自作したデータロガー用マイコンボード(Silicaino)にGM管をつないでガイガーカウンタにしてみました。GM管は浜松:D4345-01、高圧電源&パルス検出回路は20数年前の秋月ポケットガイガーキットに多少手を加えたものです。長期間の定点観測をしようという訳ですが、たまには外に持ち出して使ってみたりするのでアルカリ電池も組込みました。停電対策にもなります。通常はACアダプタで駆動しますが、消費電力は1W程度なので電気代は月20円くらいでしょう。
GM管(D4345-01)の筐体はいちおう絶縁被覆されてますが念のためにクラフト紙を一巻きしその上にアルミ箔を巻いてシールドしてます。上の写真ではアルミ箔しか見えてません。GM管の長さがアノードピンまで含めると24cmと長いのでケースの全長は30cmくらい必要です。その代わりケースの幅を10cm、高さを3cmに抑えました。ケースの枠には断面がコの字型のアルミアングルを使いました。パルスカウントにはATmega328の外部割込(D2ピン)を使います。バッテリーは単3アルカリ電池6本の9V。LCDのバックライトをOFFにしておけば消費電流は10mA程度ですので、電池電圧が6V程度に低下するまで使うとするとざっと200時間は持つ勘定です。
秋月ポケットガイガーキットの高圧回路は600V前後の電圧を発生しますがそのままでは可変できません。そこで昇圧トランス一次側に繋がっているドライバTr(2SD639)のコレクタ電圧を可変する回路を追加しました。また出力電圧の変動(リップル)を減らすため、NE555の発振周波数を14Hzから1400Hzに上げるとともに平滑回路(1MΩ、4700pF)を付け足しました。さらにシュミットトリガIC(4093)のVddが+9Vに配線されていたのを、パタンカットして+5Vラインにつなぎ直しました。わざわざ+9Vに配線してあった理由はおそらく圧電ブザーの音量を上げるためだったのでしょう。
秋月ポケットガイガー基板のEX_out端子から得られるパルスをATmega328の外部割込で検知、カウントします。記録は1分毎に”日付と時刻”、”1分間のカウント数”、”温度”をSDカードに書き込むことにしました。また、データを探しやすくするため、日付(yyyymmdd)をファイル名にして1日分をまとめました。1日分のデータ(60×24=1440組)を書き込んだテキストファイルのサイズは45kBでしたので、例えば10年間では3650ファイル→164MBとなります。SDカードの容量に比べればゴミみたいなもんです。
一方、キャラクタディスプレーへの表示は10秒に1回の頻度で更新しています。表示データは時刻(hh:mm)、温度、カウント率(cpm)、およびカウント率から換算した吸収線量率(μGy/h)です。
ただし表示インターバルが短いことでカウント値のばらつきが大きくなります。このばらつきを抑えるためにアベレージング処理をしています。ここでは、1つ前のカウント表示値を保存しておきこれと最新のカウント値を加重平均して表示する方法をとりました。この方式はCR積分回路を付けたのと等価で、実際は時定数が1分程度に相当するウェイトをかけています。屋内で定点観測する分にはこの程度で十分ですが、屋外でホットスポット探しをするにはもう少し応答速度を上げる必要がありそうです。なお低線量環境での表示線量を実際の値に近づけるため、バックグラウンド補正として換算線量率から0.05μGy/hだけ差し引いて表示しています。この状態でケースの周囲4面を5cm厚鉛ブロックで囲むと線量率の表示が0.02あたりまで下がるので、正確さには欠けるもののそこそこ補正できているようではあります。
長期間、連続データをとろうとするとGM管の安定性が気になります。特に温度変動があるとこれに伴い計数率が上下する傾向が過去にみられました。高圧電源電圧の温度変動というよりはGM管自体の特性が原因のようです。この傾向はアノード電圧を高くするほど顕著でしたので、アノード電圧を低めに設定し、だましだまし使ってきました。今回、適正アノード電圧を確認するため、まずGM管のプラトー特性を測ってみました。0V〜600V可変のDC電源を別途、用意しました。出力電流が10mA程度あり出力インピーダンスは十分低いので、通常のテスターで正確な電圧を読取れます。測定結果を下図に示します。統計誤差を減らすためマントルをGM管の傍においてカウント数を稼ぎました。各アノード電圧に設定後、1分後から5分後までの4分間のカウント数をプロットしたものです。開始電圧が254Vで、400Vくらいまで計数率はほぼフラットです。400Vを超えると計数率が上昇傾向を示すことから、プラトー領域はおおよそ260V〜400Vとみてよいでしょう。
GM管の劣化が進むとプラトー特性にヒステリシスが出てくるといわれてますが、測定結果には顕著なヒステリシスはみられませんでした。ただ、これにはちょっとした測定法のトリックがあって、印加電圧を下げていく方向では開始電圧以下に電圧を落としても(例えば254V→253V)すぐにはカウントは止まらず数10秒かけてゆっくりとカウントがゼロに近づいていきます。上図の測定では電圧変更後1分間待ってから計数開始しているのでこうした現象がマスクされています。
開始電圧でのカウントの立ち上がりがシャープなので、これを目印に秋月ポケットガイガーキット高圧回路出力電圧を推測してみました。高圧電源を秋月ガイガーキットに戻し、昇圧トランス一次側の電源電圧をモニタしながら開始電圧を探りました。開始電圧に対応する一次側電圧は1.93Vでした。このときの二次側電圧が254Vだとすると一次側と二次側の電圧比が1:132となります。昇圧トランスの巻き数比が1:120なのでまあまあ妥当な結果のようです。以降、秋月ポケットガイガーキット高圧回路の出力電圧推定値を「一次側電圧×132」として話を進めます。
プラトー特性を測定できたのでこの範囲で適正印加電圧を探ってみました。部屋の窓を開けっ放しにしておくと室温は一日の間に5〜10℃変化します。ですから一日分のデータをため込めば計数率の温度依存性を把握できます。印加電圧を設定した後は放っておけばいいので楽な測定です。とはいえ、降雨があると環境線量が1〜2割上昇しますので注意が必要です。測定日の空間線量が変化したかどうかは近所の空間線量モニタで確認できます。雨が降らなければ線量は一日中一定と考えて良さそうです。(もちろん原発事故がなければの話ですが。)
アノード電圧:300V、350V、400Vのそれぞれの条件で空間線量の日変化を測ってみました。図中、黄色の線は1分毎のカウント率を30点の移動平均したものです。また赤線は温度依存性の直線近似で近似式も表示しています。アノード電圧はいずれもプラトー領域内にあるのですが、電圧が高いほど計数率の温度依存性が強くなっています。メカニズムは理解できていませんが、とりあえずアノード電圧300Vでしばらく使いつづけてみることにします。
古い文献をみると、使い込んだ(累積計数値が大きな)GM管は計数率の安定性が乏しく、 1.プラトー幅の減少、プラトー勾配の増加、 2.プラトー・ヒステリシスの出現、 3.温度特性の悪化、などの特徴的な症状が現れるとされています。これまで27年間使ってきたGM管(D4345-01)の累積計数値は単純計算で1×109 程度に達しており、かなり寿命に近づいているようです。プラトー特性はわりとまともなように見えますが、開始電圧がえらく低いのが気になります。新品の状態でどうだったのか、当時はそんなこと気にもとめず使っていたものですから何とも比較しようがないのですが。ただ最後に示した計数率の温度特性はGM管の劣化によるものかと思われます。もしそうだとすれば逆の意味で、アノード電圧を変えながら計数率の温度特性を測定することがGM管の劣化判定法として使えるのかも知れません。