悲しみの物語


 
これは悲しみの物語である。

 主人公は巫女と呼ばれる一人の少女と、彼女を守る誓いをたてた青年騎士。

 ただ側に――。

 それだけが二人の願いだった。それこそが唯一の幸せだった。小さくとも幸せな日々は確かにあった。

 けれど、二人の間に幾多の幸福があろうとも、最後の最後には悲しみが押し寄せ全てを塗りかえる。 

 ……そういう筋書きが出来ていた。
 
 ゆえに、これはまごうことなき悲劇であった。


 救いの巫女は、どうあがいても最後にあるのは別れと覚悟していた。

 狭間の神官は、それが世界の法則なのだと全てを諦めていた。

 他の者はそれを悲しみとは理解していなかったし、一部の者は喜びだとすら信じていた。

 その中でただ一人、忠実なる騎士だけがそれを認めていなかった。

 物語の終わりにあるのは希望なのだと信じ、願い続けていた。

 ――だからこそ、悲劇となるにふさわしいと気づかずに。


 忘れてはならない。これは悲しみの物語である。

 やがて小さな幸せは打ち砕かれる日が来る。

 あまりにささやかすぎるそれを踏みにじるものがくる。





 ……ただ、悲しみの後に何が残るかはまだ決まっていない――。



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