追記(2014/09/19)
以下の議論でQの計算値と実測値を比較していますが、計算値が負荷Qなのに対し実測値は無負荷Qであり、解析を間違えたようです。正しくはQ値を負荷Qか無負荷Qのどちらかに統一して比較しなければなりません。無負荷Qに合わせるならば計算値(設計値)のQは336×2=672となり、当然ながら実測値からのロス抵抗見積も違ってきます。このように間違った比較をしたわけですが、このホームページの趣旨に沿い備忘録としてあえて以下の記事を残しておくことにします。 <追記終り>
わが家は軽量鉄骨構造プレハブなので中波放送の電波が入りにくく、AMラジオの置き方に苦労しています。そんな家のベランダにループ径150cmの14、18MHz帯用スモールループ(SLA)を設置しています。同調バリコンは手造りのバタフライ型でエアギャップは4.5mmと高耐圧仕様にしています。電波はそこそこに飛んでくれているようなのですが、どれくらい設計値に近いものなのか確かめてみることにしました。
AA5TBさんがSLAの特性計算エクセルシートを公開しています。(http://aa5tb.com/loop.html) 今回はこれを使わせていただきます。ループの材料は直径1cmの銅パイプです。以下、入力パラメータと計算結果です。
入力パラメータ
ループ直径 | 150 cm |
ループエレメントの直径(太さ) | 1 cm |
周波数:f0 | 14.1 MHz |
計算結果
ループインダクタンス | 4.77 µH |
輻射抵抗:RR | 483 mΩ |
損失抵抗:RL | 147 mΩ |
Q [ = 2πf0 L / 2(RR+RL) ] |
336 |
バンド幅 [ = f0 / Q ] | 42 kHz |
輻射効率 [ = RR/(RR+RL) ] |
76.6 % |
RigExpertのAA-30でアンテナの入力インピーダンスを測定してみます。アンテナ直下での測定は面倒なので同軸ケーブルを介しての測定となりますが、AA-30にはケーブル補正という機能があります。これを使うと生の測定値からケーブル特性を差し引くことができ、擬似的にアンテナ直下で測定したのと同等の結果を見ることができます。ケーブルの正確な長さを入力する必要がありますが実際はケーブル長さ設定値をを細かく変えてみて、SLAの共振点以外で給電ループのインダクタンスが正しく表示されるように調整します。
ケーブル補正してケーブルの共振を消します。給電ループのインダクタンス:L1が1.0μHですのでXsが直線:X=ωL1に近づくようにケーブル長を合わせます。すると、こんなふうになります。
20MHz以上で補正しきれないずれが生じていますが、ケーブルの共振ピークはきれいに消えていて補正がかなりうまくいっていることがわかります。以下のデータはすべてこの補正を行って得たものです。
今回のベランダアンテナはマストが短く屋根に大接近しています。当然、大きな影響を受けるであろうことは予想していましたが、何とか使えてしまっているのでそのままにしてあります。アンテナと屋根の位置関係を模式的に以下に示しますが、屋根の長辺に対しループ面を直角(図A)にするか平行(図B)にするかで特性が大きく変わりました。
A:直角配置
B:平行配置
また、建物の影響を軽減するため、下図のようにアンテナマストを傾け庭のほうに突き出して測定してみました。
C:突出し、直角
D:突出し、平行
上記4つの配置(A, B, C, D)で測定したアンテナ・インピーダンスとSWR特性を以下に示します。Rs共振ピークのシャープさが変化してますね。
A:直角配置
B:平行配置
C:突出し、直角
D:突出し、平行
SLAの入力インピーダンス曲線(Z=Rs + j Xs)からアンテナのバンド幅が求まり、これからQ値を計算できます。Rsピークの半値幅(FWHM)がバンド幅に相当します。また、Rsの最大値とXsの振れ幅(Xsの最大値と最小値の差)は等しく、ωL1k2Qになります。ここでL1は給電ループのインダクタンス、kはメインループと給電ループの結合係数です。詳しくはこちらをご覧ください。
アンテナ配置A、B、C、Dそれぞれについてバンド幅を読み取ると以下のようになりました。共振周波数(f0)をバンド幅で割ればQ値が得られますのでこれも一緒に示します。
バンド幅 | Q | |
(model calc.) | (42 kHz) | (336) |
A | 53 kHz | 266 |
B | 89 kHz | 159 |
C | 45 kHz | 314 |
D | 56 kHz | 252 |
AA5TBさんのSLA特性計算シートで得られたQ値が336でしたから、これに最も近いのは配置Cでした。SLAはそのループ径程度構造物から離して設置すれば近傍電磁界による結合をかなり減らすことができるといわれていますが、配置C、Dの結果を見ると確かにそのようになっていそうな感じです。配置DのQがやや低めですが、建物の影響か地面の影響かは区別できていません。実際の設置条件(配置A、B)では建物に対するループ面の角度によってQが大きく変化しており、鉄骨(導電体)との近傍界結合が強いことを示唆しています。
試しに、MMANAで直角配置と平行配置をシミュレートしてみました。長さ8mの線状導体に対して直角および平行にループアンテナを配置しました。ただし線状導体の材質はメインループと同じく直径1cmの銅パイプとしています。線状導体とループの間隔は50cmです。予想されたことですが、平行配置にするとループと線状導体の近傍界結合が強くなりQが低下する様子(バンド幅の増大)がわかります。この辺りは配置A、Bの測定結果と合っているように見えます。共振周波数も配置の仕方でわずかに変化します。実測値では平行配置にすると共振周波数が20kHzほど高い方向にずれていますが、シミュレーションでは逆の方向にずれています。これはループに対する線状導体の作用がインダクティブかキャパシティブかに依るもので、線状導体の長さをたとえば12m(>λ/2)にしてやると平行配置にしたときの共振周波数が高い方向に約20kHzシフトすることを確認しています。たいへんシンプルなシミュレーションですが実測された現象を定性的には説明できているように思います。
直角配置
平行配置
注)MMANAで計算されるインピーダンスは無負荷時の特性(電源インピーダンスがゼロオーム)ですので、バンド幅は実際の(負荷時特性の)1/2になります。
Qの低下はアンテナの抵抗成分の増加とみることができます。ただし、この抵抗増分の中身が損失抵抗なのか放射抵抗なのかは識別できません。Q値の低下に相当する抵抗増加分(DR)をやはりAA5TBさんのSLA特性計算シートで見積もってみました。A、B、C、Dそれぞれについて実測されたQ値に合うように余分な抵抗を足していきます。結果は下表のようになりました。さらにインピーダンス解析で必要になるループ間の結合係数を見積もってみました。リアクタンス:Xsの振れ幅(最大値と最小値)はωL1(1±k2Q/2)であらわされるのでこれをグラフから読み取り表に示しました。k2Q/2のうち、Qはすでにわかっているので、これからkが求まります。どの配置においてもメインループと給電ループの位置関係は変わっていないので同一のkが得られるはずです。結果は0.098〜0.099とほぼ一定であることを確認できました。
抵抗増分DR | wL1(1±k2Q/2) | 結合係数:k | |
(model calc.) |
(0 mΩ) |
||
A | 165 mΩ | 85 (1±1.24) | 0.098 |
B | 700 mΩ | 85 (1±0.76) | 0.098 |
C | 39 mΩ | 84 (1±1.55) | 0.099 |
D | 209 mΩ | 86 (1±1.28) | 0.099 |
結合係数の大きさの妥当性については実際に測定してみればよいのですが、それは今後の課題としたいと思います。