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6万年ぶりとかの火星の大接近で、望遠鏡が品薄状態とか。宇宙に関しては人類は本
能的にロマンを持ち、探求するものなのだろう。われわれの体を作る一つ一つの元素が、
宇宙で誕生したものであることを考えれば、自分のルーツを知りたいと言う欲求が、遺伝
子の中に組み込まれているのかも知れない。
私も高校以来の天文ファンである。時報の短波放送を聞きながら、ストップウォッチ片手
に掩蔽観測〔星が月の後ろに隠れる〕をしていた頃が懐かしい。以来、自称星空おじさん
として、姫路市内の小学校などを回ったものだ。15年毎の土製の環の消滅も3回目撃した
キャリアもある。
その私は、実は火星の土地を持っている。火星でも比較的温暖で、高等植物も茂ってい
ると言われる(当時はそう思われていた)ソリス・ラクス〔太陽の湖〕地方の東地区である。
面積は十万坪である。この土地は1956地球年に発足した「日本宇宙旅行協会」が分譲し
たもので、協会理事には随筆家の徳川夢声や小説家江戸川乱歩。糸川英夫・村山定男・
宮本正太郎・野尻抱影など、そうそうたるメンバーが並ぶ。
科学尊重・芸術愛好・寛大・無欲・友愛・男女を超越・平和を守ることなどを心得とする会
員に分譲されるこの企画に、新しいもの好きな亡き父が当時5歳の私にと残してくれたも
のである。もちろん今となってはただの紙切れに過ぎないが、父は、はたしてこの土地で
私に何をさせたかったのだろうか。その私は今、群馬の土地でブドウを栽培している。こ
の姿を父は想像していたのだろうか。
久しぶりに星の出た夜、愛用の20センチの望遠鏡で火星を見た。こんな大きな火星は
見た事が無い。何しろ6万年ぶりである。この小さな望遠鏡でも、その極冠まで良く見え
た。植物が茂ると言うソリス・ラクスはどこであろう。十万坪の土地に何を植えよう。火星を
見ながら父を思い出した。 |