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Inside Farming Vol.67 (Japanese)



セーフガードのその後は?

  まさか発動となるとは思わなかったが、3月にInsideFarming60で取り上げたセーフガードが暫定ながら4月から発動されている。このモラトリアム中(暫定発動では200日だそうだ)に国内農産物生産・流通の構造改革を行うことができなければ、海外生産国と国内消費者の反発を買っただけという結果になってしまう。

 ところが、ねぎ・しいたけ・井草に関する日本の農業の改革がどのように進んでいるのかという情報や、国内の農産物生産者が構造改革にむけてどれほど努力しているのか?といった情報・報道に全くといっていいほど接することが出来ない。反対に日本の商社指導の下で一生懸命栽培してきたネギが一夜にして行き場を失い倉庫に山積みにされていたり、作付けをした畑を見て途方に暮れている中国の農民の状況が報道されたり(実際6月下旬時点でねぎ・しいたけの輸入量は58%から45%減だという)、中国の報復として、携帯電話やエアコン、自動車の輸入に対して高い関税(100%関税によってほぼ輸出停止)をかける措置を取り始めたことばかりが報道されている。
 
 とにかく、セーフガードを発動した政府は、期間中にどのような農業構造改革をするのかの明確なビジョンとプランを、生産者にも消費者にもしっかりと提示して欲しいものだ。同時に関係農業者の皆さんは、政府にセーフガード発動を働きかけた時に持っていた改革プランを速やかに実行して欲しい(そしてマスコミも国内の努力を報道してね)。そうしないと、このままでは政府の政策に対する批判が、ねぎ・しいたけ・井草の生産者向かってしまうだろう。さらに、それに止まらずに農業全体へ向けられてしまう、という状況にもなりかねない。とっても心配である。

 そうやって焦(じ)れていたら、6月下旬に、農水省が産地強化策をまとめたようだ。報道(日本農業新聞2001/6/27:農協系新聞)によると、8月末の来年度予算概算要求までに細部が決定されるらしい(これって、発動から100日以上も経ってから対策が決定されるってこと?)。報道によると農水省のまとめた政策の柱は「低コスト化」「契約取引推進」「高付加価値化」の3つ。いずれについても産地に数値目標を策定させる。つまり産地が一体となって「生産と流通コストを3割削減」し、「一定価格・一定量の流通を確保」しながら、「高品質品生産」へシフトさせるのだそうだ。最終的に生産・販売コストを3割下げたとしても、輸入品よりは1割〜2割高いという状況になるらしい。そこは品質でカバーしていくのだという。

 いきなりコスト3割削減とは相当に厳しいものだ。でも、どうやって3割削減するのかな。そこが一番知りたいところ。まず、一番割高な人件費の削減のためにどうするのか。地域で作業の共同化を進める?それとも機械化・施設化?国の指導の下に大規模農業生産法人化?
 流通のコスト削減のためにはどうするのかな。優秀良などの選別規格の廃止?中間流通業者は全てカット?流通の主流を外食産業や小売業と直接取引にするの?
 って、考えると、やっぱ時代は、ユニクロみたいなカテゴリ・キラーといわれるビジネス・モデルなんでしょうね。きっと。経費削減のため、特定の範囲の製品を、人件費と材料費の安価な海外で、自社管理下で、調達・製造し、さらに販売も自社で行うから中間マージン・ゼロ、というやつ。
 
 さらに、さらに、そう考えると、そのビジネス・モデルを商社・流通系の皆さんが野菜というカテゴリに適用するのは当然で、実行に移したら、第三国の国益にもピッタリとはまり、日本には安価な輸入野菜が増えて、国内農業は大打撃という結果を招いちゃった。それを見て、農業は産業的側面だけでなく、自給問題からくる安全保障上の側面もあるから、政府はあわててセーフガードを発動するに至った、という流れがあったのかも知れない。つまり、今回のセーフガードは日本に農産物を輸出している国を標的にした発動だけじゃなくて、一方では、農業保護のために、新しいビジネス・モデルを運用している国内企業を牽制した発動という面も多分にあるのだ(なーんて憶測だが)。
 
 だからこそ、このセーフガード中に行われる産地復興プランや構造改革は、農業関係者にとってはもちろん、新興のカテゴリ・キラー・ビジネスへ既存の国内産業がどう構造改革をしながら対抗していくか、という意味で他の産業からも注目されるべき重要な対策なのではないのかな。いったいどんな「カウンター・ビジネス・モデル」が国策として提示されるのだろうか?具体的な内容を期待を込めて待っています(ひょっとして、小泉政権流、痛みを伴う骨太構造改革だったりして・・不安もあり)。
 
 p.s.>JR系の子会社が、カリフォフニアの米を使った弁当を米国で生産し、冷凍輸入、販売開始するようですね(2001/6/27)。「この時期」に「JR」が「米」を「輸入」という事は、もはや「自給問題からくる安全保障上の側面からの農業を保護するという政策を国が転換した」ってことなんでしょうかねえ。

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