番外編 三者三様
樹(いつき)の日記 七月七日 本日は七夕、学園祭の最終日。ダンスパーティ有り。 朝五時半に起床。六時半から生徒会での最終打ち合わせ、並びに用意が始まった。 万事滞りなく進む。しかし一日中働き通し。 それを気づかってくれたのか、綾(あや)が何回も様子を見に来てくれた。 朝も見送ってくれたし、やっぱり綾は優しい。 疲れていたせいか少し眠かった。 真澄(ますみ)にそれを気づかれ、少し寝るように言われる。他に誰もいなかったのでお言葉に甘えて三十分だけ睡眠をとった。 夜のダンスパーティにて真澄が女子に囲まれる。それから逃れるためか、なぜか一緒に踊るはめに。 曲が終わった瞬間、また女子に囲まれることが予想されたので、少しずつ目立たないところに移動しながら、結局ばっくれた。 ダンスパーティが終わるまで、二人で隠れ続ける。 少し、楽しかったかもしれない。なんでかはわからないけど。 明日は後かたづけが残ってる。 綾子(あやこ)の日記 七月七日 今日は七夕であり、学園祭の最終日だった。 樹は生徒会での準備があったからか、五時半頃に起き出したようね。 私を起こさないように息を殺して動いているのが、樹らしかったわ。 あんまり可愛いものだから、寝たふりをしながらその様子をずっと見てた。 樹がこっそりとドアを開けようとした瞬間「いってらっしゃい」とささやいてあげれば、それはもうびっくりな顔をして……それでもちいさく「いってきます」と言った時の樹の表情は、カメラにおさえたいぐらいだったわよ。 その後、昼間も差し入れを手に働きづめの樹のところに通えば、そのたびにすごく歓迎してくれた。 まったく、一緒にいたいからって樹を仕事漬けにするなんて……最低だわあの男。 本日一番の目玉は、なんといってもダンスパーティ。 どうせあの男はたくさんの女に囲まれるだろうから、その間に私が樹と踊ろうと思ってたのに……あいつったら、最初っから樹を独占して。 しかもすぐに二人でどこかに消えるなんて……抜け駆けもいいところよ。 私だって樹と踊りたかったのに。来年こそ踊ってやるわ。 あの男に捕まる前に、私が先約を取り付けるのよ。 とりあえず、明日からしばらくは私が樹を占有してやろうかしら。ダンスパーティのお返しにね! 真澄の日記 七月七日 今日は学園祭の最終日だった。これでらんちき騒ぎが集結するかと思うとほっとした。 最終日ということで、準備や計画確認などにも時間がかかる。 六時半から生徒会メンバーはミーティングだった。 その時点で伸一(しんいち)が半分船をこいでいたが、まあ関係ない。他のメンバーはきちんと起きてたしな。 ただ、樹も少しだけ眠そうだった。ここ数日は会長である俺と行動を共にしてた分、樹にかかる負担も多かっただろう。疲れるのも無理はない。 とりあえずさっさとミーティングを終わらせ、準備と用意にうつる。 昼間の間、なぜか宮小路(みやこうじ)が何度も待機部屋に来た。 「なぜか」と言っても、理由など決まっている。樹だ。 樹の好きそうなものを見つけては、差し入れとして持ってきたらしい。 そして樹に笑顔を、俺にはしかめっ面を残していった。 午後になって、樹が眠そうにしていたので三十分の仮眠を勧める。 よほど眠かったのだろう、素直に言うことを聞いた。その三十分は何も問題が起こらず平和で、俺としても休息の時だった。 夜のダンスパーティは、今回一番のメインイベントらしかったが……俺としてはめんどくさいイベントに他ならない。うざったらしいったらない。 そんなわけで、ダンスパーティ直前に樹を誘う。 疑問そうな顔をしていたので「囲まれるのが嫌だから」と言っておいた。 半分は本当だ。だがもう半分は、樹と踊ってみたかったというのもある。 ……樹自身には全然伝わってないようだが。 曲が変わった時に相手を変えるのが一般的ということで、曲が終わる前に樹とダンスの輪を離れる。 そしてそのままダンス終了まで二人で隠れていた。 怒るかと思っていた樹は逆に嬉しそうだった。 二人で下のダンスの輪とかがり火を見下ろしつつ、とりとめもなく話し続けた。 学祭中の一番の収穫はそこか。苦労したし、当然の権利だと思っておく。 明日残るは片づけのみ。樹を連れてどこかに行こうか。 戻る |