銀カメ文学と写真>コンサ−ト2

 

 

 

コンサ−ト(5−2)

僕はフリ−ライタ−だったので時間が不規則だった。それにかこつけて取材と称してはよく仲間とマ−ジャンをしていた。妻から見ればまぁだらしのない夫の典型ともいうべき存在だったと思う。そんないい加減な生活でも、妻とひとつだけ約束をしていたことがある。これは二人が独身のときに決めた約束である。年に一度だけクラシックのコンサ−トに一緒に出かけるという約束である。そのときだけは妻はもちろんのこと、僕にも正装させてきちんとした格好で出かけるのである。僕は背広が一着しかなかったが、年に一度のコンサ−トの度に妻がネクタイだけは新調してくれた。今でも背広は2着しかないが、ネクタイだけは何本も持っている。つまりネクタイの本数でコンサ−トに出かけた回数がわかるのである。
妻の言い分は、演奏者が正装するのだから、聴衆も正装して聞くのが当たり前であるというのだ。言われてみればもっとものことである。僕はいつもジ−ンズ姿で出版社に頭を下げて仕事をもらうという繰り返しなので、たまに背広にネクタイを締めるとなんだか似合わないのである。そんな僕の姿を見て、妻はいつも笑いころげていた。

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