kawai fruits banner

Inside Farming Vol.98



農産物の残留農薬と、安全に対するモラル


 冷凍食品などに使用されていた中国産のほうれんそうや枝豆(なつかしいね!こっちは残留農薬なしですよ)から、高濃度の残留農薬が検出され、かなりの問題になっている。報道によると、(1)日本側で農薬の使用基準マニュアルを作って使用を規制しても、農民の農薬に対する意識が低いために濃度や毒性を考慮せず使ってしまう、あるいは、(2)日本向けの野菜は中国国内向けの野菜とは別の畑で生産されていて、農薬散布は管理されているのだが、日本に出荷される途中に中国国内向けの野菜(残留農薬がある)ものと混ざってしまった、または、(3)日本向けの畑に隣接する中国国内向けの畑の野菜の農薬がかかってしまった、などが原因らしい。

 中国の農民の農薬に対する意識の低さを責めることは簡単だが、背景はそれほど単純ではない。安さばかり求めるために、食の安全管理まで海外に"丸投げ"している"つけ"が出てきているのだと思う。例え、厳格な農薬管理マニュアルが与えられても、食の安全という思想の啓蒙(教育)が欠如しているから、マニュアルの意図する本質が理解できない。人件費だけじゃなく、管理コストまで安くしようとするから指導が行き届かない。目的(安くて、見た目がきれいな作物の生産)が達成できれば、それでイイダロウという結論になってしまう。

 ここで、「だから、国産の農産物を買ってください!」と言うことは簡単だ。しかし、そう言うためには、日本の農家に食の安全という思想があるのか?という点が問題になる。何しろ日本は、効率のためには、核物質だってマニュアルを無視してバケツで扱っても平気だし、無認可の香料を何年も継続的に食べ物に使用するし、バレなければ国内産物に外国産物を混ぜたって、原産国表示を改竄したって平気な国民気質である。そして基本的に人間は(園主だって)、バレなければなにをやるか分からない。

 実際問題としてどうか。日本の農家の食の安全性に対する意識はバラバラであると思う。また、安全に対する意識が高くても、栽培管理コスト削減、消費者から要求される品質の維持のため、販売価格維持、等の面から、ある程度(もちろん基準以下だが)の農薬等の使用は余儀なくされているのが現状だ。
 ただ、農薬使用については一定の歯止めがあることだけは強調しておきたい。それは、農協のおかげであると思う。農協には農薬や生産技術の専門知識を持つ技術指導員がおり、その地域で生産する作物の農薬の使用の体系を(農薬の営業とは離れた立場で)作成し、農家を指導している。技術指導員は、農作物に病気が発生した場合には、個々の農家の農薬の使用状況から、最適な農薬を選択して、個々の農家にアドバイスしている。そして、重要な点は、技術指導員は、農薬等の営業とは分離された組織の構成になっているところだ(と思う)。したがって、個々の農家に思想があるかどうかは不明でも、安全に対する指導は、ある。だから、農薬に対する意識があまりなくても、この地域密着の指導を遵守すれば、農薬の使用基準は満たされているのである。この指導はかなり機能していると感じている(こうやって作られた農薬基準に対して、知識を有する農家や減農薬を目指す農家は、自分でさらに低農薬のレシピを作成して生産しているという構図である)

 園主は農協を擁護する立場にいる者ではないが、非採算部門である教育指導のための農業技術指導員という人材を全国津々浦々に配置し、農の安全性が一定レベル以上に保っているという功績については、農家の立場からも、消費者の立場からも、評価してあげてもイイのではと思う。

 いずれにしても、モラルを育むことは難しいことだ。いったいモラルはどこからくるのか。自信、ブライド、尊厳、意地、敬意、尊敬、感謝、等からくるものなのか。だとしたら、生産者に敬意を払ってくれる消費者はどれくらいいますか?
Inside Farming Index
Go to Inside farming index page


kawai@wmail.plala.or.jp

写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園