ずっと、側に
今日も、ネピリムは魔王ザヴィードの側に仕えていた。 久しぶりに、黒埼壱哉が魔界に顔を出し、ついさっき、退出したところだった。 ネピリムは、以前ほど壱哉を敵視していない。 いや、気に入らない奴であるのは確かだが、以前とは違い、壱哉の存在がザヴィードを脅かすものではなくなっているからだ。 「くく‥‥‥」 主が含み笑いを洩らすのが聞こえ、ネピリムはその顔を見上げた。 「あの、クロサキイチヤ。随分と、美しくなったな」 「は‥‥」 どう答えたものか、と言葉を濁すネピリムに、ザヴィードは笑みを含んだ視線を投げた。 「お前も、見たであろう?美しい肉体、美しい魂。そしてその内にある闇も、随分と美しく変わってきたものだ」 ザヴィードは、満足げに目を細めた。 壱哉の魂は、相変わらず、悪魔らしい純粋な闇の色をしていた。 しかし、悪魔になった直後の猛々しい光は姿を潜め、今は、儚くも美しい、冴えた輝きを放っていた。 「ザヴィード様は、このようになると知っておられたのですか?」 人間を眷属に迎えようとした時は、耳を疑った。 しかも、あの男に直接接するに連れ、その、強い輝きが危険なものに思えてきた。 ザヴィードの命だから従っていたが、そうでなければ、さっさと魂を狩っていたところだ。 しかし、悪魔になってからは、壱哉の中の闇は、芸術品とさえ呼べるような輝きへと変わって行った。 「いや。予想などしておらぬ。あの魂の輝きなら、そのまま魔王にさえなれるのではないかとも思っていたが‥‥‥」 呟いたザヴィードは、不満げなネピリムの表情に苦笑した。 「人間とは、本当に面白い生き物だ。まさかこうなるとは思わなかったが‥‥これはこれで、悪くはないな」 あの輝きを思い出すように目を細めるザヴィードに、ネピリムの中に嫉妬が湧く。 壱哉の存在が大切な主を脅かす事がなくなったのは良いが、その心を捉えるとなれば、同じくらいネピリムには面白くない。 しかし、そんなネピリムの内心は、ザヴィードにはお見通しだった。 「そのような顔をするな。あの闇が、どれだけ美しく磨き上げられて行くのか。そして、いつ儚く砕け、消えて行くのか。それまで眺めているのも、一興であろう?」 意外な言葉に、ネピリムは目を見開いた。 確かに、次第に繊細な輝きを増す闇は、触れれば砕けそうに見えるけれど。 あの傲岸不遜な男が、儚く消えて行くとは思えなかった。 ネピリムの表情で、そんな内心の呟きが聞こえたのか、ザヴィードは、また、声を立てて笑った。 「まだ、お前にはわからぬか。‥‥まぁ、良い。じっくり、眺めるとしよう。時間は、いくらでもあるのだからな」 ザヴィードは、上機嫌なようだった。 そう言えば、とネピリムは思う。 ずっと、飽いた顔ばかりしていた主。 それが、あの黒崎壱哉が現れてから、殆どそんな顔は見なくなった。 それを思えば、あの忌々しい男も、少しは主の役に立っているのだろうか。 ならば、主の言う通り、見守るのも悪くはないのかもしれない。 そう、悪魔である自分達には、時間はいくらでもあるのだから。 闇の輝きと、その側に寄り添う、小さい、しかししっかりとした光を放つ魂。 その行く末を見届けるのは、確かに、興味深いものだろう。 そう、思った。 |
END |
一度やってみたかったんですよ、こう言うアドベンチャーゲーム風の構成。
今回の、壱哉様受けのバッドEDを見ていて、何となく書きたくなりまして。あれだと、どの相手でも、壱哉様、後悔してる感じなんですよね。
冷静になって読み直すと、なんか一人称がすっごくこっ恥ずかしいと言うか(特に山口さん)。更に、全員、かなりくどいっつーか(まぁそれは作者の思考と文章がくどいんですが)。そこはかとない後悔もありつつ、でも書きたかったからUPしちゃえ、と言う、ある意味開き直りです。
ちょっと消化不良気味な感じもするんですが、とりあえず、今のところの最善です、これが(これで?とゆー突っ込みはナシで)。