら二つの勘定の合成勘定として表される。そのときの製造間接費だけに標準原価を採用した場合の勘定システムは表1のように表される。製造直接費だけに標準原価を採用した場合の勘定システムは表2のように表される。表の中で、C'はCの中から減価償却費DeCを除いた費用を表す。同じくG'はGの中から減価償却費DeGを除いた費用を表す。AC勘定とAD勘定とを比較するとき、似たような勘定表現になっていることが分かる。AC勘定もAD勘定もどちらも費用間の差額勘定であるが、勘定の意味するところは異なる。ACXはDeと同じレベルで他の原価との競合力を持っている。その結果同一のπMO を保つ場合においてηは信用フロー値の大小に関わる。 εはπACと似ているように見えるがεには直接費 を変化させる力は無く、単に直接費D(実際原価)に対する誤差修正項の意味しかない。製造間接費・標準原価は原価集計の迅速化を図る道具の意味しか持たない。これらのことは信用フロー解析をもって説明しなと分からないが、ここでは省略する。
表1 製造間接費に標準原価適用
表2 製造直接費に標準原価適用
■ 実際に管理会計に使用される利益図
本発明の核心は管理会計をMO勘定とAC勘定(AD勘定も補助勘定として存在する)とに分離して実施し、その合算値として財務会計(PL)を得ることにある。図1又は図2は、それらよりももっと易しい形の図3と図4に分解できる。MO勘定は利益管理責任者が作る見積書の内容であり、売買契約後の予算書であり、精算後の実施予算書であることに注意する。
図 3 MO勘定利益図
図4 AC勘定利益図
■変動費と固定費の区別について
各表の中で、原価データを細かく変動費、固定費と区別する必要はない。その理由は次の通りである、
(1) 第1に、厳密な固定費というものは存在しないからである。CやGを固定費とみなすということは、CやGが売上高変数に比例しては変動しないということを意味するのであって、変動しないということを意味するものではない。CやGは経営者(会社)の意志の変化や法律の変化(これらが変数)に伴って変動するのである。そのことは、保有設備量は期中でも常に変化していること、製造間接費中の賃金は製造管理体制の改変、超勤、賞与の大小などに伴って常に変化することによって明らかである。会計の長い歴史を通じて、製造間接費や一般管理費中に集められる原価項目は後者の性格を必然的におびているのである。グラフの描画からいえば、変動費はX軸に対して原点から右上がりの線型で描くが、固定費に対しては任意の期中時点において左向きの水平線として描く。このとき水平線は上下に動く。
(2) 第2に、損益分岐点とは決算時点から期中を眺めた場合の仮想的な点に過ぎないということである。変動費と固定費から成る費用線が上述の動きを取る場合において、期中時点で定まる(売上高,費用値)座標は常に変動しており、或る時点で決算上の損益分岐点に達したかもしれない。しかしながら、その(売上高,費用値)座標はさらに上下に変動しながら決算に到る。その決算数値に対して変動費と固定費が上述の動きを取ると仮定した場合における逆算した利益=0の仮想点が損益分岐点である。従って、変動費の中に多少固定費が混じっていようと、固定費の中に多少の変動費が混じっていようと、実務計算上の損益分岐点が仮想的な理論上の損益分岐点からは多少ずれるだけのことで、実務においては何の問題点も生じないのである。
■2013利益図の活用
今回の発明により、2007利益図と2015利益図の二つの利益図を得たことになるが、その図形上の特徴から、これらの図を次のように使い分けることができる。企業内部や社会全体における会計教育の場、及び利益計画書作成などにおいては、2015利益図や45度線損益分岐点図を使う。プロフィットセンターと本社会計部門の財務会計とを結ぶ実務会計の場においては2007利益図を使う。もちろん、πMO利益図とπAC利益図とを分離独立させることも可能で。 その外に実務上で使用する基本図形として、図3と図4があることは説明した通りである。なお、用語「プロフィットセンター」は、それ自身の外に、コストセンター、投資センターを含むものとする。
■ 標準原価計算における損益分岐点公式
図1より次式を得る。πO = QM + ACX – FS = (tanα + tanβ) X - FS 、ここに、tanα = ACX / X: 製造間接費配賦額率、tanβ = QM / X::管理総利益率 。損益分岐点売上高とは、πO = 0を満足するXであるから、損益分岐点売上高をX(χ)と表すとき、X(χ) = FS / (tanα + tanβ) ·····(4)を得る。さらに、VS = X - DXなので、容易に次式を得る。tanα + tanβ+ tanγ = 1 ·····(5)、ここに、tanγ = DX / X :変動費率。従って、X(χ) = FS / (1 – tanγ) ·····(6)も得る。η = 0とACX = 0を代入した式(6)は、従来の直接原価計算・損益分岐点公式と一致する。従って、式(4)と式(6)は、直接原価計算から標準原価計算に拡張された・損益分岐点公式となっている。なお、式(6)は、2007年特許明細書おいてソロモンズ損益分岐点式における誤りを指摘することによって、本発明者が始めて提示した式である。
図3からACX =ACX(-) + ACX(0)、ACY = ACY(0) + ACY(+)、 ACX(0) =ACY(0)を得る。標準原価に対してはACY(0)とACY(+)の2個が基本的な独立変数である。この中でη=ACX(-)(定数) - ACY(+)は、いわゆる次期繰越原価に逃げる原価(実際はCの棚卸資産は存在しない)として標準原価計算・営業利益の増減に関係する。残りのACY(0) は標準原価計算における見積もり原価の算定と、結果的に生じる信用フローの大小に大きく関係する。そして、このことは進行基準、完成基準による決算にも影響する。しかしながら、これらの現象の説明はPL+差額BS勘定を用いて記述しなければならないので本文では省略する。
■ 標準原価計算の基本的な利点
本発明に基づく標準原価計算の第1の利点は、πOが互いに独立に分離されたπMOとπACの2個の利益で表されていることを示していることである。第2の利点は、πOはtanβの比率で増減するのはなく、[tanα + tanβ]の比率で増減することを示していることである。tanαは類似製造製品に対して、ほぼ定数であり、tanβは販売部門の利益獲得成果を表す。要するに標準原価計算を実施することによって、利益管理データ(原価選択項目)が増えるのである。あるいはデータを増やすとい言ってもよい。データが増えるのは原価管理が面倒になるようにも見えるが、実は幾何学において、図形に1、2
■ 本特許の意義
(1) 従来、損益分岐点図や損益分岐点式は決算後の損益計算書に対して適用されるものであり、極端にいえば会計学教科書における展示品として扱われていた。ところが、今回の発明によると、管理会計用語データを使って求められるπOと、財務会計で与えられるπOは、πMOに対する利益補正値としてのπACや直接費に対する誤差修正値としてのεを介在させることによって常に一致し、グラフの表し方は別にして利益図も唯一に定められる。このことにより、数十年近くの懸案であった標準原価計算と直接原価計算との間の異なった損益分岐点図に関する問題点は今回の発明をもって解決され、標準原価計算と直接原価計算は統一された。
(2) 会計学における学問的な意義から言えば、式 η =
ACX - ACY = ACX(-)
- ACY(+)において、ACXとACYは、個々には売上高Xの関数であるにも関わらず、解析の中では、ηを固定費として取り扱ってもよいことを発見したことである。
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会計方法及び会計システム(2015年日本国特許、2015年日本国特許)
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