老人福祉に強いご関心 

社会福祉法人札幌養老院には、210人の老人が、朝早くから身のまわりをととのえて両陛下のおいでをお待ちしていた。
 養老院お着きの両陛下は、太田理事長の概況奏上のあと特別養護ホームの各室内におはいりになられた。「元気になってください」「早くなおって」などねんごろなお言葉をおかけになられると、室内からはおえつも聞かれた。
 ついで両陛下は、比較的健康な一般養護の138人が集まってお待ちする二階ホールに歩を運ばれた。両陛下からこもごも「皆さん、楽しくすごしてください」とごていねいなお言葉を賜わったが、老人たちは感激にほおをこわばらせ、ただ深々と頭を下げるばかり。両陛下がホールを退出されようとすると老人たちの聞から万歳の声がわきおこった。二度、三度、それは、両陛下のあたたかいご慈愛におこたえする老人たちの真心のほとばしりであったともいえよう。 ご案内の三好専務理事に村して、「北海道の冬は寒いが、暖房設備はどのようにしているか」、「養老院入居者の男女別比率は、府県が女65%に村して男35%であるのに、北海道では60%と40%ということだが、それは気候風土と関係があるのか」など、こまかいおたずねがあり、”北海道”をお考えになっての深いおぼしめしがうかがわれた。
 これに村して、「防寒設備には十分意を用いております。特に、北側は日あたりも悪いのでラジエーターの数を多くしております」、「高齢者の男子には、明治の初・中期に出かせぎなどで単身渡道してきたものが多く、転々として移動するうちに家庭をもつ機会もないまま、身よりのない境遇に落ちていったものと思われます」と申し上げると、天皇陛下はうなずきながらお聞きになられたという。
 二十五分の短いご視察時間ではあったが、天皇陛下は、二階への階段の踏み段の低いことにお気付きになられて、老人向きだと喜ばれ、皇后陛下は、浴室の中にまで立ち寄られてご覧になるなど、老人のためのこまかいお心づかいに、関係者はただ感激するばかりであった。 ご退出にあたって、特別奉迎の道内社会福祉事業功労者に、「社会福祉のしごとは苦労の多いじみなしごとであるが、国家のためだいじなしごとであるから今後も後進の指導な どいっそう努力するよう」、職員一同にも、「健康に注意して、お年よりたちのめんどうをみてあげてください」 と、ていねいなお言葉があった。
 あたたかいお言葉で老人たちを励まされ、慰められたあと、両陛下は、お泊まり所である札幌パークホテルにはいられた。
 お泊まり所では、札幌市長原田与作、札幌市議会議長松宮利市、札幌高等裁判所長官熊野啓五郎、札幌高等検察庁検事長津田実の四氏に拝謁を賜わった。

 

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