スモールループアンテナのQ

Q factor of Small Loop Antenna

06 October, 2015


  << 目次 >>

1.       はじめに

2.       解析式による計算  

3.       MMANAによるシミュレーション

4.       自己共振を取り入れた解析式

5.      実験値との比較

6.    損失因子の考察

7.       まとめ  

 

  1.       はじめに 

スモールループあるいはマグネチックループと呼ばれるコンパクトアンテナがあります。コンパクトアンテナはどのような形であれ損失抵抗を減らさなければ放射効率を高めることはできません。この損失抵抗を減らすうえで好都合な構造を有するのがスモールループアンテナであるという見方もできるでしょう。

スモールループの放射抵抗: RRADは基本的にループ径の大きさだけで決まります。一方、損失抵抗: RLOSSの主要因子はループワイヤの高周波抵抗であり、多くのスモールループアンテナ解析ツールはこれらの因子をもとにアンテナ特性を計算しています[1]。しかし、ほかにも接続部の接触抵抗、同調コンデンサの損失、大地による損失、環境構造物による損失などが加わるため、解析ツールが示すアンテナ特性と実際のアンテナ特性とは一致しないのがふつうです。そして、ループワイヤ抵抗を除く他の損失抵抗を一つ一つ把握するのはそう簡単ではないのも事実です。

一方、スモールループの共振周波数: f0における3dBバンド幅: BW3dBを測定すれば、QU = f0 / BW3dBからアンテナのQ値が求まります。ここでQUは無負荷Qunloaded Q)のことです。さらにQU = 2πf0 L / R の関係があるのでループ・インダクタンス: LがわかればRの値を求めることができます。Lは実測してもよいのですが計算値を用いるほうが簡単です。こうして求めたRの値とRRADの計算値を用いてアンテナの放射効率: η= RRAD / Rを評価でき、アンテナ性能の良し悪しを判断するのに役に立ちます。 

今回はスモールループアンテナの特性評価に重要なQファクターについて、計算値と実験値の比較をおこないループワイヤ抵抗以外の損失要因について考察します。また、Qファクターの計算ではループの自己共振の影響を取り入れた式を提案し、シミュレーションの結果とよく一致することを示します。

 

2.       解析式による計算

スモールループの放射抵抗、損失抵抗、インダクタンスの計算式はARRL Antenna Book などに記されていますが、復習もかねて以下にまとめておきます。以下では、ループの周囲長(ループワイヤの長さ)をl 、ループワイヤの直径をd 、ループワイヤが囲む面積をAとします。

2-a) 放射抵抗:RRAD

スモールループの放射抵抗は下式で表されることが知られています。

λは波長ですので周波数: f に置き換えます。光速をc とおくとf = c /λ なので

 .

fA の単位をそれぞれ[MHz][cm2]とすると下式を得ます。

                                                                ---(1)

2-b) ループワイヤの損失抵抗:RLOSS

導体の抵抗率をρ 、透磁率を µ で表すと表皮厚: DS

ワイヤの損失抵抗は

          .

導体の材質が銅である場合、ρ = 1.72×10-8 [Ωm] (20 C) 、また非磁性体なのでµ = µ0 = 4π×10-7 [H/m] を代入すると

 .

f の単位を[MHz]とすると

                                               ---(2)

となります。

ここで用いた抵抗率は軟銅(アニール銅)のものですが、硬銅では1.78×10-8、耐熱銅では1.80×10-8、というように若干大きな値になります[2]。スモールループアンテナの作製では配管用銅管が良く使われますがその抵抗率がどれくらいなのか、データが見当たりません。よくよくネット上で探してみると、古河電工のホームページに空調用銅管(リン脱酸銅)の例がありました[3]。珍しいことにそこには抵抗率が記載されており2.03×10-8 [Ω・m]となっています。空調用銅管を使う場合は(2)式の係数を少し大きく((2.03/1.72) = 1.086倍)した方がいいのかもしれません、1割以下の差ではありますが。

2-c)   ループ・インダクタンス:L

公式集[4]にはやや詳細な近似式が載っていますがこれを出発点としてLを計算していきます。

上式の第1項はワイヤ断面の電流密度が一定という仮定のもとに計算された内部インダクタンスなので、周波数が高く表皮厚がワイヤ径に比べ十分小さい場合には無視できる大きさになります。また、b << l (ループの大きさに対してワイヤ径は十分小さい)として b2/l2 → 0 とおくと、

となります。µ0 = 4π×10-7 [H/m]を代入すると

           .

さらにl [cm]L [µH]とすれば下式が得られます。

                                                       ---(3)

2-d)   Qファクター

ループの周囲長とループワイヤ(パイプ)の太さを与えれば、上記の(1)(2)(3)式によりRRADRLOSSLを計算できますのでこれらからQ (=2πL / (RRAD+RLOSS) が求まります。RRADRLOSSLおよびQの周波数依存性をFig.1に示します。RRAD f 4 に比例、RLOSS は表皮効果によりに比例、またXLf に比例しますので、Qの周波数依存性は次のようになります。まず、低い周波数領域においてQf の傾きで増大し、ピークに達したのち徐々に低下、RRAD >> RLOSS となる高い周波数では f –3 の傾きに漸近する形で低下することになります。ループ径が大きくワイヤ損失抵抗が小さい場合、RRAD > RLOSS なので放射効率が高くなります。このような状況ではQの周波数依存性は右肩下がりになります。

Fig.1 Schematic view of frequency dependent Q  

ここでQの定義を明確にしておきます。Q にはアンテナのみの特性を表す無負荷QQU )と、外部負荷とのインピーダンス整合がとれた状態でアンテナが示す負荷QQL )があり、ARRL Antenna BookSteve YatesAA5TB)氏の”Small Magnetic Loop Antenna Calculator”においてはQLをシンプルにQと表現しています。整合時はQLQU / 2の関係になりますが、本稿では混乱を避けるため常にQUを用いることにします。

(1)(2)(3)式からQUを計算できることを示しましたが、これらの式が成り立つのはループに沿って流れる電流の大きさがほぼ一定とみなせる場合に限られるので、ループワイヤ長と波長の比がおおよそl /λ1/10の範囲に限って正確な計算ができるとされています。例えばl = 200 cm(直径64 cm)の場合、l /λ1/10の条件を満たす周波数は15MHz以下ということです。これより高い周波数においてはループワイヤの長さ方向に沿った電流の不均一化がより顕著になり、ついにはl /λ1/2に近い周波数で完全な定在波が立つ状態(自己共振)に達するわけです。このループの自己共振の影響を計算に取り込めばもっと高い周波数領域まで正確な計算が可能になると考えられますが、これについては 4 章で検討します。

 

3.       MMANAによるシミュレーション

MMANAは森 氏(JE3HHT)によって開発されたモーメント法によるアンテナ解析ソフト(フリーウェア)です。これを用いてスモールループのインピーダンスを求め、Q値を計算してみます。この方法ならループワイヤ長さ方向の電流分布も取り込めるのでより高い周波数まで正確な計算が可能と思われます。

シミュレーションなので具体的な形を与えないと計算できません。そこでループワイヤ長をl = 200 cm(直径64 cm)とし、ワイヤの太さが = 0.4 mm1 mm 1 cm 3通りについて計算してみることにしました。効率の良いスモールループアンテナをつくるにはワイヤの損失抵抗を小さくしなければなりませんから、通常1インチ前後の太いワイヤ(銅パイプ)を使用しますが、ワイヤ抵抗が低くなるほど他の損失要因(接続部の接触抵抗、同調コンデンサの損失、大地による損失、環境構造物による損失など)が顕著になり計算値とのずれが大きくなります。そこで敢えて損失抵抗の大きな(線径が小さな)ワイヤも含めて比較することにしました。

円形ループを多角形で近似することになりますが、今回は同じループ長の正16角形でモデルを作りました。このとき16角形の面積は円の面積の98.7%であり、放射抵抗の近似誤差は-2.6% とほとんど無視できる値です。(正8角形モデルでも面積比が94.8%ですから誤差は-10% 程度に収まるようです。)シミュレーションでは単にループのインピーダンス(RjX)を求めるだけなので、Fig.2に示すようにループの一か所に給電点を置いた簡単なモデルで計算します。

    Fig.2  View of a polygon loop for MMANA simulation

セグメントの分割数や分割方法はインピーダンスの計算精度に大きく影響すると言われてますが、デフォルト設定(DM1:400DM2:40SC:2.0EC:1)のままで計算しています。また、マニュアルで推奨しているようにテーパリングを設定(Seg: -1)しています。試しにDM1100-800DM2:10-80と変えてみましたが、ループの自己共振周波数に近い領域を除いてほぼ同じ結果が得られることを確認しています。ファイルメニューの中にある周波数特性データファイル機能を使うと開始周波数から終了周波数まで一定間隔で計算を繰り返してくれるので便利です。

こうして求めたRX、およびQu(= X / R )を以下に示します。比較のため、2章の解析式による計算結果も合わせて表示しました。

    Fig.3-1   Loop impedance and Qu : l = 200 cm, d = 0.4 mm.    R-sim, X-sim and Qu-sim indicate the simulated results while R-cal, X-cal and Qu-cal are given by the analytical calculation.   

    Fig.3-2   Loop impedance and Qu : l = 200 cm, d = 1 mm.    

 

      

    Fig.3-3   Loop impedance and Qu : l = 200 cm, d = 1 cm.  

     Fig.3-1~Fig.3-3においてR, X シミュレーション結果をみると70 MHz付近に自己共振のピークが見られます。この自己共振のため  > ~20 MHz の領域ではR, X ともに解析式による計算結果との差が顕著になっています。一方、ループ電流が周上ほぼ一定とみなせる < ~10 MHz の領域ではシミュレーション結果と解析式による計算結果とは共にほぼ同じ値が得られることがわかります。こうした傾向を反映して、Q値も高い周波数領域では両者の計算結果の差が増大しています。もう少し詳しく見ると、低い周波数領域においてワイヤ径が小さいとシミュレーションのRは解析計算のRよりも若干大きくなる傾向が認められます。これはワイや径が表皮厚のたかだか数倍にまで近づくと解析計算での仮定(表皮厚 << d )から外れていくことがシミュレーションによって見えているのかもしれません。自己共振に関しては、ループワイヤ長が2 m なので λ/2共振周波数は75MHzになります。これに数%の短縮率を考慮すると約70MHzの自己共振周波数は妥当なものと思われます。なお、Fig.3-3ではR-simの値がとびとびになっていますがこれはMMANAの出力データが小数点以下3桁で丸められているからです。

    余談ですが、シミュレーションの計算で「ワイヤ」を無損失に設定すればRは放射抵抗のみになり、銅線銅パイプに設定すればRは放射抵抗と損失抵抗の和になります。こうしてRの成分を分離することが可能です。

 

4.       自己共振を取り入れた解析式

    自己共振によるコイル特性(LRQ)の変化については半世紀以上前に検討されており実験とよく合うことが知られています[5]。自己共振の影響を取り入れたL(インダクタンス)、R(等価直列抵抗)、Q はそれぞれ下式で表されます。ここでfr は自己共振周波数、L0R0Q0 は自己共振が無い(fr  → ∞)としたときの特性を表しています。別の言い方をすれば、L0R0Q0 はループに沿った電流がループ上どの位置でも一定であると仮定して計算される値ということになります。

      

  スモールループはワンターンコイルですから自己共振の影響を同じように扱えると考え、以下の計算を試してみました。fr の値はシミュレーション(MMANA)でjXがゼロになる周波数としました。具体的にはd = 0.4mm1mm1cm それぞれについて72.1MHz71.7MHz67.9MHzです。仮に一律、70MHzとしても結果はほとんど違わないでしょうけど。

                                               ---(4)

上式の計算結果をFig.4Qu-cal-mod(黄色の線)で示します。どのループワイヤ径(d )においても(4)式による計算結果がシミュレーション値: Qu-simにほぼ重なっており、 による補正が有効であることがわかります。(4)式のfr にシミュレーションの値を用いているのでこれは完全な解析解とは言えませんが、例えばfr を実測するとか、Lの周波数変化の実測値からfr を推定しておけば、解析式の計算のみでシミュレーションと同等の結果が得られることを示唆しています。補正項がループ上の電流分布の影響をうまく表現していると考えられます。

Fig.4  Frequency dependent Qu calculated by the modified equation (4) .  

 

5.      実験値との比較

太さ0.4mm1.0mmPEW銅線、および外径1cmの配管用銅管を用いて直径64 cmのループ(l = 200 cmをつくり、真空バリコンでチューニングを取り、数MHz30MHzの領域でQuを測定しました。細い銅線はプラスチック製のフラットバーで作ったループに沿わせています。使用した真空バリコンは20-500pF15kVJENNINGS製です。太さ0.4mm1.0mmの細い銅線の場合、ワイヤ抵抗が大きく実用的な送信アンテナにはなりませんが、全損失抵抗の大部分をワイヤ抵抗が占めることになるので計算値の検証になります。

  

Fig.5  Main loop and Pickup loop for the impedance measurement

アンテナアナライザー(AA-30)の有効な測定レンジは数Ω〜数100 Ωなので、共振ピークのインピーダンスがこのレンジに収まるようにピックアップコイルとメインループの大きさや位置を調整します。メインループと同調バリコンからなる共振回路のQは、Rの共振ピークの半値幅:BWFWHMを読み取ればQu = f0/BWFWHMにより求まります。詳しい計算はこちらをご覧ください。このBWFWHMはよく知られたVSWR=2.62:1から求まる3dBバンド幅に一致します。一方、AA-30用のPCソフト(AntScope)を使用するとVSWRの基準インピーダンスを自由に設定できるので最小VSWR=1.0に合わせることができ、実測インピーダンスを50Ωに合わせなくてもVSWR=2.62:1のバンド幅を簡単に読めるようになっています。Rの共振ピークの半値幅をとるか、VSWR=2.62:1のバンド幅をとるかは好みの問題ですがいずれにせよ同じ値が得られます。測定例をFig.6-1Fig.6-2に示します。

Fig.6-1  Example of Rs and Xs for a small loop (l = 200cm, d = 1 cm ).  

Fig.6-2  VSWR curve corresponding to the measured impedance in Fig.8-1.   The characteristic impedance Z0 is set to be 83 Ω.  

Qの高いスモールループのインピーダンスは周囲の構造物の影響を受けやすく、室内測定ではループの向きをちょっと変えただけでもQが大きく変化しましたので測定は屋外でおこないました。ループは地面から1.5mの高さに垂直設置しました。家の壁から4m、道路を挟んだ隣家の金網フェンスからは5m離しています。全く影響がないとは言い切れませんが、ループの向きを変えてもQはほとんど変化しなくなりました。こうして測定したQ値をFig.7-1Fig.7-3に示します。

Fig.7-1  Measured Q values for the loop wire thickness of 0.4 mm-diameter.  

 d = 0.4 mm (Fig.7-1) では、実測値は計算値とよく合っており全損失抵抗のほとんどをワイヤ抵抗が占めていると考えられます。ちなみに10 MHzにおける損失抵抗は1 Ω以上です。

Fig.7-2  Measured Q values for the loop wire thickness of 1.0 mm-diameter.  

d = 1.0 mm (Fig.7-2) では、高い周波数領域(15-30 MHz)でQuが計算値よりも低くなる傾向が見られます。 これより低い周波数領域ではd = 0.4 mmの場合と同様、実測値と計算値はよく合っています。

Fig.7-3  Measured Q values for the loop wire thickness of 1.0 cm-diameter.  

 d = 1.0 cm (Fig.7-3) では、実測値は計算値よりも全般に低い値を示しています。10 MHzにおけるワイヤ損失抵抗は50 mΩ程度と小さく、その分、他の損失因子の影響が大きく表れていると考えられます。

次に実測したQ値から放射効率を計算してみます。

実測したQmに対して、(4)式の関係を用いて自己共振の影響を取り除いたQm0に変換します。(l /λ< 0.1の範囲であればこの変換は不要です。)

このQm0を用いて放射効率:η は下式で計算できます。

ここで、RRADは(1)式で、Lは(3)式で計算した値を用います。

d = 1.0 cmのループについて、放射効率の計算値と実測したQ値から求めた放射効率をFig.8に示します。実際の放射効率はワイヤ損失のみを考慮した計算値の半分程度しかないことがわかります。

Fig.8  Measured and calculated radiation efficiency of a small loop (l = 200 cm, d = 1.0 cm).

 

6.     損失因子の考察

Fig.7-3に示したスモールループ(d = 1.0 cm l = 200cm)のQ値は計算値の60%75%程度と明らかに低く、ワイヤの損失抵抗以外の別の損失要因が寄与していると考えられます。損失の原因を突き止めるにはさらに詳細な実験が必要ですが、現時点で可能性のある損失因子についていくつか考察しました。

6-a)  ワイヤの太さとワイヤ断面の電流分布

4章ではループワイヤの長さ方向に電流分布が生じること(自己共振現象)による損失抵抗の増加について説明しましたが、ここで行った解析計算、シミュレーションのいずれもワイヤ径方向の電流分布は一様との仮定に基づいています。しかし3D解析をおこなうとループワイヤの内側の方が外側より電流密度が高くなることが知られており、このような電流不均一化によっても損失抵抗が増加します。そこで実際にどれくらい電流の偏りが生じるのか、確かめてみました。

文献[6]の解説によると、電流の偏りはワイヤ径が太くなるほど大きくなり、以下の式(文献63.4式)で表されるとのことです。

ここでrLはループの半径、rW はループワイヤの半径です。ψはワイヤ断面の円周上の位置に対応する角度でψ= 0が最外周、ψ=πが最内周の位置に対応し、それぞれ電流密度の最小値と最大値を与えます。d = 1.0 cml = 200 cmのループについて計算してみたところ、以下のようになりました。

d l rW = d/2 rL = l/2π J(ψ=0) J(ψ=π)
1.0 200 0.5 31.8 0.985 1.016

電流の偏りは高々、平均値の1.6%程度ですのでこれによる損失抵抗の増加は極めて小さいと言えます。Fig.7-3に示された実測Qは計算Qの半分くらいに小さくなっていますが、ワイヤ断面の電流分布がこのような大きな損失抵抗をもたらすことは考えにくいでしょう。

6-b)  接続部の接触抵抗

ループワイヤと同調バリコンとの接続部で生じている接触抵抗:RCONTがQを低下させていることが考えられます。この場合、全抵抗はRRAD+RLOSS+RCONT になりますが(RRAD+RLOSS)は周波数とともに増大しますのでRCONTの寄与は低い周波数領域で顕著にあらわれるものの高い周波数領域ではRRAD+RLOSS>>RCONTとなりQへの影響は小さくなります。Fig.7-3に見られるQの低下は高い周波数においても顕著ですから、接触抵抗以外の別の損失要因を探す必要がありそうです。

6-c)  大地による損失

文献(7)によれば、大地による損失抵抗:RGNDはループの地上高に応じて放射抵抗:RRADとユニバーサルな関係を持つことが示されています。この関係にもとづいてループ径64cm 、ワイヤ径(銅パイプ直径1cm)のループを地上高1.5mに設置したときの大地の損失抵抗値を試算してみました。このループのRRAD10MHzにおいて約4mΩですので地上高1.5mでのRGND/RRAD=〜3、したがってRGND=12mΩとなります。ところでRLOSS=53mΩですのでこれに比べるとRGNDはかなり小さく、Qへの影響は53/(53+12)=0.8218%の低下となります。同様に5MHzでのQへの影響を見積もってみるとRGNDによるQの低下は6%となります。RRADf 4 に比例して大きく変化することが効いて、周波数が低くなるほどRGNDが小さくなることを示しています。一方、Qの実測値は計算値に比べて一様に小さくなっており、10MHzでは約40%5MHzでは約30%低下しています。2点だけのラフなチェックですがRGNDだけでは実測Qの大きな低下を説明できそうにありません。何よりもループの地上高を変えながらRGNDの影響をみる必要がありますが、これは今後の検討課題です。

6-d)  同調コンデンサの損失

真空バリコンやエアーバリコンは誘電損失が小さいといわれていますが羽根が抜けた状態では電界が支持絶縁体(セラミックス)に集中するので損失が顕著になります。文献(8)にタイトバリコンの損失抵抗:RCAPの実測値が示されていましたのでこれを使ってQ値を計算してみました。

文献(8)ではバリコンの損失抵抗を下式で表しています。

RCAP=RS+α/(f C2)+β(f 0.5)

ここで右辺の第1項は接触抵抗などの定抵抗成分、第2項は絶縁体の損失にもとづく抵抗成分、第3項はバリコンの電極構造に起因する表皮抵抗成分を表しています。f は周波数、Cは容量を表しており、RS、α、βはいずれも定数です。測定されたタイトバリコンの容量は25-390pF、大きさは縦横65mm、長さ90mmです。文献(8)での測定結果は、

RCAP = 0.01 + 800/(f C2) + 0.01(f 0.5)      ohms

となっています。ここで単位は f [MHz] C [pF] です。このRCAPを使ってQを計算してみたところ、実測Qに近い値が得られました。特に高周波数領域(15MHz - 30MHz)でのQの変化をほぼトレースすることができるようになりました。さらに手動でフィッティングをしてみた結果、RS0、α→ 1200、β→ 0.012 とおくことにより、下図に示すように実測Qにフィットさせることができました。

Fig.9  Calculated Q with R=RRAD+RLOSS+RCAP , where  RCAP = 0 + 1200/(f C2) + 0.012(f 0.5)  ohms.

本実験で使用した真空バリコンは20-500pF、直径75mm、長さ125mmですから、電極構造は異なるものの、容量、大きさ共に文献(8)で使われたバリコンに近い値です。真空バリコンには摺動部がないのでRS=0 となるのもうなずけます。もっとも、フィッティングという操作にはどうにでも合わせられる自由度がありますから、これが本当に真空バリコンの損失抵抗をあらわしているかどうか確証はありません。RCAPによってQが低下している可能性がある、といえるだけです。真空バリコンの損失抵抗をきちんと測ってみる必要がありそうです、簡単ではないと思いますが。

 

7.       まとめ

2章:古典的なスモールループの特性計算式をレビューしました。

3章:MMANAによるシミュレーションを通してループの自己共振によるインピーダンスおよびQの変化を観察し、ループ周囲長:l l /λ>1/10の領域では古典的な計算式による結果とのずれが顕著になることを確認しました。

4章:古典的な計算式を修正することでシミュレーションに近い、すなわちループの自己共振を取り入れた計算が可能であることを示しました。

5章:Qの計算値と実測値を比較し、細いワイヤからなるスモールループ(損失抵抗の大部分をループワイヤ抵抗が占める)では計算値と実測値が一致することを確認しました。一方、ワイヤ損失抵抗の小さな太いワイヤ(パイプ)からなるスモールループにおいてはQが計算値の半分程度にしかならず、他の損失要因も考慮する必要があることを示しました。

6章:ループワイヤ抵抗以外の損失要因について考察し、大地による損失とバリコンの損失についてさらに検討を要することを指摘しました

 

References

[1] Steve Yates, AA5TB; “aa5tb_loop_v1.22a.xls”, http://www.aa5tb.com/loop.html

[2] 古河電工、技術資料:電気特性計算式−各種導体材料の基本特性比較表、http://www.furukawa.co.jp/tukuru/pdf/auto/auto_tech.pdf

[3] 古河電工、古河空調・冷媒配管用銅管、https://www.furukawa.co.jp/tukuru/pdf/doukan_s065.pdf

[4] 新楽、田辺、権平 著、「共立物理学公式」(共立出版 昭和49年 初版第4刷)、p98.

[5] Alan Payne; "Self Resonance in Coils", p2.  http://g3rbj.co.uk/wp-content/uploads/2014/07/Self-Resonance-in-Coils.pdf

[6] Andrew Lea; “A Study of the Loop as a Compact Antenna”, ProQuest Dissertations and Theses; 2007 , http://www.marinemammal.org/wp-content/pdfs/Lea%202007.pdf#search=%27A+Study+of+the+Loop+as+a+Compact+Antenna%27

[7] Owen Duffy; "Ground effects on small transmitting loop efficiency", http://owenduffy.net/blog/?p=5099

[8] Alan Payne; "Measuring the Lossin Variable Capacitors", http://g3rbj.co.uk/wp-content/uploads/2013/10/Measurements_of_Loss_in_Variable_Capacitors_issue_2.pdf

 

 

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