動物難Lv.…


 それは、いつもと同じ週末。
 配達があると言う樋口に、壱哉は気紛れでついて行った。
 商店街のいくつかの店に置いてあるリースの観葉植物の鉢を交換するのだと言う。
 ものによってはかなり大きな鉢に、これでは筋肉質にもなるな、などと変な感心をした壱哉である。
 一通り回り終え、樋口は、緑が薄くなって元気のない鉢をワゴンに積み込む。
「ごめんな。いろいろ重なっちゃって、昨日のうちに終わらせられなかったんだ」
 壱哉を付き合わせるのが申し訳ないと思っているのか、樋口はしきりに詫びを口にする。
「別にいい。お前と一緒なら、俺はどこでもかまわん」
 樋口のおかげで、街並みを見ても嫌な気分になる事はなくなった。
 素直に懐かしささえ感じられるようになったのだから、そんなに気にしなくてもいい。
 そう思って言ったのだが。
「‥‥壱哉‥‥‥そのセリフって、なんか‥‥‥」
 何故か樋口の耳が赤くなっている。
「?」
 別に、樋口が照れるような事を言った覚えはない壱哉は、首を傾げた。
 と、その時。
「わん!」
 可愛らしい鳴き声が足下からした。
 見下ろすと、まるで丸い毛玉のような子犬が、大きくてつぶらな瞳でこちらを見ている。
「げ‥‥‥」
 それを見た樋口は、何故か青ざめる。
 次の瞬間。
「わん、わんっ!」
 五、六頭の子犬が、あちこちの物陰から走り寄って来る。
「わぁっ、やっぱりーっ!」
 悲鳴を上げて逃げ腰になる樋口だが、手にしていた鉢を丁寧に床に置いたりしていたものだから、完全に逃げ損ねる。 
 両手に収まりそうな丸っこい子犬から、子犬と呼ぶにはかなり大きい大型犬の仔まで、一斉に樋口にじゃれついた。
「うわ‥‥!」
 爪を立てて服にぶら下がられ、樋口はバランスを崩して尻餅をつく。
 体勢の低くなった樋口に、子犬達は嬉しそうに鳴きながらまとわりつく。
「‥‥何の騒ぎなんだ、これは?」
 呆気に取られていた壱哉は、やっとそれだけ言う。
「‥‥な、なんか前に、街中の子犬にじゃれつかれたときがあって。その後から、ときどき、こんな風に‥‥って、こら、服の中に入るなっ!」
 襲われ‥‥もとい、じゃれつかれている当人は充分困っているのだろうが、傍から見ると微笑ましいと言うか笑えるような光景だった。
 そう言えば、と壱哉は思い出す。
 あれは、樋口の魂を奪うため、カードで不幸を呼んでいた頃。
 熊に追いかけ回されて真っ青になる樋口がおかしくて、動物のカードばかり使った事がある。
 するとある日、何もしていないのに、樋口がたくさんの子犬にじゃれつかれた事があったのだ。
 魔力の気配はしなかったものの、子犬達の集まり方は尋常ではなかった。
 同じカードばかり使っているとこんな『不幸』も起こるのか、と妙に感心した事を覚えている。
 そして、子犬達に服の中にまで潜り込まれ、舐め回されて涙目になっている樋口は大層可愛らしくて、何故ビデオカメラを持ってこなかったと悔しい思いをした事も思い出す。
 やむなく、調査員必携のカメラを出させ、何枚か撮った写真は、今も壱哉のコレクションの中に収められていたりする。
 それはそれとして、あの不幸のカードを使った事がこれを招いたのなら、責任は壱哉にある。
 具体的に一々説明した訳ではないせいか、お人好しな樋口は、ずっと不幸を招いていたのは壱哉だと聞いても、我が身に起こった様々な出来事を結びつけて考えてはいないようだった。
 幾ばくかの罪悪感と胸の痛みを感じつつ、壱哉は樋口を助けようとした。
 ‥‥‥のだ、が。
「ちょっ、だから、そんなとこ舐めるなっ、吸うなっ!」
 じたばたともがく樋口だが、所詮は多勢に無勢である。
 一匹を引き剥がそうとしても別の子犬が手をかいくぐり、服の中へと潜り込む。
 下手に力を込めたら潰してしまいそうに見える子犬達に、手荒な事が出来ない樋口は、半ばされるままに近い。
 樋口の胸や、腹など、シャツの下でもこもこと動いている小さな塊。
 むか。
 何となく、壱哉はおもしろくない気がした。
「っ、おいっ、そこはダメだって!!」
 調子に乗った(壱哉から見ると)子犬の一匹が、事もあろうに樋口のスラックスの下に潜り込む。
「ぅわ、そこで動くなっ、舐めるなぁ!」
 ぷちん。
 泣き声を上げる樋口に、壱哉の中で何かが切れた。
「いつまでくっついている!」
「は?って、うわぁっ、壱哉、こんなとこでなにするんだよっ!」
 慌てる声など聞こえないように、壱哉は、樋口のスラックスのファスナーを引き下ろす。
 もこもこと動く子犬の首根っこを掴んで引きずり出し、ぎろりと睨み付ける。
 途端、子犬は怯えたように縮こまる。
 さすがに放り出す事はせず、地面に降ろしてやると、子犬は尻尾を巻いて逃げて行く。
 次いで壱哉は、樋口のシャツをたくし上げた。
「おいっ、ここ、外だろ?!」
「助けてやるのに、不満か?」
「いや、それにしたって‥‥‥」
 樋口の抗議など全く問題にせず、壱哉はシャツを剥ぎ取らんばかりにたくし上げる。
 尚も樋口の体にまとわりついている子犬達を両手につまみ取り、壱哉はじろりと睨み付けた。
 壱哉に睨まれた子犬は、縮み上がって凄い勢いで逃げて行く。
「なにも、子犬をそこまで睨まなくても‥‥‥」
 壱哉のあまりの剣幕に、つい口にしてしまった樋口は、据わった目で睨まれ、竦み上がる。
 最後は、樋口の胸のあたりに抱きつくようにじゃれていた大型犬の仔だった。
 憎しみが籠もっているのではないかと思うような壱哉の表情に、子犬は悲鳴のような高い声を上げて逃げて行った。
「‥‥‥‥‥」
 半脱ぎ状態で呆然としていた樋口は、慌てて衣服を直す。
 幸い、人が通り掛からなかったから良かったものの、誰かに見られていたら‥‥凄く恥ずかしい。
 壱哉のおかげで助かったはずなのに、あまり助けられた気がしないのは何故だろう。
 見れば、壱哉はとてつもなく不機嫌だった。
「仕事は終わったんだろう。さっさと帰るぞ」
「う、うん‥‥‥」
 何となく首を竦め、頷く樋口だった。


 家に帰って、樋口は、とりあえずシャワーを浴びる。
 この前ほどではないものの、服も結構凄い事になっていた。
「はー‥‥‥。俺、なんかにとりつかれてるのかなぁ」
 今はともかく、以前は立派に取り憑かれていたと言うか、呪われていたのに近い状態だったのだが、樋口にその自覚はない。
「それに、壱哉、なんか怒ってるし」
 子犬にじゃれつかれた被害者は樋口なのに、戻る車の中でも、壱哉の機嫌はとてつもなく悪かった。
 おかげで樋口は、ずっとビクついたまま、家に戻ると逃げるように風呂に駆け込んだのだ。
 思い返してみても(あまり思い出したくはなかったが)、壱哉が怒るような事をした覚えはない。
 せっかくの休みなのに、なんだかろくな事がない気がする。
 深いため息をついて、樋口は風呂を出た。
 少し時間も経ったし、壱哉の機嫌は直ったろうか。
 茶の間に行ってみると、そこに壱哉の姿はなかった。
 となれば、思い付くのは樋口の部屋だ。
 何となく、怖々覗いてみると。
「遅かったな」
 樋口のベッドに座っていた壱哉が、じろり、と視線を向けて来た。
「い、壱哉?」
 思わず樋口の声が裏返る。
 壱哉は、上着を脱ぎ、ネクタイも緩めて、ワイシャツの襟を少しはだけていたりする。
 これは‥‥‥所謂、『ヤる気満々』な状態ではないか。
「風呂上がりにシャツ一枚、と言うのは悪くないな‥‥‥」
 僅かに目を細めた壱哉の笑みが少し‥‥いや、とても怖い。
「あっ、あの、ほら、まだ昼だし‥‥‥」
 その程度で壱哉が諦めた事などないのだが、樋口は必死に抵抗を試みる。
 しかし、案の定。
「うるさい。さっさと来い」
 腕を掴まれ、ベッドに組み敷かれたのは正に一瞬の事だった。
 こんな事は一度ならずあったりして、改めて、慣れている壱哉の手際に頭痛を覚える。
 力で押さえつけられている訳ではないのに、身体の上にのしかかられていて、到底逃げられそうにない。
「お前、隙だらけな自覚はないのか?」
 憮然とした表情で言った壱哉が、耳元に唇を寄せてくる。
「隙、って‥‥っ!」
 反論しようとして、樋口は、耳に響いた湿った音と感触に身を震わせた。
 壱哉が、耳の孔に舌を差し込み、耳朶を軽く甘噛みしたのだ。
 反射的に鳥肌が立ち、首筋から背筋を悪寒にも似たぞくりとしたものが走り抜ける。
 まるで、一番弱い部分をさらけ出し、身体の中まで壱哉に見られているような錯覚にとらわれる。
「‥‥なに、やって‥‥‥っ!」
 混乱する樋口に、壱哉は、今度は音を立てて首筋を吸い上げる。
 湿った音が酷く大きく聞こえて、樋口は思わず身を固くした。
 そのまま、首筋から鎖骨へとゆっくりなぞる壱哉の舌が、とてつもなく恥ずかしい。
 樋口は、思わず、逃れようと身を捩っていた。
 と、壱哉が身を起こし、不機嫌この上ない顔で見下ろしてきた。
「‥‥お前、犬は良くて俺だと嫌なのか」
「‥‥‥‥は?」
 状況も忘れ、樋口の目が点になる。
 が、その意味に思い当たった樋口は、呆れるあまり脱力してしまった。
「お前、子犬にやきもちやいてどうするんだよ‥‥」
 あれからずっと機嫌が悪かったのは、そう言う事だったのか。
「お前が、子犬ごときに好き放題させるのが悪いだろう」
「好き放題って、変な言い方するな!」
 そもそもあれは動物の本能と言うか習性と言うか、この状況とは全然違う。
「うるさい。お前はおとなしくしていればいいんだ」
 正に一挙動。
 もがく間もなく、樋口は両手首をロープで縛られて、ベッドの支柱に繋がれてしまった。
 全く目に止まらなかった手際と、一体どこから出て来たのか不明なロープはいつもの事だった。
 壱哉は、樋口のシャツを一気にたくし上げると、滑らかな胸肌に舌を這わせた。
 濡れた、生暖かい舌が丹念に肌を舐め上げて行くのがはっきりと感じられる。
 手で触れられるのとは全然違う、くすぐったいような総毛立つような感覚が、消えてしまいたいくらい恥ずかしい。
「やめろって‥‥いち‥‥っ!」
 言いかけた樋口が息を呑む。
 壱哉が、わざと音を立てて乳首を吸い上げたのだ。
 総毛立つような感覚が、背筋を伝って腰の辺りにわだかまる。
「そう言いながら、こんなに固くしてるじゃないか?上も、下もな」
 固く勃ち上がった乳首を舌先で玩びながら、壱哉は頭を擡げつつある股間に手を伸ばす。
「――っ」
 服の上から先端を撫で回され、樋口の喉が鳴った。
 しかし壱哉は、意地悪く手を離すと、味わうように樋口の胸から腹へと舌を移して行く。
 素肌を舐められているのが恥ずかしいのか、それとも壱哉の舌に感じてしまっているのか、どちらで身体が熱いのか、樋口は判らなくなっていた。
 抗議しようにも、口を開けば甘い声が出てしまいそうで、樋口は目をきつく閉じるようにして耐える。
 しかし、目を閉じれば壱哉の舌の動きをよりはっきりと感じてしまい、樋口は泣きたいような気分になる。
 かと言って、目を開けていれば、壱哉が自分の身体を舐め回しているのが目に入り、やはりとてつもなく恥ずかしい。
 壱哉の舌が、脇腹から腹筋をなぞり、軽く、臍を穿る。
 樋口の意思とは全く関係なしに、全身が跳ねるように震えた。
 樋口の股間のものは、既に窮屈なくらい張り詰めていた。
「ふふ‥‥‥」
 どこか満足げに笑った壱哉は、樋口のジーンズを取り去った。
「ぅ‥‥」
 固く熱を帯び、うっすらと先走りを滲ませたものが冷たい外気に触れ、樋口は思わず吐息を洩らした。
 しかし壱哉は、熱いものにも後ろの孔にも一切触れず、今度は力の抜けた脚に舌を這わせる。
 太腿の内側や膝の裏など、普段はあまり触れられる事のない場所への刺激に、樋口は全身を震わせた。
 脚を大きく開いたあられもない自分の格好に、身が竦むような羞恥を感じる。
「いちや‥‥もう、いいかげん‥‥‥!」
 自分からねだるのは顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったが、このまま舐め回されているのはもっと恥ずかしい。
 樋口の言葉に、壱哉は喉の奥で笑った。
「なんだ、今日はやけに積極的だな」
 既に熱くなっている身体も、欲望に硬くなっているものも判っているくせにそんな事を言う壱哉が恨めしい。
 そんな表情は表に出ていたのか、壱哉の意地の悪い笑みが深くなる。
「そんな可愛い顔をされたら、もっといじめたくなるだろう?」
 大の男が可愛いなどと言われても、全く嬉しくない。
 まして、その後に続く言葉を聞けば。
 しかし、抗議の声を上げる前に、どこをどうされたものか、樋口は気が付けば四つん這いにされていた。
 後ろから背筋に沿って指で撫でられ、肩甲骨や背筋を這う舌に、知らず、身体が震える。
 くすぐったいばかりのはずだったのに、いつの間にか、壱哉の舌が触れるだけで、肌から身体の奥へ熱が染み込んで行くようだ。
 皮膚の薄い脇腹や、腰骨の辺りを舐め上げられると、ダイレクトに股間に熱が集まるようだった。
 行為に慣らされ、快楽に素直に反応する股間のものが、大量の先走りを溢れさせ、シーツを濡らしているのが判る。
 壱哉に、体中を舐められている事、そしてそれだけでこんなになってしまっている事、全てが恥ずかしくて、樋口はシーツに顔を埋めた。
 と、壱哉の気配が動き、後ろから抱き締められる。 
「‥‥やっぱり、俺の方が、ずっといいだろう?」
 囁かれた言葉に、思わず脱力しそうになる。
 一体、何に対して『俺の方がいい』のだろう。
 と言うか、一体何に対して張り合っているのか。
 こんなに恥ずかしい思いをさせられても、壱哉だから我慢出来るのに。
 けれど、壱哉が変な所で鈍すぎる事も、結構独占欲が強くてやきもち焼きである事も、樋口には判っていた。
「‥‥壱哉じゃなかったら、こんなに好き勝手させるわけないだろ‥‥!」
 シーツに顔を押し付けたままで、くぐもった声だったけれど、壱哉には聞こえたはずだ。
 耳まで真っ赤になっているのが、今までの愛撫とは別のせいである事も、多分知られている。
 その証拠に、背中で、壱哉が小さく笑ったようだった。
「‥‥‥本当にお前は、可愛い事を言ってくれるな‥‥‥」
 どこか甘い、満足したような囁きが耳を擽る。
 同時に、熱いものが押し付けられて来て、樋口は慌てた。
「ちょっ、いきなりは辛いって‥‥っ!」
 抗議の声を上げる間があればこそ、まだ慣らされていない孔に、猛る欲望が捩じ込まれた。
「いっ‥!!‥‥もう、ちょっと、ゆっくり‥‥‥!」
 背中越しに聞こえる荒い呼吸で、それは無理らしいとは思ったが、こっちだって痛いものは痛い。
 今まで、何度も壱哉を受け入れていたから、何とか我慢出来るようなものだった。
 しかし、既に昂ぶっている身体は、それで冷えるどころか、かえって熱を増した。
「っ、ん‥‥‥」
 狭い場所をこじ開けるようにして捩じ込まれたものが熱い内壁を擦り上げる。
 痛みばかりではない感覚に、樋口は思わず熱い吐息を洩らした。
「ぅあ‥‥!」
 意図している訳ではないだろうが、強引に入ってくる先端が弱い場所を突き上げ、樋口は全身を震わせた。
 自分のものから溢れる先走りが量を増したのが自覚出来る。
「そんなに締め付けられたら、動けないだろう」
 そう言われても、どうにかなるものではない。
「‥‥お前が、っ、慣らさないのが、わるいんだろ‥‥っ」
 喋るだけで体内が敏感に反応してしまっているのが判る。
 痛みはまだ残っていたが、壱哉の熱さと体内を擦り上げられる快感の方が何倍も大きくなっていた。
 舐められて昂ぶっていたせいなのか、壱哉がまだ羽織っているシャツが肌に触れるだけでも、体が勝手に快感として感じてしまっていた。
 もう、何もかもが気持ちいい。
 壱哉が軽く身じろいで、体内のものが少し動くだけでも、とてつもない刺激に感じてしまう。
「お前‥‥きつすぎるぞ‥‥‥!」
 壱哉の声も、余裕のないものになってきて、こんな状況にもかかわらず、少しだけ嬉しくなる。
「って、そんなに、動くなよ‥‥っ!」
 このままでイくのは嫌なのか、壱哉が、大きく動き始めた。
「あっ、う、ああっ!」
 激しい動きに、思わず高い声が上がる。
 弱い場所もろともに擦り上げられ、突き上げられ、もう訳が判らなくなる。
 体内を抉るものが膨らんで、火傷しそうな熱い液体が叩きつけられた瞬間、樋口の目の前に真っ白な光が弾けた―――。


 壱哉がようやく離れると、樋口は、大きく息を吐いてベッドに沈み込んだ。
 お互い、何度達したのか、数えたくない状態だった。
 今回は失神しないで済んだけれど、もう動きたくないくらい疲れていた。
 手首がひりひりして目の前に翳すと、ロープで擦れた後が真っ赤になっている。
「これ‥‥痕ついちゃったじゃないか!」
 普段、樋口は腕まくりしているから、絶対に見えてしまう場所だ。
 片手ならどうとでも言い訳出来るが、両手では怪しすぎるではないか。
「なにも、縛ることないだろ?こんな痕‥‥どうすりゃいいんだよ‥‥‥」
「別に、うろたえる程の痕ではないだろう。気にするな」
「‥‥‥‥‥‥」
 黒崎壱哉と言う人間は、世間一般の感覚と著しくずれている時がある。
 改めて、それを思い知らされてしまった樋口である。
「それより、崇文」
 ずいっ、と迫られ、樋口は反射的に身構えてしまう。
「お前は隙だらけだと言ったろう?今後は、動物にも気をつけろよ」
 少なくとも、子犬には壱哉のような下心はないと思うのだが。
「今度こんな事があったら、二十四時間、ガードをつけるからな」
「はぁっ?!」
 樋口の目が点になる。
「熊だろうが子犬だろうが、お前は渡さん」
「だから、人聞きの悪いこと言うなって!」
 冗談のような言葉だが、壱哉の表情を見れば目一杯本気だと判る。
 以前の一時期に比べ、動物絡みの訳の判らないトラブルは収まったと思っていたのだが。
 もしかすると、これはその続きなのだろうか。
 町を歩く時は常に油断するなだの、子犬を見たら狼と思えだの、延々とまくし立てる壱哉を見ながら、樋口はそう思った。

END

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壱哉様と樋口の素晴らし過ぎるイラストをいただきました愛様のリクエストは「まふまふ子犬団で何か」でした。
リクいただいてから信じられないような長期間放置していた(放置プレイとしてもあんまりな期間でした)挙句、あまりにも最悪なタイミングで送りつけると言う、別の意味で曰く付きな話だったりします(←そもそもさっさと書いていれば問題なかったのに)。
しかし‥‥普通は、ほのぼのな話になるもんではなかろうか。犬→舐められる→○○○○、と思考がシフトして行くあたり、所詮、男性向け18禁な人間です。
いや、女性向けで舐めネタって少ないのではないかなぁと。男性向けの方が舐めるのも舐めさせるのも多い気がします。
犬にさえやきもちを焼く壱哉様は楽しかったのですが、えっちぃシーンがウチにしては長かったので、どう落とそうか頭を抱えてみたり。
とにもかくにも、えちしかないような話ですが、愛様、お持ちください。