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Inside Farming Vol.177


ちょっと、挫折感


10月(2006)の上旬に友人が結婚した。私が17年前に東京での記者生活から農業生活へ失意の中Uターンをした時に、林檎栽培のイロハを教えてくれた友人である。同年ということもあって意気投合して、二人で約1ヶ月アメリカを放浪したこともある。9.11のテロ以前であったから、WTCはまだ悠然とそびえており、それをヘリコプターから眺めたことが思い出である。また、レンタカーでカリホルニア州の内陸まで入り込んで、無謀にも、地元の林檎農家に飛び込みで話を聞かせてもらったことなんかも思い出す。そんな友人の結婚式であるから、特別な感慨を感じるとともに、私まで幸福な気分を味わうことができた。

その宴席で、久々に林檎栽培の友人たちとゆっくり話しをすることができたのも、また、貴重だった。

そこには、林檎栽培に対して不滅の情熱を傾けている友人がいた。テンションが上がった2次会の席では、地域の林檎産業のあり方や、これからの林檎栽培の方法について熱弁を振るっていた。それを見て、少し、挫折感。

私は、新たな仕事に傾倒するために、果樹園の多くを友人に貸してしまった。残っている果樹園についても、もはや管理に手が回らない状態になってしまっている。こうなると、林檎(農作物)は正直なものであって、満足なものは実らない。病気、害虫の発生はあたり前となるし、果実の大きさも不揃いで小さい。農業を知らない人であれば「農作物なんか、それなりに管理していればそれなりのものができるだろう」と思うかもしれないが、それほど易しいものではないのが現実である(もう、贈答林檎の販売はできません。ごめんなさい)。

一つの道を貫くことは偉大だ。そういう価値観で育ってきた世代である。父も祖父もその上の代も農業を営んできたし、私の教育を支えてくれたのは両親が農業で稼いだお金である。そんな「家業」である農業の存続の危機。その危機をもたらしているのは自分自身なのである。

「ちょっと挫折感」などと軽く言葉にしてみる。すると友人は「何言っているの、農業やっているより、よっぽど良いじゃん」と言う。でも、友人たちには農業で生きていく決意と確信がある。そして自信もあるのだと思う。

やっぱり、ちょっと挫折感。(2006/10/27)





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