オレの!


 外の木の葉がすっかり落ちてしまって、ちょっと寒くなってきたから、俺のお気に入りの場所は大きなガラスの窓際になった。
 ここだと、お日様が出ている間じゅう、ぽかぽかして気持ちいいから。
 そして、今日も、日なたぼっこをしながらうとうとしていた時。
「‥‥‥‥?」
 かすかな音に、目を覚ます。
 音と、匂いとであらただってわかった。
 でも、足音を隠しもしないで入ってくるのは珍しい。
 さっき、黒崎――ご主人様が新を連れて行ったけど、またなんかあったんだろうか。
 黒崎、時々、俺たちをいじめて楽しんだりするから。
 ちょっと心配になって体を起こしたら。
「たかふみさ〜ん」
 後ろにハートマークが付きそうな声を上げて、あらたが飛び付いて来た。
「ぅにゃあぁ〜、たかふみさん、あったかいー」
 ごろごろ。
 あらたが、喉を鳴らして頭を擦り寄せて来る。
「なっ、ちょっと、やめろよあらた‥‥!」
 一体どうしたんだろう。
 確かに、今までも俺にくっついて来ることはあったけど。
 でも、こんなに甘い声を聞くのは初めてだ。
 それに、あらたの首に結ばれているピンクのリボン。
 俺は犬だから首輪をされても気にしないんだけど、あらたは元々野良だったせいか、首輪とかを凄く嫌がる。
 なのに、こんなに可愛いリボンを結ばれて、しかも首の後ろで大きなちょうちょ結びにされてるのに、平気でいるなんて。
「あらた、一体どうしたんだよ?」
「べつにー、オレはいつもとかわんないよ?」
 ちょっと舌足らずな感じで言う口調が既におかしい。
 良く見ると、あらたの目は少しとろんとしていて、なんか‥‥酔っ払ってるみたいだ。
「‥‥?」
 そう言えば、このちょっと甘いような匂い、どこかで嗅いだことがある気がする。
 黒崎に連れられて山に遊びに行った時(広い所で思いっきり遊ばせてもらった代わりに、いろんな恥ずかしいこととか、されたけど)、嗅いだんだ。
 あれは確か、『またたび』だって教えてもらって‥‥‥。
 って、またたびって猫が酔っ払うやつじゃないか!
 注意してみると、あらたの口元とかから、やや強い匂いがした。
 またたびの何かを、飲ませられたりとかしたんだろうか。
 ‥‥‥そんなことするの、やっぱ黒崎しかいないよな。
 そうか‥‥あらた、酔っ払ってるのか‥‥‥。
 あらたが変な理由はわかったけど、差し当たってどうしよう。
 こんなにべたべたされるのは嫌だけど、言って聞く感じじゃないし。
 まさか、力ずくで振り払う訳にも行かないし。
 そんなことを考えていたら。
「たかふみさん、オレのほう見てよ〜」
 口を尖らせたあらたが、上着をたくしあげて、胸に顔をこすりつけてきた。
「‥‥んっ‥‥‥!」
 意志とは関係なく体が震えて、声が出てしまった。
 だって‥‥あらたの髪とかが、肌をこすって‥‥‥。
「あ‥‥その声、すき」
 あらたが、嬉しそうに言って、もっと顔を擦り寄せてくる。
「おっ、おい、やめろってば‥‥ぁ!」
 言いかけて、ますます変な声が出てしまう。
「くろさきさんと遊んでるとき、ときどきそんな声、だしてるよね。うれしいな」
 すりすり。
 あらたが良くても、俺はいやなの!
 そう思って、声を出すのを我慢していたのに。
「もっと、いい声だしてよ、たかふみさん」
「んっ‥‥!」
 あらたのざらざらした舌が肌をこすって、背中がぞくぞくする。
「たかふみさん、ここ好きなんだよねー」
「ふあぁぁっ!」
 乳首を強く吸い上げられて、思わず大きな声が出てしまう。
 黒崎、時々俺とあらたを一緒にかわいがったりするから覚えられちゃったんだろうか。
 もう体から力が抜けてしまって、抵抗も(もともとあらたには逆らえなかったけど)できなくなってしまう。
 いつの間にか、俺は床に押し倒されていた。
「うにゃ〜、たかふみさん、だいすきー」
 普段なら絶対言わないような言葉と、蕩けるような甘い声に、なんか、全部どうでもよくなってくる。
「あ‥‥たかふみさん、おっきくなってきた」
「え?‥‥って、ちょっとまっ‥‥!」
 しっかり反応してしまっていたらしい体に、俺は我に返った。
「あらた、これ以上はダメだってば!」
 じたばたと暴れると、あらたは不満そうに頬を膨らませた。
「なんで。くろさきさんはよくて、オレはダメなの?」
「いや、そう言う話じゃなくて‥‥‥」
「たかふみさんがそういうつもりなら、オレにだって考えがあるからな」
 まずい。
 あらた、完全に目がすわってる。
「たかふみさんになら、されてもいいって思ったけど、オレがする!」
「は?!するって、なに‥‥て、う、わ!」
 いつの間にか開かれてしまっていた足の間に割り込んだあらたが‥‥指を、入れてきた。
 て言うか、ちゃんと下も穿いてたはずなのに、なんで俺、こんなにされるまで気がつかなかったんだ?
「だから、ダメだってば‥‥‥!」
 逃げようとしたのが裏目に出て、腰が浮いた瞬間に、あらたに抱え込まれていた。
「こんなにおっきくしてるのに、なんでダメだなんていうの?」
 あらたが、しっかり勃ちあがってしまったものを強くしごいた。
「ぅあっ、そんなにさわるなって‥‥あぁぁっ!」
 あらたが、熱く敏感になってるものの先を爪で軽く引っ掻いた。
 とてつもない刺激に、思わず悲鳴を上げてしまった。
 それが悪かったみたいで、あらたは、嬉しそうに俺のものをいじくり始めた。
 すっかり固くなってしまったものの弱いところにばかり、尖った爪を立てる。
 傷はつけないように気をつかってくれてるみたいだけど、かなり痛い。
 それなのに、痛い後には熱くなって、それが腰から全身に広がって行く。
 ‥‥‥いつも、黒崎に痛いことされながらイってしまったりするから、痛いのも気持ち良くなっちゃってるんだろうか。
 そんなことを頭の片隅で考えてるうち、体がどんどん熱くなってきて。
「あっ、ああぁっ‥‥!」
 目の前に火花が散って、頭の中が真っ白になる。
 とてつもない放出感に、一瞬、気が遠くなる。
 全身からはもう完全に力が抜けてしまっていて、何も考えられない。
「ねえ‥‥たかふみさん‥‥いれて、いい?」
 あらたの言葉に、俺は無意識にうなずいてたらしい。
 力が抜けている脚が大きく開かれた、次の瞬間。
「うぁ‥‥!」
 黒崎のよりは小さいけど、とてつもなく熱い塊が俺の中に入ってくる。
 苦しくはないけど、でも、あまりの熱さに息ができなくなりそうだ。
「す‥ご‥‥きつ‥‥‥」
 あらたが、うめくように言った。
「あっ、あらた、うごかないで‥‥!」
 あらたが身動きすると、その刺激で腰が痺れたみたいになって、背筋がぞくぞくする。
「ダメ‥‥おれ、がまん‥‥できな‥‥っ!」
 泣きそうな顔で、あらたは腰を動かし始める。
「っ、あ‥‥!」
 強く突き上げられる動きに合わせて、とてつもない刺激が頭の上まで突き上げてきて、おかしくなりそうだ。
 気持ちいいのと熱い感覚がごちゃ混ぜになって、もう何がなんだかわからない。
 ここのところしばらく、黒崎があらたのことばっかりかまって、俺には触れてもくれなかったからだろうか‥‥。
 そんなことが頭の片隅に浮かんだけど、すぐ、何もわからなくなって、俺は新の体にしがみついた。


「‥‥‥‥‥‥」
 どうやら、ちょっとだけ気絶しちゃったみたいで、目を覚ましたら、あらたを抱きしめていた。
 あらたの方は、すっかり眠ってしまってるみたいだ。
 後始末‥‥と言うか、自分と、あらたの体をきれいにしながら、俺はちょっぴり落ち込んでいた。
 別に、あらたが嫌だとか言うんじゃないし、気持ちよかったのは確かなんだけど。
 でも俺、あらたより年上なんだし。
 体だって大きいし。
 何よりも、犬の俺が猫のあらたに‥‥そう言うことされちゃうのって、間違ってないか?
 思わずため息をついたら、あらたが身動きして、目を覚ました。
「あれ‥‥?」
 あらたは、不思議そうに俺を見上げてきた。
「なんでオレ、ハダカなんだ?くろさきさんのところにいたはずなのに。あれ?なんで、たかふみさんがいるんだよ?」
「へ‥‥?」
 あらたの言葉に、俺は呆気に取られた。
 もしかしてあらた‥‥何も、覚えてないのか?!
「なんで、たかふみさんまでハダカなんだ?‥‥まさかたかふみさん、オレのことゴーカンしようとしたとか?!」
「そんな訳ないだろっっ!」
 て言うか、どっちかと言えば襲われたのは俺の方で‥‥‥。
 口に出しそうになって、本当に情けなくなったからやめる。
「とにかく、俺は無実だってば!大体、何かされたらわかるだろ?」
「あ‥‥そっか」
 あらたは、ホッとしたような顔をした。
 ‥‥‥別に、あらたに何かしたいとかは思ってないけど、なんかちょっと、この反応は傷付く気がする。
「よかった。オレは、ぜんぶくろさきさんのものなんだから」
 そう言うあらたを見ると、ちょっぴり複雑だ。
 あらたが来る前は、黒崎のペットは俺だけだったのに。
 黒崎が、気紛れであらたをここに連れて来て。
 その直後はすぐ逃げ出そうとして大変だったんだけど、一度、好きになるとあらたは一途だから。
 最近は、黒崎、俺よりあらたがかわいいみたいで。あらたばっかり相手にする。
 もちろん、俺もあらたは大好きだけど、でも、俺だって全部黒崎のものなのに。
 そんなことを考えていたら、あらたが俺の顔を覗き込んできた。
「でも、たかふみさんの三分の一はオレのだからな」
「は?」
 唐突な言葉に、目が点になる。
「なに、それ‥‥」
「だって、たかふみさんはくろさきさんのだし。でも、オレもたかふみさん欲しいし。だから」
 それって、喜んでいいことなんだろうか?
 て言うか、逆ならともかく、こねこのあらたに『オレの』って言われる俺って‥‥‥。
 また落ち込んでしまった俺に、あらたが頬を膨らませた。
「なんだよ、オレじゃ嫌なのか?」
「‥‥いや、そう言う訳じゃないけど。その、三分の一ってどこから出てきたんだよ?」
「えーと‥‥たかふみさんのふわふわの耳とか、しっぽとか、あったかい背中とか‥‥そう言うのが、三分の一くらい」
 なんか、わかるようなわかんないような説明だ。
「ぅにゃ‥‥オレ、なんだかまだ眠い」
 小さくあくびしたあらたは、もぞもぞと俺の腕を枕にすると、そのまま、俺に抱きつくようにして眠ってしまった。
 ‥‥‥これってやっぱり、あらたにとって俺はただの抱き枕だってことなんだろうか。
 嬉しいんだか、悲しいんだか良くわからない。
 でも、とにかく嫌じゃないのは確かだった。
 それに、こうして抱きつかれると俺もあったかくて、いい気持ちだった。
 ‥‥‥まあ、いいや。
 俺も、考えるのをやめて、一緒に目を閉じた。


おわる。   

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