阿智神社=茅の社 説
〜 志賀 剛 先生 〜

 志賀 剛先生は延喜式内社の研究者で、50年にわたる研究を、『式内社の研究』(全10巻)にまとめられました。語源の分からないものが多い神名に対して、地名・地形・音韻の総合により実地研究されたといいます。『式内社の研究』から、神名の語源の部分を抜き出した『神名の語源辞典』(思文閣出版)より、引用します。

阿智神社(信濃・伊那) 茅の社である。阿は「アくどし」のアと同じく接頭語で意味はない。智は茅(チがや)のチであるが智の好字を当てたのである。当地を智里ともいう。

 この他、阿知江磯部神社(丹後・与謝)の阿知=芦、阿遅加神社(尾張・葉栗)の阿遅=芦(阿遅加=飛鳥で芦の生える所)、阿治古神社(伊豆・加茂)の治=茅、阿遅速雄神社(摂津・東成)の阿遅=芦 など「アチ」が付く式内社が多いが、芦になるか茅になるかは土地によって違うそうです。茅は水源に関係し、芦も水辺を表すが、芦の繁る様子は稲の成長を願う信仰に通じるようです。
 因みに、「阿蘇」は「麻」、「阿波」は「粟」に関係するそうです。

 阿智神社は本谷川と黒川の合流点にあり、こんもりした森が川から見ると島のようです。ここから奥は恵那山トンネルまで断崖です。「智里」は明治14年の「智里村」発足以降の新しい地名なので、茅の里とは言えません。地形的に芦と茅のどちらが適しているのか私にはわかりませんが、阿智神社周辺は稲作地帯とは言えません。
 あとがきで、「語源」とは、その人の「翻訳」であり、意訳したり直訳したりしたが、誤訳も多くて古代人の意に添わぬかも知れない。と述べておられますが、全般的には説得力のありそうな説です。
 (文責 さんま)
 

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