●下記の話は2007年2月インパクトで発行した
「ヤサシイミライ」に収録しそこねた小話です。
イベント会場でペーパーとして配布しました。
<ヤサシイミライ〜side story〜>
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二度目の大戦が終結し、プラントと地球、その仲立ちとなるオーブにおいて再び和平条約が結ばれた。幸いその条約は成立から五年を数える今も、揺るぐことなく保たれている。 年に一度の式典に併せて開催される夜会は招待客も幅広く、自国はもちろん、諸国の要人や、尉官以上の軍人たちも参加を請われた。 物慣れぬ軍人たちはどこか居心地悪げに壁際に立つものがほとんどだが、その視線は常に一点に集中していた。 彼らの見守る先にいるのは、国の柱とも言うべき彼らの主君。 まだ年若く、女性の身ながら列国の政治家を相手取り一歩も引かぬ立派な為政者。 二度の大戦を経て再びその地位に返り咲いてからの彼女の働きは目覚ましく、いつしか『獅子の娘』という呼び名は、『オーブの獅子』と変わっていった。 偉大なる前代表首長、ウズミ・ナラ・アスハの娘としてではなく、カガリ・ユラ・アスハその人として認められるようになった。 その昔は軍艦を率い、兵士たちと混じって戦場に居たという経歴から、軍人たちの間での人気はとくに高い。 そんな、いつもは遠くから、またはメディア媒体越しにしかお目にかかれない相手が、今宵は目の前で笑いかけてくれる。 音楽が流れ始めた最初こそ萎縮していた彼らだが、代表自らがその中のひとりに手を差し伸べて、「お相手願えるか?」と微笑んでからは、曲が終わるたびに次は自分だと歩み寄る者が後を絶たない。 ひっきりなしに踊り続けるのは疲れるだろうに、カガリはその顔に不満ひとつ浮かべない。 悠然とした微笑はまさに威風堂々といった様で、逞しい体躯の軍人たちに手を取られていても、明確な主従の差を感じさせた。 何度もタイミングを見計らい、ようやくその手を取ることを許された士官は、間近で見る主君の美しさと凛々しさに感じ入った。 ワンショルダータイプのドレスは、細身ながら女性らしい曲線を描く肢体に沿って、膝元から裾が柔らかく広がるラインだ。 胸元から徐々に色味を増す緑はカガリの金糸の髪と白い肌によく映える。 緩やかなリズムと共に裾がひらりとそよぎ、濃いエメラルドグリーンのハイヒールが足元を飾っているのが見えた。 「どうした?」 思わず観察するように視線を下げていたら、ゆるい笑みと共に問いかけられてどきりとする。 「いえ、あの、お綺麗なドレスだと…、っあ、もちろん代表もとてもお綺麗です、ホントに」 口走った内容が失礼にも取られそうで取り繕うのにカガリは笑みを深くする。 「ありがとう。まあ確かに綺麗なドレスだけど、私は最初見たとき、なんて自意識過剰な奴だと思ったな」 「は…?」 意味を図りかねて呆ける相手にかまわず楽しそうにカガリが笑う。 無礼をとがめられなかったことに胸を撫で下ろしながら、士官はふと、目の前の相手のもうひとつの呼び名を思い出した。 ――天空の女神、大地の女神。 プラントを統べるラクス・クラインと並び称される女神の名。 その響きの持つ力強さは確かにカガリに相応しい。 その美しさと手腕、どちらも引けをとらない。 (でも、女性としてはあちらが上かな) 容姿やスタイルは全く遜色ないが、彼の主君は女性特有のたおやかさや華には縁がないように見える。 無論それは敬愛をいささかも翳らすものではなく、むしろ凛としたその強さを誇らしく思うのだが。 曲が終わり、礼をすると同時に男たちが近寄ってくる。いつの間にか時間は過ぎ、次がラストダンスらしい。 最後のチャンスに、皆目が血走っている。互いを牽制しつつカガリを取り囲み――だが、その誰も手を取ることはできなかった。 どこから出てきたのか、ひどく自然にカガリの手を取り、会場の中心へと誘ったのは彼らの上官。 現オーブ軍一佐であり、次の受勲式では准将に昇格すると噂される男――アスラン・ザラだった。唖然とする部下たちを尻目に、優雅な所作でカガリの腰を抱いて踊りだす。 相手が一佐であれば仕方がない、と諦める男たちの中で、直前に相手をして貰えた士官がその変化に気づいた。 常に泰然とした笑みを崩さず、主としての威厳を保っていた国家元首の表情が柔らかく解ける。 男の肩に回す手も、見上げる視線も、為政者としての強さから女性としての艶を帯びていく。 先までと変わっていないはずのドレスが、ただの絹から鮮やかな華に変貌して見えた。 琥珀と翡翠の瞳が絡み、どちらからともなく笑みを浮かべる。その視線に潜む熱。 (女性らしさがないなんてとんでもない) そこにいるのは、黄金の薔薇のような、美しい女。 国家元首、カガリ・ユラ・アスハと、オーブ軍准将、アスラン・ザラの婚約が公表されたのは、それから一月後のことだった。 |
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こうしてみると益々短くて一体何の話だか…すみません。 一応これだけでも読めると思う、のは願望かもしれませんが、本来なら本の中に入る オムニバスの話だったわけで…ええアスランさん、立ち回りが上手くなりました未来話。 ついでに前後も読んでやろうかいなと言うお方は是非通販にて トーテムポールのような在庫の山を壊してみてください(宣伝)。 2006年2月28日 TOPへ |