信濃の防人の歌
万葉集巻第二十より

4401 唐衣(からころも)裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母(おも)なしにして

 *右の一首は、国造、小縣郡(ちひさがたのこほり)、他田舎人(をさだのとねり)大島。

4402 ちはやぶる神の御坂に幣まつり斎ふ命は母父(おもちち)がため

 *右の一首は、主帳、埴科郡(はにしなのこほり)、神人部(かむとべの)子忍男(こおしを)。

4403 大王の命かしこみ青雲(あをくむ)のとのびく山を越よて来ぬかむ

 *右の一首は、小長谷部(をはつせべの)笠麿。
  二月の二十二日(はつかまりふつかのひ)、信濃の国の防人部領使、
  道にて病を得て来たらず。
  進れる歌の数十二首。但し拙劣(つたな)き歌九首は取載(あ)げず。