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Inside Farming Vol.99



無許可農薬の影響拡大か??


  前回、日本の農家の安全に対するモラルについて触れた途端に、日本でも、無許可農薬の販売、使用が発覚した。それらの薬剤を使用した梨などの回収も相次いでいる。中には、無許可農薬を使用した果実と、健全に生産された果実が出荷の段階で混ざってしまった結果、その地域全体の果実の回収を余儀なくされた農協もある。1地域に2〜300ある農家のうちの不見識な僅か1、2戸の農家の薬剤使用が招いたダメージはあまりにも大きい。当然のことだが、回収により穴が空いた市場には、健全な農薬使用の農協から出荷された農産物が充填されている。したがって、回収騒ぎがあった地域の農産物が市場において復活するのは容易なことではない。まるでハム売り場のように。まるで牛乳売り場のように…。
 長野県では、昨年は梨の価格が不振であったことも手伝って、恐らく廃業する梨農家もかなり出るものと思われる。自然災害でなく人災による被害。この激しい怒りの矛先は何処に向うのか。同じ地域の農家仲間に損害賠償請求をすることができるだろうか?。

 河合果樹園のある地元農協は、幸いにして回収騒ぎなどないが、農協では、梨に限らず、農産物の生産者に「無許可農薬の使用を一切していない」という誓約書を提出させるなどして、市場の信頼を高める努力をしているようだ。河合果樹園も地元農協に出荷しているから、誓約書を提出したところだ。こういった取り組みで、少しでも早く流通している農産物全体の信頼が回復し、本番を迎える林檎への影響が少ないことを願っている。

 それにしても、これから秋の本格的な果物シーズンを迎えるというのに、出鼻をくじく出来事だ。果実全体に対する消費者の購買意欲も萎えはじめているような兆候もある。

 例えば、先日、林檎を少しだけ、ある市場(いちば)に出荷したのだが、その市場の林檎の価格水準は例年に比べてかなり低いものであった。継続するデフレの影響もあるだろうが、個人持込が基本の地方市場では農家の使用農薬の確認権限がなどがないから、販売が堅調ではないのかもしれない、と感じた。回収騒動とはまったく関係のない市場で、である。

 林檎を積み下ろし、出荷が終わった後にその価格水準を知って、少々ガッカリしながら、一緒に出荷に付いて来ていた妻と娘の3人でトラックに乗り込んでいたら「お娘ちゃんもお手伝いに来たの?家族みんなで市場に来るなんてイイねえ」と、トラックの窓越しに、娘に話しかけてきた老人がいた。
 バルビゾン派の絵画の農場にいそうな、農作業焼けした皺だらけの顔の老人は「おれは梨を作ってるが、安くていけね。今年はダイホルタン(無許可農薬)の影響だ。せっかく収穫して市場に出しにきても、これじゃあやっていられない」と嘆いていた。我々も老人の言葉に大いに同意すると、老人は「家族で楽しく農業できりゃいいが、これからどんな時代になるんだか。これからは若い人はたいへんだ!」と言いながら、視線を泳がせた。そして、急に思い出したように「お娘ちゃんのところ梨作ってるか?作ってなきゃ、梨やるぞ、朝採ったやつだ」といって、出荷するために持ってきた梨を差し出してくれた。

 娘も妻も私も美味しい梨を"たくさん"もらって、とっても嬉しかったけど、市場で売るより、人にあげて喜ばれたほうが良い!なんていう価格じゃ、農家も浮かばれない。なんとか、ならないものだろうかと、心底思った。

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写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園