3m×2m楕円スモールループアンテナを設置してからほぼ5年経過していますが大震災や台風などの洗礼を受けながらも特に不具合はなく、結果として改良の手を加えることもなく現在に至っています。 そうはいってもループエレメントは直径10mmの軟銅パイプですのでかなりいびつに変形しています。
(2015年10月)
スモールループアンテナの設計にあたって、コンパクト性を重視するなら放射効率を高めるためにループエレメントを太くして損失抵抗を極力減らすことが必要です。このとき同調用バリコンにも同様に低損失であることが要求されます。一方、ループ面積の2乗に比例して放射抵抗が増大することから、ループ径を少しでも大きくすれば放射効率は大きく向上します。この場合ループワイヤ長が0.1λ〜0.3λを超えるともはやスモールループの範疇から外れ、電界ダイポール輻射が無視できない大きさとなり明瞭なヌル特性も失われていきます。さらにワイヤ長が0.4λ〜0.5λになると同調容量をゼロにしてもループの自己共振が現れます。これはちょうど半波長ダイポールアンテナと同じことになります。上の写真にある3m×2m楕円スモールループはワイヤ長8.4mなので3.5MHzでは約0.1λ、7MHzでは0.2λです。横幅3mなのでコンパクトアンテナと呼べるかどうか迷うところですが、3.5/3.8/7MHzバンドをこれ一つでカバーできるので重宝しています。現在100Wで運用していますが自宅はもちろん近隣への電波障害もなく、また、雷による障害も今のところ経験していません。ただし、3.5MHzではさすがに放射効率が低いようで電波状態が悪いといち早く交信不能に陥ったりします。
今回、3.5/7MHzそれぞれのバンドでのQ測定から放射効率を見積もってみました。また、APB-3を使ってアンテナの通過特性(S21)を測定し、アンテナアナライザー(AA-30)によるQ測定の結果と比較してみました。
給電ループまで含めたアンテナモデルについて計算させてもよいのですが、知りたいのはループワイヤのリアクタンス、損失抵抗、放射抵抗の3つですから下図のように閉じたループの1か所に給電点をおいた簡単なモデルでシミュレーションを行いました。X軸上の給電点と反対側の位置にヘアピン状のくびれがありますがこれは真空バリコンの接続ワイヤを表しています。このシミュレーションでは接続ワイヤの先端をショートして楕円ループ全体のインピーダンスを計算しています。ヘアピン部の存在はループ全体のインピーダンスに対してほとんど影響がないので最初から省略してもよかったのですが成り行きでこうなりました。
シミュレーションのインピーダンス値はセグメント分割法に敏感であるとされていますので自動分割のDM1、DM2を100、10から800、80まで変えてみましたが結果に顕著な変化は無かったので、デフォルトのDM1: 400、DM2: 40で計算しました。自由空間での計算結果を下表に示します。
ワイヤ設定を「無損失」にすればRは放射抵抗ですので、「銅パイプ」を設定したR値と比較すればその差がワイヤの損失抵抗ということになります。QU= jX/R からQ値が得られます。3.555MHzではQU= 1200、7.105MHzではQU= 685 となりました。
AA-30で測定したアンテナのインピーダンスを以下に示します。
アンテナのQ値とは関係ありませんが、3.5 MHz帯では共振点(jX= 0 )でのRが~70Ωとやや大きく、最小SWRが1.4くらいです。使用中の給電ループ(直径47cm)が大きすぎるようです。ただ、7 MHz帯ではうまいことにSWRが1.0まで下がっていますので、現状で妥協しております。(歳をとるとアンテナの上げ下げは結構な負担になります。hi ) 給電ループ径を40cmくらいに縮小し、かつ、メインループとの結合度を若干、強めれば3.5 MHz帯でのSWRを1.0まで持って行けそうです。マルチバンド・SLAのインピーダンス整合はクリティカルな要素をもっていますが、ご興味のある方は”jg1pld_sla_swr_v2.0_.xls (2014/09/20)”なども試してみてください。
3.5MHzではRの共振ピークの半値幅(FWHM)が5.1 kHzですのでQU= (共振周波数)/FWHM = 697.となります。7MHzではQU= 365.です。シミュレーションによるQU と比較すると、実測値は計算値の半分程度の値を示しています。つまり、実際のアンテナのQは計算値よりもかなり低いということです。これはワイヤ損失以外に何か別の損失があることを示唆しています。大地による損失、真空バリコンの損失、などが考えられますが、いまだ損失の特定には至っていません。
ともあれ、アンテナの全抵抗:Rと放射抵抗:Rrがわかれば放射効率をRr/R として計算できます。また、実測したQU からR= jX/QU により全抵抗値が得られます。Rrは実測できないので計算値を用いることにして、シミュレーション結果と実測値を比較してみます。
3.5MHz- band | Frequency [MHz] | Bandwidth [kHz] | QU | R [ohms] | Rr [ohms] | Radiation Efficiency [%] |
MMANA simulation | 3.555 | (2.96) | 1200 | 0.179 | 0.018 | 10.1 |
R+jX measurement | 3.555 | 5.1 | 697 | 0.304 | - | 5.6 |
3.5MHzにおいては計算上の放射効率は10%ですが実測値は5%程度であることがわかります。100W入力でも輻射電力は5W程度ということです。それでもモービル用ホイップなどに比べれば十分高い効率であると言っていいでしょう。
7MHz- band | Frequency [MHz] | Bandwidth [kHz] | QU | R [ohms] | Rr [ohms] | Radiation Efficiency [%] |
MMANA simulation | 7.105 | (10.4) | 685 | 0.721 | 0.428 | 59.4 |
R+jX measurement | 7.105 | 19.3 | 368 | 1.34 | - | 31.9 |
7MHzでは計算上の放射効率は約60%ですが実際は30%程度であると見積もられます。これくらいの効率であれば実用上、半波長ダイポールとほぼ対等にわたり合えるレベルかと思われます。
おじさん工房のAPB-3を入手したのでアンテナの通過特性(S21)を測定してみました。この場合、-3dBバンド幅から負荷Q(QL)が求まります。つまり、QL= (共振周波数)/ BW-3dB ということです。アンテナから約10m 離れた位置に直径60cm のワンターンコイル(ピックアップループ)を配置して通過特性を測定しました。(下図参照)
通過特性の測定結果とバンド幅から計算したQ値を以下に示します。
f0 [MHz] | BW-3dB [kHz] | QL | QU (= 2*QL) |
3.551 | 11.2 | 317 | 634 |
7.105 | 35.0 | 203 | 406 |
通過特性から得られたQ値は3.5MHz帯、7MHz帯それぞれについてQU= 634、406 となりました。インピーダンス測定により得られたQ値はQU= 697(3.5MHz帯)、386(7MHz帯)でしたが、通過特性から得られたQ値はこれらにかなり近い値を示しており、QL= QU /2 の関係を再確認したことになります。Q値のずれは3.5MHz帯で-9%、7MHz帯で+10% ですがこれはおそらく長いケーブルの影響によるものと思われます。