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Inside Farming Vol.60 (Japanese)



輸入農産物にはセーフガードが必要か?

 2月に、タオル業界が政府にセーフガード発動を働きかけたというような記事が新聞に出ていた。中国・ベトナムから輸入される安価なタオル類に対して、国内の業界はとても太刀打ちできないので、業界が経営体質を改善するための猶予期間を作るために、それらの国からの当該製品の輸入を”合法的”なセーフガードという手段で規制してくれ、と要望したというものだ(その後中国でタオルを生産する業者連合がそれに対して待ったを要請したという記事も出た)。そんなニュースを聞きながら何気なく手元にあったタオルを見てみると、ベトナム製品であった。品質も悪くなさそうだ。妻によると価格は2本で500円程度だったという。
 
 そういえば最近スーツを買うようになって感じたことだが、私が昔(もう12年以上前、バブルの末期です)会社勤めをしていた頃のスーツの価格は6万円前後であった記憶がある。当時、私は服道楽でちょっとだけ服にお金をかけていたせいかもしれないが、それにしても現在のスーツの価格は19800とか29800とかで手に入る。タグを見ると縫製は中国だが、デザイナーズ・キャラクタ系のブランド品である。手縫いでしっかりとテーラードされ、3ボタンの流行のシェイプの品物だ。これが適正価格だとしたら10年前のあの価格はいったい何だったんだ!と嘆きつつ、そんなスーツをさらにバーゲンの到来まで待って買う。

 タオルやスーツを買うときは物が安くなってよかった。と素直に歓迎しながら買うのだが、それが、自分が生産している農産物や工業製品、自分が提供しているサービスだったらどうだろうか?。
 
 輸入品の増加による価格の低下は特に農業にとっては深刻だ。
 
 ここ数年、現実問題として低価格な輸入品による国内農産物の価格の低下は激しい。僅か1、2年で価格が半分以下になってしまった農産物がいくつもある。スーパーに行けば売り場の殆どが輸入野菜というの現状に当然消費者の皆さんも気づいているはずだ。国内野菜が旬の時期でも輸入野菜の売り場面積の方が大きいスーパーさえある。野菜ばかりではない。果実でもパイナップルやマンゴー、ライチやグレープフルーツの低価格での輸入販売は、競合する国内の林檎や梨、ミカンの価格の低下を招く。
 そういった低価格の輸入農産物の増加には、アジア諸国が”国策”で日本をターゲットとした農産物、特に野菜の生産・輸出に力を注いでいるという背景がある。日本人の食の好みを徹底的に分析して、日本人の舌にあった品種改良を施し、”国”と”地域”が一体となって大量に生産して輸出しているのだ。工業製品の品質や生産の効率化などは日本企業に一日の長があるためになかなか対日輸出で外貨を稼げない。そこで考えられた戦略が農産物輸出だという。
 
 かつて日本は、アメリカやEU相手に半導体や自動車やH鋼で「ダンピング法違反」だとか「輸出規制しろ」だとか「貿易黒字削減」だとか声高に問題にされていた時期があったが、その歴史が廻り廻って農業分野でに及んできていると言ってもよいかもしれない。あの時の日本に対する外圧は相当なものがあったと記憶しているが、日本がアジアの農業生産物輸出に対して圧力をかけることは可能だろうか(反語)。例えば農産物に対してセーフガードを発動したとしても、その僅かなモラトリアム期間に日本の農業の構造改革は可能なのだろうか(反語でなく疑問)。
 
 そう考えると農業の未来は不安だ。もっと言えば、日本の食料事情(自給はもう絶望的らしいが・・)や、食文化もどうなることやら。これは農業に限定された経済的な問題ではなく、政治的な判断を必要とする国民生活を守る問題だと言うこともできると思うのだが、その政治判断を今の日本の政治に期待できるだろうか(反語)。
 
 「日本の農産物は高すぎるっ」だから「食べ物が安くなってよかった」。それは正論かもしれない。でも、それでいいのかな(疑問)。さらに日本経済は「安ければ買う」という時代から「安くても買わない」デフレ・スパイラルへ加速している。事態はかなり深刻だと思う。

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