超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<最終話>
『時を越えて〜魔女っ子ふぁいぶよ永遠に〜』


 強大な権力を持つ敵との戦いは、長く、過酷を極めた。
 壱哉は自分の持てるあらゆる資金、能力を使って対抗して来たが、圧倒的な力の前に、次第に追い詰められていた。
 激しい戦いの中で、壱哉の味方は次々と倒れて行った。
『総帥の部下は相当な使い手ばかりです。しかし‥‥相手にとって不足はありません!』
 そう叫んで、相討ちを覚悟で西條の部下達を全滅に導いた工作員達。
 そして、大切な仲間さえも一人、また一人と力尽きて行った。
『俺‥さ。ほんとは、黒崎さんのこと‥‥結構、好きだったんだぜ』
 追手を食い止める為、一人、閉ざされた扉の向こうに残った新。
 敵の足音が近付く中、扉の向こうから、少しはにかんだように聞こえたその言葉が最後になった。
 後ろ髪を引かれながら逃れた壱哉が、何日待っていても新は帰って来なかった。
『黒崎くん‥‥最後まで、一緒にいられなくてごめんよ』
 敵の基地に閉じ込められ、もろともに爆破されようとした時、山口は壱哉を逃がす為に制御室に残った。
 ノイズ混じりの通信で、ほんの一瞬だけ山口の笑顔がモニターに映った。
 そして、壱哉が脱出するのを待ちかねていたかのように、敵の基地は炎を吹いて四散した。
『黒崎‥‥俺‥‥もし、生まれ変わったとしても、お前とまた、知り合いたいよ‥‥そして、また一緒に‥‥‥』
 壱哉の命を狙う罠に、樋口は身代わりとなって飛び込んだ。
 壱哉の腕の中で、樋口はとても安らかな表情で、静かに目を閉じた――。
「とうとう‥‥俺達だけになったな」
 壱哉は、自嘲気味に吉岡を振り返った。
 彼も、今までの戦いの中、壱哉を庇って何度も傷を負っていた。
「私は‥‥いつ何時でも、壱哉様のお傍におります。どんな事があっても、必ずお傍に‥‥‥」
 吉岡の言葉に、壱哉の表情が僅かに緩む。
「お前がいてくれて、本当に良かった‥‥」
 壱哉は、少し疲れたようなため息をついた。
「お前がいてくれたから、俺は今まで戦って来られた。お前には‥‥本当に、感謝している」
 改まった言葉に、吉岡は唇を噛んで顔を背けた。
 そうしなければ、こみ上げて来る熱いものを堪えられなかった。
「ふ‥ふふ‥‥‥」
 こんな時なのに、楽しげに聞こえる笑いを洩らす壱哉に、吉岡は不吉なものを覚える。
「壱哉様‥‥‥」
 気遣わしげに顔を覗き込んで来る吉岡に、壱哉はどこか遠い視線を向けた。
「このところ‥‥よく夢を見るんだ。そこは、こんな風に戦いなどなくて‥‥俺は、わがままを言ってお前を困らせたり、あいつらの所に行って悪戯してみたり‥‥‥平和で、とても楽しかった‥‥」
「‥‥‥‥‥」
 淡い憧憬にも似た表情に、吉岡は何も言えなくなる。
「もしも‥‥もしも、だ。この世界が夢で、夢の世界が現実だったら‥‥どんなにいいだろう‥‥」
 宙に視線を迷わせた、独り言のような壱哉の呟きを、吉岡は黙って聞いていた。
「なぁ、吉岡。‥‥夢の世界に‥‥行けたらいいな‥‥‥」
 壱哉は、まるでその平和な世界を目の前に見ているように、遠い瞳で呟いた。
 やがて壱哉は、夢から覚めたように、強い光を取り戻した瞳で吉岡を見上げた。
「すまんな、吉岡。こんな話をしてしまって。忘れてくれ」
 ほんの一瞬、見せた迷いを断ち切るように、壱哉はいつもの、毅然とした態度を取り戻していた。
「壱哉様‥‥‥」
 吉岡は、そんな壱哉の前に片膝をついた。
 恭しく、主にするようにその手をそっと取る。
「吉岡‥‥?」
「私は‥‥何があろうとも壱哉様のお傍におります。たとえこの命が尽きようとも、我が心は必ず壱哉様のお傍に‥‥」
 吉岡は、騎士が誓いの言葉を口にするように、壱哉の手の甲にそっと唇を触れた。
 少しだけ驚いたように吉岡を見下ろしていた壱哉の表情が、とても柔らかいものになる。
「ありがとう、吉岡。本当に‥‥お前がいてくれて良かった」
 壱哉は、気持ちを切り替えるように厳しい表情になった。
「もう、俺達に後はない。行くぞ、吉岡」
「はい」
 頷いて、吉岡は何よりも大切な主の後に続いた。
 ―――――――――
「とうとう出てきましたね?」
 瓦礫の山と化した町の真ん中で、青年医師が艶然と微笑した。
 彼は、自分の思い通りにならないからと、資金提供者であった西條さえ切り捨てたのだ。
「ふふ‥‥楽しいですよ。あなたは私を、これだけ楽しませてくれるんですからね?」
 青年医師が、指を鳴らした。
「壱哉様っ!」
 突然突き飛ばされ、壱哉は転びそうになった体勢をかろうじて持ちこたえた。
「‥‥外しましたか。まあ、そう簡単に行けばここまで苦労はしなかったんですが」
 青年医師が舌打ちをする。
 不意打ちを仕掛けてきたのは、青年医師が作り出した合成モンスターの一体だった。
 吉岡が腕を振ると、合成モンスターは真っ二つになって吹き飛んだ。
 そして、吉岡が膝をつき、崩れ落ちるのがまるでスローモーションのように見えた。
「吉岡!」
 壱哉は駆け寄って、吉岡を抱え起こす。
「壱哉様‥‥ご無事で‥‥‥」
 吉岡が、安堵したような表情を見せた。
 しかし当の吉岡は、傷の為に血の気を失っている。
「吉岡‥‥‥」
 壱哉は、それしか言う事が出来ない。
「‥‥そんなお顔をなさらないでください。お誓いしたではありませんか。私は、何があろうともお傍に在る、と‥‥‥」
「あぁ。そうだったな‥‥‥」
 無理に作ったと判る壱哉の笑顔に、吉岡は微笑した。
 壱哉は、もう力が入らない吉岡の身体を、壊れかけた瓦礫にそっと寄りかからせた。
「吉岡。少しだけ、ここで待っていろ。そして‥‥一緒に帰るぞ」
「‥‥は‥‥ぃ‥‥‥」
 吐息のような吉岡の答え。
 ぐったりと目を閉じた吉岡から見る見る生気が失せて行く。
 ゆっくりと立ち上がった壱哉は、青年医師を睨み据えた。
 凄絶なまでの艶気と、視覚的な錯覚すら覚える程激しい怒りの焔に、青年医師は息を呑んだ。
 しかし、すぐに我に返った青年医師は、薄く笑った。
「忠実な『盾』を失って、今度こそあなたも最後ですね」
「そう‥‥思うか?」
 凄みのある壱哉の笑みに、青年医師は思わず気圧されるものを感じた。
 畏れを感じてしまった自分を否定するように、青年医師は高々と手を上げた。
 その合図に、数え切れない程の合成モンスターが姿を現した。
「これだけの数を相手に、あなたがどれだけ保つか楽しみですよ」
 余裕を取り戻した青年医師の言葉に、壱哉は毅然とした態度を崩さなかった。
 壱哉が手を掲げると、その手に魔法のステッキが現れた。
 一振りすれば、津波を呼び、メテオすら降らせる事が出来る魔法のアイテムだ。
 魔法のステッキを構え、壱哉は青年医師を睨み据えた。
「誰にものを言っている。たとえ最後の一人になろうとも、俺は貴様を倒すまで戦い続ける。俺は、選ばれし戦士――魔女っ子ぶらっくだ!!」
 壱哉の全身から、凄まじいまでの闘気が渦を巻いた―――。




『超戦隊魔女っ子ふぁいぶ』を
長い間御覧いただきまして、

本当にありがとうございました。
〜スタッフ一同〜










「‥‥なんかさぁ。黒崎さん、ものすげー自分勝手なシナリオに浸ってんだけど?」
 壱哉名義の別荘の地下、『秘密基地』の作戦会議室の意味もなく金の掛かった贅沢な椅子で、新がため息をついた。
「まあまあ、いいじゃないか。僕達は一応端役なんだし」
 いつものようにおっとりした口調で、山口が笑った。
 温厚と言うか、お人好しと言うか‥‥これは『大人の余裕』とは全く別種のものだと思う。
 一応壱哉の回想シーンに近い出来事がなかった訳ではないのだが、壱哉をサポートしている工作員達の協力で全員、大した怪我もなくこの基地に戻って来ているのだ。
 第一、あんなに恥ずかしい台詞を口にした覚えは全くない。
「やっぱ、おもしろくねえ。何のためにこんなこっ恥ずかしいチャイナドレスなんて着たんだか‥‥」
 勿論壱哉の趣味なのだろうが、何か間違っているような気がする。
 口を尖らせる新に、山口は苦笑した。
「これはオフレコなんだけど、これ、黒崎くんの退屈しのぎと税金対策も兼ねているんだって。ここも『秘密基地』って事だけど会計事務所入ってるし。自主撮影で映画を作る、って言う事で派手に使っているみたいだよ?」
 妙に山口が事情通なのは、壱哉の持つ会社でそこそこの仕事をこなしているからなのだろうか。
「なにそれ?じゃあ撮ってる真似してんの?」
「いや、本当に撮っているそうだよ。後で編集して、黒崎君が一人で楽しむみたいだ」
「マジ?俺、こんな恥ずかしいカッコ、撮られちまってんの?!」
「うん‥‥まぁ、そうなるねぇ」
 おっとりと肯定する山口の頭の構造はどうなっているのだろうと思う。
「編集した映画、僕もほしいな♪」
 山口に纏わりつくようにしていた一也が無邪気な声を上げた。普通の戦隊物とはとてもかけ離れていると思うのだが、一也は一体何が良くて見たいなどと言っているのだろう。
「一也がほしい、って言えば黒崎くんは譲ってくれると思うよ」
「わーいっ♪たのしみだなー、吉岡くんのちゃいなどれすとめいどふく♪♪」 
 妙に和気藹々とした親子の会話について行けず、新はもう一人の犠牲者に視線を移したのだが。
「これこそ、ヒーローの最終回にふさわしい‥‥感動だぁ‥‥!」
 涙目になりながら、モニターに噛り付くようにして見入っている樋口に、新は深いため息をついてしまった。
 結構子どもっぽい所のある人だとは思っていたけれど、まさかこれ程とは。
 見ているとこっちが恥ずかしくなって来るので、取り敢えず意識から追い出す。
 散々好き勝手をして楽しんだのか、壱哉はひとまず(この言葉が引っかかるのだが)、今回の道楽を打ち切ると言い出した。
 それで、折角だからヒーローものらしい『最終話』をやろう、と壱哉が一晩で書き上げたシナリオがこれである。
 なんだかんだ言っても、壱哉は結構お約束のストーリーが好きなのではないかと思う。
「まったく‥‥あんだけ強引なシナリオを臆面もなくやっちまうんだからなぁ、黒崎さんは。その黒崎さんと二人っきりの世界作っちまう吉岡さんもすげえけど」
「あはは、そうだねえ」
 山口が、声を立てて笑う。
 実は山口は、仲良くなった工作員の一人からこっそりシナリオを見せてもらっていた。
 だから、最後の戦いに赴く前の吉岡の一連の演技は殆どがアドリブだった事も知っている。
「やっぱり、吉岡さんは黒崎くんが好きなんだねぇ‥‥‥」
 のほほんとした口調で呟く山口である。
「はあ?そりゃ嫌いなら秘書なんてやってられねえだろ?」
 『好き』と言う意味を至極常識的にしか解釈していない新に、山口はまた苦笑した。
「しっかし、西條さん、だっけ?黒崎さんのオヤジさんなんだろ?しかも、ものすげー金持ちの。なんでそんな人がこんなお祭り騒ぎに乗ってきたんだろうな」
「あぁ、それは西條氏の方も税金対策だったみたいだ。去年脱税が一部見つかって、目をつけられていたみたいだから。それに、悪役好きみたいだからね。仕事が忙しくなって暇がなくなったから、最終話ではもういなくなっている事になっているけど」
「金持ちって、わかんねー‥‥‥」
 所謂、『道楽』と言うやつだろうか。
 壱哉は父親に似ていると言われると怒るが、傍から見れば何となく似ていると思う。
 しかしそれにしても、本当に山口は事情通である。敵に回して怖いのは、案外こんなタイプだったりするものだ。
「それじゃ、あの医者は?あのアヤシいモンスターは?」
「あの人は、黒崎くんの知り合いの普通のお医者さんだって言う話だよ。相当頭がいいそうだから、モンスターの一部は本物だって言う話だけど?」
「‥‥‥‥‥」
 それは、無茶苦茶シャレにならない話ではないだろうか?
 どう考えても、『普通のお医者さん』ではないと思う。
 固まっている新を、少し不思議そうに山口は見詰める。
 全く疑問を持っていないらしい山口は、一体どんな頭の構造をしているのだろう。
 周りに流されると言うより動じないと言うか、気にしないこの性格は別な意味で凄いと思う。
 そして、ずっとモニターで壱哉の活躍を見ていた樋口はと言うと。
「あぁ‥‥感動だ‥‥」
 ハンカチを引っ張り出し、人目も憚らずボロボロと泣いていた。
「‥‥‥大人って、わかんねー‥‥‥」
 深い、深いため息をつく新であった。


「壱哉様、いい加減仕事も溜まっておりますので、そろそろ戻られませんと」
「あぁ、わかっている。いい気分転換だった」
 壱哉は、いつになく上機嫌だった。
 実は、この一連の道楽の影で、密かに西條との勢力争いが繰り広げられていた。派手に物資や資金、工作員を使っていたのもそのせいだ。
 既存の勢力を拡大する事こそ出来なかったが、物量と資金に勝る西條の本気の攻撃を相手に、こちらの勢力圏を全て維持出来たのは大きな収穫だったと思う。
 このまま行けば、西條の勢力に食い込めるのもそう遠くない日に違いない。
「それに、中々いいものもできた事だしな」
 壱哉は笑みを浮かべた。
 特注した戦闘服のおかげで、実に目の保養になる映像に仕上がったと思う。
 あの医者の暴走で面白い濡れ場もあったのは嬉しい誤算だった。
 壱哉は吉岡に聞こえないように小さく呟いた。
「‥‥今度は、俺が悪の首領で正義の連中を思い通りにする、と言うシチュエーションもいいかもしれんな。スパイものや怪盗ものとかも面白そうだ‥‥‥」
 どうやら、今回の事で壱哉の別の性癖まで開発されてしまったらしい。
 次の気紛れは、果たして‥‥‥?!


今度こそ、終。
第五話に戻る!

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まずは、ここまで読んでいただきました皆様方、大変ありがとうございました。特撮に偏りまくった挙句、かなり好き勝手をしてしまったのですが(勝手をしていた割には顰蹙を買わないかと怯えていた・笑)。でも、楽しかった〜♪(自己満足)
なんか今回は、妙に秘書が目立ってしまったです。まぁ私の中の秘書のイメージってこんな感じなんですが。
今後は、ちょこちょこと番外とかパラレルのような形で読み切りを書いて行く予定です。『魔女っ子ふぁいぶ』は、設定的に、これだけで終わらせるのはとても勿体無いので(なんでもアリ、で無茶が出来る所が特に)。
最終話のタイトルと、シリアス部分のシチュエーションの一部は、実は某特撮の最終回からいただきました。放映時は打ち切り食らったんですが、コアなファン(笑)が多く、特撮同人史上始めてオンリーが開かれた番組でもあります。6月末に待望のDVD−BOXが発売になった時、有頂天になった後遺症だったりします。番組名が判った方、お話しましょう♪